すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「オルメイヤーの阿房宮」 ジョウゼフ・コンラッド (イギリス)  <八月舎 単行本> 【Amazon】
植物園の下級官吏として働く父と、裕福なタバコ商人の娘だった過去と今を比べて嘆く母というオランダ人の両親とともに、ジャワの海岸の平屋住宅に住んでいた青年カスパー・オルメイヤーは、 二十年後、ボルネオの東海岸に住む唯一の白人となった。彼は今、同じ白人にさえも小馬鹿にされながら、愛する娘ニーナと巨額の富とともに、ヨーロッパへ凱旋できる日を夢見ていた。
にえ 私たちにとって、「闇の奥」から2冊目のコンラッド作品です。これがデビュー作なんだって。
すみ 「闇の奥」もそんなに長い小説じゃなかったし、これも薄めの本だからと気を抜いていたら、実は小さめの字の二段構えで、きっちり長編小説の長さだったね(笑)
にえ コンラッドはポーランド出身の生粋のポーランド人でありながらフランス語にも精通してたんだけど、さらに努力して英語を学んで、その英語で書いたのがこの小説なのだそうな。 コンラッドの作品はイギリスで出版されているから私たちはイギリスの作家としているけど、イギリス人ではありませんよ〜。
すみ 「オルメイヤーの阿房宮」は、コンラッド作品のなかでは軽量級と言われているんだって。軽い読み物って感じはまったくなかったけど、たしかに「闇の奥」よりとっつきやすいところはあったかも。
にえ そうだね。ストーリーはメリハリがあるし、わかりやすいし、スッキリまとまっていて悩まされるところがないから、変な言い方だけど、普通の小説として楽しめるって感じだった。
すみ この小説はオルメイヤーの視線で語られてるから悲劇的な話になっているけど、娘のニーナの視線からだと、ロマンティックな愛の物語になるよね。そういうのもとっつきやすさの要因かも。
にえ 時代は19世紀後半、場所はボルネオの東岸。ボルネオといえば世界で3番目に大きな島。現在ではインドネシアとマレーシアの領土。東岸はインドネシア領土にあたるのかな。この小説の時はオランダの領土、なのかな。
すみ この小説を読むかぎり、かなり入り組んでたよね。オランダがびっちり統治してるって感じでもなく、マレー人の酋長(ラージャ)がいるし、アラブ人商人がはばをきかせてるし、中国人が働いているし、オランダ人が来たり、イギリス人が来たり。
にえ とにかくボルネオの東岸に住む白人は、オルメイヤー一人なんだよね。この人にはちゃんとモデルがいるそうだから、本当に当時、白人は一人しか住んでなかったと思っていいのかな。
すみ オルメイヤーはヨーロッパに行ったことのない、ヨーロッパを知らない白人、だよね。ジャワ島で生まれ育ち、青年の時に働くため、ボルネオ島に移り住んできたの。
にえ 唯一の白人男性、と聞くと、じゃあ、現地の人たちに嫌われながらも恐れられていたって感じかしら、と単純に考えちゃうけど、オルメイヤーは全人種に小馬鹿にされているような存在だったんだよね。
すみ そういうところの細やかな描写っていうのは、やっぱり当時のその土地のことを本当に知ってる人じゃなきゃ書けないところだよね。マレー人、アラブ人、中国人、白人が混在して、複雑な関係を築いているという背景もそうだけど。
にえ もともとオルメイヤーはボルネオ島に来た当初、倉庫で働いてたんだよね。真面目だけど、これといって取り柄もない、平凡な青年って印象かな。
すみ それがガラッと運命を変えるのは、リンガードという白人男性との出会いだよね。リンガードは「闇の奥」のクルツとちょっとダブるところがあったな。人種を問わず尊敬されるカリスマ性があって、海の王と呼ばれていたの。
にえ なぜだかリンガードはオルメイヤーを気に入ってしまうのよね。
すみ 経緯その他はおもしろいところだからここでは話さないけど、とにかくオルメイヤーはマレー人の女性と愛のない結婚をして、リンガード亡き後、リンガードが見つけたという金脈かなにかを発掘するかなにかして、 大金持ちになってヨーロッパに凱旋したいと思ってるの。
にえ その思惑に、酋長やデインというバリの王子であるべきなのに商人に身をやつす青年、などなどが絡み合い、話が複雑になっていくのよね。
すみ 話をもっと複雑にするのが、オルメイヤーの娘ニーナの存在よ。ニーナはオランダ人とマレー人の混血で、しかも驚くほどの美女。
にえ ニーナが白人から、しょせん混血と言われたり、マレー人から白いお嬢様と呼ばれたりするところにも、時代背景を感じたね。
すみ ニーナは両親その他の複雑な人間関係に翻弄され、不幸な少女時代を過ごしているのよね。そのうえ、当時としては珍しいハーフという住んでる世界から浮いたような存在だから、人格形成にかなり影響が出ているみたい。
にえ あとは忘れがたいのが、奴隷の少女タミナの存在だったな。ある男性を愛するんだけど、彼女が望むのは、その男性の奴隷になることなのよ。奴隷という身分にまったく疑問を感じてないのよね。
すみ ということで、今時の小説と比べちゃうとサラサラッと、とはいかないまでも、「闇の奥」より理解しやすく、ストーリーも魅力あり、で良かったですよ。興味のある人にはオススメします。