=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「六月の組曲」 ジュリア・グラス (アメリカ)
<DHC 単行本> 【Amazon】
1989年6月、妻に先立たれたポールはギリシア旅行へ出掛けた。彼らしくもない団体旅行への参加だった。ツアーガイドの青年と親しくなり、絵を描く若い娘に心惹かれたりもしたが、思い出すのは妻モーリーンとの出会い、そして過ごした日々だった。 1995年6月、父を亡くしたフェンノは、帰郷して二人の弟と葬儀の準備を進めながら、エイズで亡くなった友人アルと恋人トニーのことを思い出していた。1999年6月、夫を亡くし、新しい恋人によって妊娠したファーンは、以前に恋人だったトニーと過ごしながら、 これからのことを考えていた。 2002年全米図書賞受賞作品 | |
2002年度の全米図書賞受賞作品ということで読んでみました。女性の作家さんです。 | |
驚くほど長い小説だったよね。500ページ弱で二段構え。 | |
ゆったりとした流れの小説だから、よけい長さを意識したっていうのもあるんじゃないの。 | |
そうだね。本当にゆったりというか、どんどんページをめくりたくなるような、起伏のあるストーリー展開ではないの。 | |
だったら途中で飽きちゃいそうなものだけど、なんか惹かれるものがあって、最後までペースを落とさずに読んじゃったよね。 | |
死と喪失感、肉親だからこそ完全に理解しあえない歯がゆさ、しっとりとした美しさ、なんかそういうものに魅了された。でも、 長いなあと思ってしまう。つまり私は微妙だったのかも(笑) | |
まあ、他人に勧めづらい小説ではあるよね。ただ、小説を読んだあとで巻末の解説を読んだら、作者自身が妹の突然の自殺や自身の癌という、 死に直面している経験、それに画家でもあったこと、そういったものが凝縮され、小説に昇華されたんだなと納得した、というか、まさにそういう感情的にリアルなところに魅力があった。 | |
あと、妹さんが獣医だったことや、自身がエイズ患者のペットを保護する団体の活動をしていたこと、それに、両親がイギリスからの移民であること、その両親が猟犬に深く関わってきたこと、 等々もでしょ。 | |
うん、それらすべてが、そのままではなく、まったく形を変え、新たな設定のもとで小説となっていた、だから惹かれたんだと思う。 | |
この本は、三章に分かれていて、登場人物は共通するんだけど、章のそれぞれが独立した小説のようになっているのよね。 | |
視線も変るしね。第一章は「コリーたち―1989年6月―」という題名になってて、ポールという老境にさしかかった男性の視線で書かれてるの。 | |
もともとこの第一章は独立した小説で、1999年にトバイアス・ウルフ・アウォード賞を受賞してるんだよね。これに残りの2章が加えられて、2002年に全米図書賞を受賞、と破格の認められ方。 | |
ポールはスコットランドの地方新聞社の経営者で、これは父の代から受け継いだもの。妻を亡くしているんだけど、その妻モーリーンは、ポールの家と比べるとだいぶ貧しい家の出で、結婚してからはコリー犬のブリーダーになってるの。 | |
30才ぐらいで結婚してるんだよね。戦後すぐの話だから、晩婚のうちに入るよね。モーリーンはかなり独立心旺盛な、自由を愛する女性だったみたい。溌剌としていて、辛辣でもあり。 | |
フェンノ、デヴィッド、デニスって3人の息子がいるんだよね。フェンノは同性愛者で、ニューヨークの書店経営、デヴィッドとデニスは双子で、デヴィッドは地元に残って獣医となり、 デニスはフランス人女性と結婚して、レストランを経営する料理人となっているの。 | |
第一章は、ポールが団体旅行に参加し、ギリシアを旅して回る話。思い出と旅の様子が交互に出てくるんだよね。とにかく旅行にしても、思い出にしても、強い印象を残すような出来事があったわけじゃないから、 こういう話、って説明するのは難しいんだけど。 | |
第二章「まっすぐに―1995年6月―」は、ポールの長男フェンノの視線で語られてるの。フェンノは同性愛者で、ニューヨーク・タイムズの主任音楽評論家だったマルという男性の死を看取り、トニーという恋人がいるんだけど。あ、 登場人物に同性愛者がいると、私たち同様どうしても気になる方がいると思うんだけど、細かくねちねちと性描写をしてるってことはないのでご安心を。 | |
フェンノは父親のポールには壁をつくって理解しあえないような関係になっていて、二人の弟の内のデヴィッドのことを心のどこかで嫌い、もう一人の弟デニスは好きだけど、その妻のことは嫌っているのよね。 | |
なんか自分で壁を張り巡らせていて、そのことに気づかないようなところもあるよね。赤の他人には優しくて、慎み深くていい人なんだけど、家族には冷たく感じられてしまうような。 | |
そして第三章「男の子たち―1999年6月―」は、ファーンという女性の視線で語られてて、このファーンっていうのは、ポールがギリシア旅行で知り合った若い女性であり、 トニーの昔の恋人でもあるのよね。 | |
とにかく焦点のあわせづらい小説ではあるんだけど、とても細やかさを感じるというか、ゆっくりと心の襞の隅々まで浮かび上がらせていくような、デリケートな小説なの。 | |
ストーリーに大きな起伏はなく、ゆるやかな流れのなかで登場人物たちが浮き彫りにされていくような小説だから、好みは分かれるんじゃないかな。でも、本当に丁寧に、丁寧に書かれていて、全米図書賞をとったことに、 ものすごく納得する小説でもあった。好きそうだったら、どうぞ。 | |