すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「グリフィンの年」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ (イギリス)  <東京創元社 文庫本> 【Amazon】
チェズニー氏の巡礼観光会に苦しめられることがなくなってから8年経ち、ダークホルムは落ち着きを取り戻していた。 しかし、年かさの魔術師たちが引退し、若いコーコランに任された魔法師大学は経営難に陥っていた。なんとしても、新入生の親たちから 寄付金を集め、収入を得なければ、壊れた屋根ひとつ直せない。幸い、今年の新入生には、皇太子や大学初のドワーフ、ダーク一家の娘なども 含まれていて、多額の寄付金が期待できそうだった。ところが、蓋を開けてみればそれぞれに事情があり、どうやら親に寄付は頼みづらいようす、 しかもコーコランが驚いたことに、一番期待していたダークの娘は金色のグリフィンだった。
 「ダークホルムの闇の君」の続編です。
にえ これは、前に読んだ「ダークホルムの闇の君」の続編で、2作あわせて<ダークホルム二部作>となります。
すみ もっと続けても良さそうなものなのにね。2作で終わりとはもったいない。
にえ 「ダークホルムの闇の君」はどういう世界の話なのかを説明する必要があって、読んでいてその説明、説明の連続にちょっと うんざりして、作品世界に入りづらいってところがあったけど、さすがにこの続編では、そういうのがなくなってストーリーを追うことに専念できたよね。
すみ お話じたいは続きって感じじゃないんだけどね、同じ世界の8年後で、共通する登場人物もたくさん出てくるけど、 完全に独立したお話。
にえ 私はどうも全作でも会話部分の独特の口調がなじめなくて、今回もちょっと苦戦したけど、後半はそれほど気にならずに楽しめたかな。
すみ ばりばりのファンタジーだからねぇ。
にえ 今回の舞台は魔法師大学、学園ものってかんじだよね。読んでる人はハリポタと多少ながらも比べちゃうところはあるのかな。
すみ 主人公はダークの娘で、グリフィンのエルダ。なぜ人間の娘がグリフィンなのかといえば、ダークが、ダーク夫妻と鷲と獅子と猫を少しずつ取って、 卵に入れて孵してできたのがグリフィンのエルダだから。
にえ 前作を読んでればわかることだけど、エルダには、グリフィンの兄姉もいれば、人間の兄姉もいるの。
すみ ちなみに前作で、ダークとともに主人公級だったダークの息子ブレイドは、すっかり大人っぽくなって、 ダークホルムの偉大な魔術師の一人として名を連ねてます。
にえ 前作で活躍した、グリフィンのビジンは、今回は登場しなかったね。名前が出てきただけで。それはちょっと寂しかった。
すみ で、大学に入ったエルダの担当教諭はコーコランになるんだけど、同じコーコランの担当には、他に5人の個性的、かつ訳ありな新入生が。
にえ まず北の王国ルテリアの皇太子であるルーキン。じつはルテリアはとても貧しい国で、しかもルーキンは国王に内緒で、 こっそり魔法師大学にやってきたの。
すみ それから、オルガ。オルガはなかなかの美人で、身につけているものもかなり高価なんだけど、なんだか 自分の素性については隠したがっているの。
にえ それに、南の皇帝の別腹の妹、クラウディア。クラウディアの母親は沼族の出身で、王国からは追い出されてしまっていて、 クラウディアも兄とは仲良しだけど、国をしきっている元老院には憎まれて、命さえも狙われているみたい。
すみ フェリムは東の首長国の出身。なぜだか首長に刺客を放たれているらしくて、大学にいることがばれると、 刺客がやってきて、始末されちゃうらしいの。
にえ そして、ドワーフのラスキン。ドワーフたちは金持ちのはずなんだけど、ラスキンは奴隷階級で、 革命を起こすために、こっそり魔法を学びに来ているの。
すみ エルダもまた、ダークには秘密で、大学に来ているのよね。前作によるとダークは問題を起こして大学を放校された過去があって、 大学教育にはあまり賛同していないみたい。
にえ ということで、みんな訳ありで、大学にいることは秘密にしたいところなのに、寄付金が欲しいコーコランは大学にいる娘、息子のために 寄付をしてくれと、みんなの家族に手紙を出しちゃって、それで大学は大変な大騒ぎに巻き込まれることに。
すみ そのほかにも、このところの大学の実践や思考を伴わない、詰め込み式の教育に疑問を感じて、6人だけで勉強を進めたり、 いろんな個人の問題をみんなで解決したり、淡い恋が始まったりと、まさに学園ドラマ、よね。
にえ ファンタジー好きにはオススメの、楽しい、楽しいお話でしょ。ファンタジー苦手な人には、ちょっと勧めづらいかな。 私はギリだった(笑)
すみ 楽しい学園ものファンタジーでありながら、この奥行きの深さはさすがダイアナ・ウィン・ジョーンズ、そして、こういう作品にも 教育批判的なものなんか含めて、ちょっと社会派なところがあるのはさすがイギリスもの、ということで、ごく上質のファンタジーでした。