すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「パイの物語」 ヤン・マーテル (カナダ)  <竹書房 単行本> 【Amazon】
貨物船ツシマ丸が沈没し、227日間の漂流生活ののち、無事に生還した16歳の少年ピシン・モントール・パテル、通称パイ・パテルは、インドの動物園経営者の次男として生まれた。 家族は治安不安定なインドを離れ、カナダで暮らすために、カナダの動物園に引き取られる予定になっている動物たちと、1977年7月2日、太平洋を横断する旅に発った。
ブッカー賞受賞作
にえ 2002年度ブッカー賞受賞作で、ヤン・マーテルの初翻訳本です。
すみ 本が出版されたのがカナダだから、カナダの作家さんとしたけど、ヤン・マーテルはスペインに生まれ、その後は外交官である父親に連れられて世界を転々とし、 大人になってからも転々としている人みたいね。
にえ ブッカー賞を受賞した作品はこれまでにもチョコチョコ読んできたけど、これは読む前に、今までの受賞作とはちょっと違うな〜って強く思ったな。
すみ うん、通常よりも大判の本で、表紙もそれっぽいから、図書館や本屋ではYA本コーナーに置かれてしまったりしてるし、内容はといえば少年と動物の漂流記ってことでしょ、 へ〜、そういう子供向けみたいな小説でも、ブッカー賞をとるんだなと意外な気がした。
にえ でも、読んでみたら、なんというか、いい意味でしてやられたね。さすがブッカー賞受賞作、一筋縄ではいかなかった。うん、これは凄い小説だよ。
すみ ブッカー賞は英語で書かれた文学作品を評価する賞で、当然、文章の素晴らしさが最も重要なポイントなんだろうし、翻訳本ではそのへんが判断しきれないわけだから、 賞をとったことじたいをどうの、こうのとは言えないのかもしれないけど、これはもう小説として素晴らしかったよね。私もあんまり期待してなかっただけに、度肝を抜かれてしまったな〜。
にえ こういう小説はもうなんにも言いたくなくなっちゃうな、ただ、騙されたと思って読んでみてよ、としか言いたくないような。
すみ まあ、読み終わってどう思うかはお任せして、最初のうちの話はしてしまっても支障はないから。
にえ そりゃそうなんだけど。それをすっとぼけて話すのも惜しいような、う〜、とにかく今は余韻に押しつぶされそうだっ。
すみ 最初の覚え書きは置いといて、本文は第一部、第二部、第三部に分かれてるんだけど、百ページちょいの第一部は、問題の16歳になるまでの生い立ちというか、それまでにあったことが語られてるの。
にえ その後、海で漂流して助かるってことは、もう前もってわかってるんだよね。
すみ パイの家は動物園を経営していて、父と母、それにラヴィっていう、パイと比べれば真っ当な少年らしい少年の長男がいるの。パイは次男。
にえ パイは変わった子だよね。ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教と3つの宗教を同時に学んだりして。
すみ 私は読みはじめから、うん、この小説はぜったいいいぞって確信したな。含むところの多い豊かさを感じさせるスタートだった。
にえ 無神論者の生物学の先生とか、パイの交友についてもなかなか知的というか、あ、これは楽しいだけの少年の物語とは、ひと味もふた味も違うものだぞってわからせてくれたよね。
すみ この第一部が漂流記となる第二部に大きく反映されていくんだけど、第二部あっての第一部ってことでもなくて、第一部だけでも充分に味わい深い小説だった。
にえ 第二部は巻末の解説によると、スクライアーの「MAX AND THE CATS」という作品を下敷きにしているんだとか。スクライアーのは主人公が豹と漂流する話で、 こっちは主人公がベンガルトラと漂流する話。
すみ 前に読んだ「オババコアック」の剽窃の話を思い出したね。まさに、剽窃から優れた文学が生まれる、の実例だわ。
にえ 要するに、大部分を占めるのは、16才の少年とベンガルトラが救難ボートで227日間も太平洋を漂流する、サバイバルなお話。
すみ これはおもしろそうと思う人と、あんまりそういう少年漂流記みたいなものは読みたくないなと思う人と分かれるところじゃないのかな。 私たちは後者の、あんまり読みたくないなってほうだったよね。
にえ この小説がブッカー賞とってなかったら、いいや、パス、パスってなってただろうね。危なかった。そんな理由で避ける小説じゃないよ、これは。
すみ なんか結局あんまりちゃんと紹介していないような・・・。とにかくこれは強くオススメします。そうそう、ツシマ丸が日本の船ってことで、日本人も出てくるの。これはちょっとこそばゆかった(笑)