すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「闇の奥」 ジョウゼフ・コンラッド (イギリス)  <近代文芸社 単行本> 【Amazon】
船乗り仲間のマーロウはどこまでが真実かわからないが、船の上ではとても魅力的な語り手だった。 マーロウは仲間たちに向かい、長い物語を語りはじめた。それは彼自身が経験した過去の記憶…。 突然のアフリカへの衝動に駆られたマーロウは、貿易会社に船長となるべく職を求め、コンゴ川下流の 出張所に赴いた。亡くなった船長に代わって新しい船長となったマーロウは、川を上り、ひたすら アフリカの奥へ、奥へと突き進んだ。息苦しい旅の中、どこの河岸に寄っても、聞くのは一人の男の噂話ばかりだった。 一番奥地の出張所にいるクルツという男の話だ。他のすべての出張所を合わせても勝るほどの象牙を集めることができ、 神のように崇められ、悪魔のように怖れられる男。死に直面しながらも船を進め、クルツのもとにたどりついたマーロウが見たものは…。
にえ コッポラの映画「地獄の黙示録」のヒントとなったことで有名なコンラッドの「闇の奥」です。
すみ これで私たちは、「金枝篇」と「闇の奥」、映画「地獄の黙示録」のヒントとなった本を 両方読んだことになるけど、まだ「地獄の黙示録」を観てないのよね(笑)
にえ まあ、それはいいとして。「闇の奥」というと岩波文庫って感じなんですが、 訳がちょっと古いのでしょうがないんだけど、文章が難しかったりするので、私たちはあえて2001年に出た、近代文芸社の新訳を 読んでみました。
すみ 女性の翻訳者さんが、意識して翻訳したってこともあってか、かなり読みやすかったよね。
にえ 読みやすいけど、文章からこっちに押してくるような迫力は充分だった。
すみ そうそう、文章に圧倒されてストーリー追えなくなって、何度か戻って読み返しちゃった(笑)
にえ 100年も前に書かれた、未開の地アフリカの恐怖の物語ってイメージがあったから、 読む前はアフリカの人たちを得体の知れない怖ろしい生き物のように書いちゃってるのかな、なんて覚悟して読んだけど、 けっしてそういう風ではなかったよね。
すみ うん、人食い人種とか出てきて、人種差別的ではないとは言えないけど、 たとえばマーロウの前任の船長の話とか、かなり同情的というか、理解をしめすようなことも書かれてるから、嫌悪感はなかったな。
にえ マーロウの前任の船長は、おとなしくてまじめな男だったんだけど、 自分の思い通りにしないからって族長を棒で殴って殺し、そのために怒りで我を忘れた族長の息子に殺されてるのよね。
すみ そういう白人たちとアフリカの人々のあいだに理解しようともしてない壁があるって 記述は随所に見られた気がする。
にえ 船長となったマーロウは、人食い人種を船員として雇い、なにがあってもおかしく ないようなアフリカの奥地へと進んでいくのよね。
すみ 人食い人種たちは飢えているけど白人を襲わない、逆に、一緒の船に乗っている 巡礼たちは、自分たちが食べられてしまうのではないかと怯える、そういう皮肉もあった。
にえ 船旅の描写が迫力だった。一緒に船に乗って、いつなにが襲ってくるかわからない 鬱蒼としたジャングルを抜け、河を上っているような気になって息が詰まってくるようだった。
すみ マーロウは、貿易会社の出張所に寄るんだけど、聞くのはクルツって男の噂話ばかりなのよね。
にえ 出世は間違いない優秀な社員、言うことがことごとく啓示的な、神のような人格、 はたまた、ジャングルの奥で支配者となり、人を殺すこともいとわない恐怖の男。聞けば聞くほど謎が深まる男なの。
すみ 聞きたくもないのにクルツの噂話ばかり聞かされるから、最初のうちは反感を持ってた マーロウも、いつしかクルツに興味を持ちはじめるのよね。
にえ クルツという闇とアフリカの闇にどんどん踏み込んでいくしかないマーロウは、いつしか 聞いたこともないクルツの声が聞こえるようになってくる。
すみ 最初の方に、アフリカへ向かう白人たちと狂気を結びつけたがる医師が出てきたけど、 だんだんとその意味もわかってくるよね。
にえ クルツって人は実在するんだけど、マーロウにとって、クルツはもはや人ではなく、 クルツ自身が闇だったって気がした。
すみ ラストのクルツの婚約者とマーロウの会話に、女性差別だという人もいるそうだけど、 それは感じなかったよね。
にえ あれはクルツという男が、まわりの人々によって神格化され、クルツ自身の 人格は見失われてしまったことへの象徴だと私は思ったけど。
すみ やっぱり一番怖いのは人の心の闇でした。ってことで、長編というより、中編か長めの短編ぐらいの ページ数しかないし、まだの方は試しに読んでみる価値ありだと思いましたよ。