すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「血の絆」 A.J.クィネル  (国籍不明)   <新潮社 文庫本> 【Amazon】
もともとはモデルとして雇われた会社で簿記係として働き20年、39歳の未亡人カースティは、 家出した息子の溺死を知らされる。しかし、息子は死んでいないことを直感したカースティは、 すべてを捨て、単身でニューヨークからアフリカに旅立つ。そこで出会った石油掘削人ケイディ、 ボンベイ税関の中年簿記係ラメッシュ、中国系スマトラ人の少女ラニーの4人で、おんぼろヨットを 駆使して、息子を捜し、インド洋を航海することになった。
<おまけ>2001年クィネル氏来日講演
にえ クィネルさんは講演を聞いたとき、素朴で、人間を愛してる人 なんだなあってすごく感じたけど、これはその感じたそのままの小説だったよね。
すみ 裏切られなかった〜。冒険小説っていっても、人と人の思いや りとか、つながりとかが書かれてて、けっしてストーリーばかりが先走ってなかったよね。
にえ やさしさが溢れてて、読んでてものすごく気持ちよかった。 やさしいけどヤワでもなく、薄っぺらくもないのよね。
すみ 予想してたようなゴツゴツの骨太じゃなかったね。登場人 物がみんなすごくナイーヴで、悩みながら、時には恐れながら進んでいくから素直に共感できた。
にえ それにさ、まったく違う人生を歩んできた四人が、気遣いあって、 尊敬しあってるのよね。
すみ カースティは自分が美人だってことがわかってて、それを過大 評価もしてなければ、低くも見ず、ちゃんと自分を把握してて、その上で男の人と接してるでしょ、あの辺 がすごくかっこよかった。
にえ オロオロしたり、メソメソしたりしないから、安心して読めた よね。女の人が主人公の冒険小説って聞くと、それが心配になるのよね。ヒステリックに泣きわめくのは 勘弁してほしい。カースティぐらい気丈でないと。
すみ 私はケイディがかわいくて好きだったな。大男で、ハンサムなん だけど、実はそれで女の人とうまくつきあえないの。
にえ 喧嘩も強いし、しゃべり方も荒いけど、実は純情だし、本をたく さん読んでて、隠れ文学青年だったりもするのよね。
すみ ラメッシュはインド人の父とイギリス人の母から生まれた混血の ために、おとなしく、目立たないように暮らすことを強いられてきたんだけど、本当は芯の強い人なのよね。 それが旅をしていくうちに表に出てくる。
にえ でも礼儀正しいし、恥ずかしがり屋のところもあって、その辺 は変わらないの。そういうところがいいよね。
すみ ラニーはすごく強いよね。苦労してきたんだけど、明るくて、 ひねくれてもいないし、絶対負けてない。
にえ ラニーもメソメソしないから、これまたよかった(笑)
すみ で、冒険の途中で出会う人たちがまた、みんなすごく思いやり があって、それがまた読んでてホロッと来るのよね。
にえ 善人は善人、悪人は悪人ってハッキリ分かれてて、裏切りとか、 いい人が突然死んじゃうとか虐げられるとか、そういう不快になるところがなかったね。
すみ 最近ひねたのばっかり読んでたから、それがすごく新鮮で心地 よかった。変な頭使わないで、本のなかの世界に安心してひたれたよ。
にえ ひたれるといえば、途中で立ち寄るインド洋の島々の自然の 美しさだよね。
すみ 海に沈む夕陽とか、カジキ釣りとか、鳥たちとか、自分で 本当に見たり、触ったりしてるような気分にさせられたよね。
にえ やっぱりこの辺は、じっさいに見てきてから書くクィネル さんよね。見てないとここまでリアルに美しくは書けないよ。
すみ 海の驚異とか、船の機械的なこととか、きっちり書き込めて るのはさすがよね。
にえ 銃撃戦とか、ちゃんと盛り上げるところは盛り上げてたしね。 最初から最後まで夢中で読めた。冒険が終ったあとのことまできちんと書いててくれて、思わせぶりで終ら せたりしないところに誠実さを感じたよ。
すみ 善悪きっちりとか、はっきりしたラストとか、いつも私たちが いいって言ってるものの真逆を見せられて、こういうのもOKだな、充分楽しめるんだなって教えられた感 じ。
にえ ふだん冒険小説を読まない私たちみたいなタイプでも、抵抗なく 読める本だったよね。大満足。ああ、インド洋の小島で暮らした〜い(笑)