すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ユリシーズ W」 ジェイムズ・ジョイス (アイルランド)  <集英社 文庫本> 【Amazon】(1) (2) (3) (4)
20世紀文学の最高傑作とも謳われるジェイムズ・ジョイス(1882〜1941年)の「ユリシーズ」翻訳本が、4分冊で文庫化。
舞台はダブリン、時は1904年6月16日。これはたった一日に起きた出来事である。
にえ いよいよ最後になりました、4冊目です。
すみ これは1冊まるごと第三部なのよね。第三部は三つの章に分かれてて、これでホントにもうおしまいっ。
にえ でもさあ、正直なところ、疑問ばかりが残って、なんか不完全燃焼的な読了だったよね。
すみ そうだねえ、これもまた再読、再読となっていく要因のひとつなのか、私たちの受け取り方が根本から間違っているのか。
にえ 結論を言うと、変な小説だった、わけわかんなかった、でもちょっと面白かった、わからないなりに意外と楽しんだよってところかな(笑)
すみ 私はそうだなあ、こんな機会でもないと読まずに終わっちゃったかもしれないから、とにかく読むきっかけを得て、一度は読んだという事実ができてよかった。 でも、あとでまたいろいろ気になりそう。我慢できなくて再読することになる日が怖い。そんなところかな(笑)
にえ 難解だろう、読むのが大変だろうってのが読む前からあって、その心配がすごくあったんだけど、読みおえると、別の問題浮上というか、スッキリしないし、こんなもん二度と読むかと投げることもできないような状態に置かれてしまったよね。
すみ この先は、あまたある研究書に手を伸ばすしかないのかしら。そこまでのめりこむべきなのかしら、分厚い文庫本4冊も読まされても、好きかどうかもわからないこの作家に?!(笑) ということで、私たちはあえてオススメはしません。でも、ホント読むには良い機会だよね〜、なんて言ってみたりして。
にえ ではでは、内容に入りましょう。ストーリーを知りたくない方はこの先は読まないでね。
すみ 第三部16.エウマイオスから。時刻は午前1時。そうそう、最初に一日の出来事って言ったけど、これは24時間制じゃなくて、主要な登場人物が起きてから寝るまでってことだからね。 で、場所は馭者溜まりの喫茶店。15で兵隊に殴り倒されたスティーヴンをブルームが助け起こし、ここに連れてきたの。
にえ もったいぶった文体ということだけど、ここは普通に読みやすかったね。喫茶店には老船員や馭者がいて、政治の話とか、船乗りらしい法螺話をしてた。法螺話はそれなりにおもしろかったけど、政治の話は歴史的背景がわかってないから、 今ひとつ理解できなかったな、情けないことに。
すみ 事件の話は興味深かったよね。そこから派生した話に出てきたティッチボーン事件なんて、よく知らなかったから訳注に、へ〜なんて言ってしまった。
にえ 行方不明になっていた富豪の貴族の息子が現われるけど、じつは偽者だったってやつね。あれは私もへ〜と思った。それを題材に推理小説がたくさん生まれたのね。
すみ ブルームはスティーヴンにユダヤ人について語ってた。そんなこんなから、なぜか奥さんの写真を見せて綺麗だろーなんて自慢することになり…。このへんは不思議な心理だよね。奥さんが浮気してるみたいだと疑ってるみたいだし、 自分もエロ本買ったり、少女を見ながら自慰行為をやったりしながら、血気盛んな青年に奥さんの美貌を自慢げに見せびらかし。
にえ う〜ん。自分はもうダメだけど、他の男が奥さんにムラムラッとすると、こういう奥さんを持ってるってことで自尊心が慰められるとか? それとも敵にしかならない男と浮気されるぐらいなら、 いっそお気に入りの、自分の手の内で収まるような男をあてがいたいとか?
