すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「コレクションズ」 ジョナサン・フランゼン (アメリカ)  <新潮社 単行本> 【Amazon】
老人が支配する郊外の町セント・ジュードで、50年連れ添った夫アルフレッドと二人きりで暮らす イーニッド・ランバートにとっては、家族がそろうクリスマスだけが楽しみだった。夫のアルフレッドは 鉄道会社を退職している元技術者で、パーキンソン病を患って痴呆症が出はじめている。ぎりぎりの生活で 医療費も不安なのだが、かつて特許をとっていた技術がやっと企業に買い取られることになったのに、 アルフレッドは言い値でいいと興味をしめさない。長男のゲイリーは地方銀行の部長で、社会的にも経済的 には恵まれているのだが、家庭内では三人の息子をめぐり、妻と権力争いに疲れ果てている。次男のチップ は大学で先鋭的な文学理論を講じ、あと少しで永年教授となれるところだったのに、女子学生と関係を 持って辞職に追いやられ、そこからはまさに転落人生をたどっている。末っ子で一人娘のデニースは、 美貌の新進気鋭シェフとして活躍しているが、結婚や恋愛の面では波乱の連続だった。 それぞれが気まずい思いを抱え、失われかけた家族の絆を、最後のクリスマスで修正(コレクションズ)できるのか。
2001年全米図書賞受賞作品
にえ 2001年全米図書賞受賞作品で、アメリカで注目の作家ジョナサン・フランゼンの 初邦訳作品です。
すみ 家族の悲喜劇って宣伝文句にあったけど、分厚い見かけからは想像できないぐらい、 たいした悲劇も喜劇もなく、ジメジメとネチネチと生活に倦んでいる、特別じゃない人たちの話だったよね。
にえ 途中で妙に小難しい科学の話や経済の話が挿入されてるのは、最近の アメリカ文学の流行りなのかしら。
すみ それを除くと、かなり地味地味しい話ではあるのよね。家族それぞれの生活を描写した 文章が大部分を占めるんだけど、アルフレッドとイーニッドの生活なんて、とにかく頑固で看病しづらい夫と、 息子や娘のことを自慢するのが生き甲斐の妻の、まあ、平凡な郊外での暮らし。
にえ アルフレッドの頭の中はなかなか凄いものがあったけどね。ボケで幻覚が出はじめ てるんだけど、過去のいろんなことがごっちゃになった末に、ウンコが襲ってきたりして。
すみ 長男のゲイリーは、ほとんど家庭生活の話なんだけど、これがまた息苦しかったよね。奥さんはなんか 新しい子育て方にはまってて、子供と一緒に遊んでばかりで、食事は作らないし、躾はしないし。
にえ 姑のイーニッドのことを異常なほど毛嫌いしてるのよね。これは両親が訪ねてきたときだけ、 両親の気に入るような生活をしているふりをするゲイリーに自分のことを否定されてるような気がして、その反発からきてるみたいなんだけど。
すみ 夫婦がおたがいに経済的に自立してるから、どうしても主導権の奪い合いになっちゃうんだろうね。
にえ ゲイリーはひどい守銭奴で、母親に頼まれた少額の買い物にすら自分の金を出さずに、 母親に請求しちゃうセコさなんだけど、これまた母親の影響からできあがっちゃった性格だから、責めきれないものがあった。
すみ 次男のチップの話がまあ、一番楽しいといえば、楽しかったかな。典型的な転落人生なんだけど、 スカウトされてリトアニアに行って、と波瀾万丈の予感。
にえ 末娘のデニースは頭もよくて美人で、とっても負けず嫌いで、がんばり屋さんだけど、 なんか甘やかされた娘って印象が残るよね。
すみ 言ってることは正しいけど、相手に言ってることを自分ができるのかって 内省につながってないから、説得力に欠けるかな。
にえ なんかみんな、微妙に嫌いなんだけど、どこか客観的に見た自分の姿に似たところが あるような気がして、嫌いになりきれないような人たちだった。
すみ うん、口に出さなくてもやっぱりお金は欲しいし、家族だと気がゆるんで、つい嫌みを言っちゃうこともあるし、 親の面倒は自分が見るなんて偉そうなことを言っても、いざとなったら腰が引けるかもしれないし、と嫌いなところが理解できる範囲なんだよね。 中流意識の強さには圧倒されたけど。
にえ そうそう、アメリカって個人の経済格差が大きいから、自分がどのあたりに属する 人間なのかっていうのはたえず意識せずにはいられないんだろうね。
すみ ゲイリーはけっこう中流でも上の方だって意識があるけど、自分の勤めてる銀行が かならずしも最上ではないことを常に意識してるし、イーニッドは船旅で知りあった自分たちより上流の女性に、かなり 強い劣等感を持つし。
にえ デニースもでしょ。学生時代、父親の会社でアルバイトするんだけど、 父親よりずっと下の位の社員たちからすると、自分がかなり上に属するように見えるってことを強く意識してた。
すみ そのせいでああいう行動に出ちゃったんだろうね。ありがたがられることの満足感を 得るためにって言ったら、ちょっと意地悪すぎる見方になってしまうかもしれないけど、そういう意識はたしかにあったと思うよ。
にえ 自分のほうが上だとか下だとか、そういうのを意識せずには生きていけない悲壮感と、 人生も家族も自分の思い通りにはいかない苛立たしさと、それでも何とかなっちゃうんじゃないの、みたいな楽天的な息抜きが混じり合って、 リアルじゃないようでどこかリアルな、不思議な読後感をかもしだしてたね。アメリカ〜って感じ。
すみ それにしても、まあなんとも細かい小説だった。人生の劇的な部分はサラッと流して、はっきりしない性格の人たちの、 ちょっとずつ、ちょっとずつ心のずれてしまう会話はいちいち挙げていくっていう、この細かさがこの厚さになったのかと、読み終わってあらためて思ったりして。
にえ 景色とか建物とかの描写はごく少なめで、かわりに家にあるこまごまとした物や小銭のやりとりなんかを 長めに描写してたりするところなんかも、とにかく細かいって印象を深めてたよね。
すみ 小説としてはおもしろかった。でも、家族もじっとり暗いけど、家族と知りあう人も殺人事件の被害者だったり、傷害事件の犯人の家族だったり、 とにかく暗い印象で、ラストは意外とあっけらかんとしてるんだけど、読んでてうっすら〜と息が詰まってくるのもたしか。読む価値はあったけど、お好みで、としか勧められないかな。
にえ あくまでも、アメリカ人のために書かれた、アメリカ人が読んでこそ強く心を揺さぶられる小説って気がしたな。 これだけ細かく書いてくれてても、どこか他人事としか感じられない寂しさ、物足りなさが残ったかも。