すみ わかったような、わからないような。とにかく変な人だねえ。とにかくブルームは、スティーヴンが父親譲りの美声の持ち主だと知っていて、 スティーヴンを口説いて歌手に仕立て上げ、一攫千金をもくろんでるみたいなの。気の早いことに、一流の人たちに囲まれたスティーヴンの晴れ姿を想像したり、自分が金持ちになったらどうするか計画を練ったり、頭の中は大忙し。
にえ 16は、そんなものかな。17.イタケは午前2時、場所はブルームの自宅。ブルームは行き場をなくしたスティーヴンを自分の家に泊めようと連れて帰ってきたの。
すみ ここは問答形式になってるのよね。何々は何々か? という簡潔な質問、それにたいする数行の答え、で、一行あいて、また質問と答え、と繰り返しで話が進んでいく。
にえ 学術的な雰囲気を醸しだしてたよね。その学術的ってのをちゃかしているような内容のところが多々あって、吹き出しちゃうんだけど。たとえば、水道の蛇口をひねったあとには「水は出たか?」って質問があって、 それに対して水道に水が流れてくる過程の詳細な説明があったり。
すみ それだったら、私は年齢差を比率で考えるところに笑ってしまったな。簡単に言えば、1883年にスティーヴンが1才、ブルームが17才だったときの比率が1:17、1904年現在にも同じ比率だとしたら、スティーヴンは22才だから、ブルームは374才のはず、だって。 くだらな〜い、でも、私もそういうこと考えたことある〜。
にえ ところでところで、この日にあった、パトリック・ディグナムの葬式の話があったでしょ。あそこで出席者が羅列されたなかに、パトリック・ディグナムの長男もいたじゃない。それでパトリック・ディグナムの長男の名前は同じパトリック・ディグナムだってわかるんだけど、 だったら、12でパトリック・ディグナムが歩いているのを見たって言ってた人がいたのは、死んだパトリック・ディグナムのことじゃなくて、息子のパトリック・ディグナムのことを言ってたんじゃないの。
すみ かもね〜。いろいろそういう細かいところを見つけられるのが、この本の楽しいところだよね。とにかくここでのお話としては、ブルームはスティーヴンを説得して、妻モリーに声楽のレッスンを受けさせる約束をして、 スティーヴンは泊まらずに出ていき、ブルームは寝ることに。
にえ そして18.ペネロペイアへ。これがオーラス、最終章。時刻は午前2時半、場所はブルームの家の寝室。
すみ ここはブルームの妻モリーの一人語りなんだけど、とにかく凄い文章だよね。句読点がまったくなく、スペースなんてあけてもらえず、文章はひたすらつながっていて、しかも漢字は「食じ」「亭ぱく関ぱく」「教いく」ってな感じにいいかげんだし、 口語体なうえに、時々言葉を間違ってさえいて、なかなか読み終わらなかった。
にえ ほんと、進まなかったね〜。最後だし、あとこのくらいの時間で読みおえられるだろうなって、この章を読む前は予想を立てたんだけど、その4倍はかかったな。
すみ まあ、最後だから、難関もなにも、ここで読み止める人はいないと思うんだけど。ここまで来たらもう意地だよね(笑) あと、文章の途中にやたらと「yes」って入って、これはいろんな解釈があるそうなんだけど、 私は女性の回想ってことで、「そうよ」「そうそう」ぐらいの感じの、自然に入るものと思って、特別気にならなかったんだけど。
にえ モリーは眠れず、ひたすらブルームとの出会いや結婚、前の恋人、読んだ本、などなどの回想にひたっているのだけど・・・。
すみ ここでようやく、モリーはヒュー・ボイランとの情事を今日からスタートさせたわけではなく、前々からそういうことをしていたらしいってわかった。
にえ そうそう、というのは、これまではエッチなお話は、破廉恥ではあっても、どこか婉曲というか、まだぼやけていたり、おふざけっぽかったりしたんだけど、 このモリーの語りは露骨で、わかりやすいというか、モロというか、そういう感じなのよね〜。
すみ しかも微に入り細にわたりでしょう。シモのことも赤裸々というか、露骨に言葉にするし、豊満な胸については偏執しているとしか思えないような語りようだったし。
にえ とにかくモリーは異常としか思えなかったよね。この語りをそのまま受けとると、男はみんな自分といやらしい関係になりたいと望んでるって思っていて、 いやらしいわと言いながら、自分自身も男性を見ると、そういう想像しかしないみたいで。
すみ 学生から、問診中の医者から、誰にたいしてもそうだったよね。ここまで精神的に異常だと、更年期障害なのかとも思ったけど、話の途中で生理になったから、それも違った。
にえ そうなると単純に解釈すれば、妻モリーは異常に高い性欲の持ち主で、それはもう病気であると断定していいほどで、夫であるブルームのこれまでの行動は、 妻の精神的な病が原因だったから、ってことになるんだけど、それではあまりにも文学的でないような(笑)
すみ でもさあ、解説を読むと、夫が息子を亡くしたときから夫婦生活がなくなって、モリーはそのために欲求不満になっているんだって説もあるみたいだけど、それは違うって気はするよね。 この時点では、モリーの性欲は満たされた直後なはずだし、欲求不満なだけでここまで病的にはならないと思う。ぜったい病んでるよ、この人は。
にえ 過度な性欲という病におかされた妻と、それを知りながら夫婦生活を持てない後ろめたさも手伝って、容認し、なおかつ新しい愛人まで与えようとしている夫。う〜ん、本当にそんな話だったのか? これがオチ?(笑)
すみ まあ、とにかく妻の情事をゆるす夫、女の異常なまでの性欲を書くこと、この時代にはタブーなものだよね。それだけでも衝撃作かも。 こんな夫婦に関わり合って、これからスティーヴンはどうなるのでしょう、なんて心配しつつ終了。・・・ってなんか複雑(笑)
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