=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「金枝篇」 全5冊 フレイザー (イギリス) <岩波書店 文庫本> 【Amazon】 その3
サー・ジェームズ・ジョージ・フレイザー 1854年、スコットランドのグラスゴーで生まれる。 グラスゴー大学を卒業後、ケンブリッジのトリニティ・カレッジで社会人類学を専攻、卒業後は特別研究員となる。 1907年にリバプール大学の社会人類学教授となり、1914年にナイト叙任され、1921年にはケンブリッジの トリニティ・カレッジ教授に就任、1925年にメリット勲位を授けられ、英国学士院特別研究員、エジンバラ王室学会 名誉評議員、王室プロシヤ科学学会名誉会員に就任。1941年5月7日、ドイツ軍の空襲にあい、夫人とともに爆死している。 | |
まずは、その2で話しきれなかった、おもしろかったところ。人が死ぬと、その名前を 使わなくなる地域の話はおもしろかったな。 | |
ああ、たとえば火をあらわすカルラって名前の女性が亡くなると、火はもうカルラじゃなくて、別の 名前で呼ばれるようになるんだよね。 | |
そうやって、人の死によってふだん使う言葉がどんどん変えられていくから、 言葉がつねに変化してごちゃごちゃになっちゃってるんだって。なんとも凄い風習。 | |
最後のほうに出てきた、魂をよそに移すって話もおもしろかったよね。たとえば、邪悪で強靱な魔法使いがいるんだけど、 どうやっても殺せなくて、お姫様が、あなたの命はどこにあるのって訊くと、遠い遠い森のなかにバケモノたちに守られた木があって、その木の下に 石ころが埋めてあって、その石ころを壊せば自分も死ぬって魔法使いが口を滑らせて、王子様がその石ころを見つけだして壊し、みごと魔法使いをやっつけちゃう、みたいな話。 | |
読んでてたしかに、そういう話ってよくあるなあと思ったよね。「金枝篇」を読んではじめて、こういう似たようなお話が 世界各地に伝わってるって知って、私も興味深かった。 | |
神話について触れられてる章もあったけど、神話ってなぜかどこでも、悲劇的な話が多いのね。それに、兄妹とかの近親による 結婚の話が神話には多いのも特徴かな。 | |
さて、それではきりがないので、まとめに入りましょうか。まず、「金枝篇」を批判する人も 多くいるというお話を、その1でチョロっとしたんだけど、それについて。 | |
ヨーロッパのこの時代の学者さんにしては珍しく、キリスト教への配慮が足りないよね。それで 反感を持たれちゃうのかな、なんて思ったりもしたんだけど。 | |
とにかく、徹底的に学者さんなんだろうね、フレイザーさんって人は。学者だから、つねに科学的検証を 重んじて、宗教とか、そういうものの介入を許さない。これについては私はまったく抵抗がなかったんだけど。 | |
あと、冒頭で、未開の暮らしは自由でのびのびとはしていない、いろんな決まり事やタブーに縛られた 息苦しい生活だって言い切っちゃってるでしょ。これが独断的で、反感もたれちゃってるみたいね。 | |
呪術とか、因習とかにとらわれてる人たちを未開人、科学的検証で物事を判断する人を 文明人とクッキリ分けてるところで、差別的な人のように誤解されたりもしたみたいだね。 | |
ヨーロッパとかの先進国が文明人で、後進国は未開人だと決めつけてるって誤解した受けとられ方もしてる ようだけど。 | |
私はじつは、この冒頭の言い切りに激しく賛成して、先が読みやすくなったのよね。 | |
まあたしかに、因習にとらわれてる時代も、科学に縛られてる時代も、もしかすると、どっちも同じぐらい 不自由なんじゃないのって言いたくなる気もするけど、でもやっぱり、未開の暮らしが自由でのびのびとしていないっていう意見には賛成かな。 | |
ボヤヤンと考えると、昔のほうがノビノビ、ノンビリ暮らしてたみたいな気がしちゃうけど、 じっさいはたしかに、それほど自由ではないんだよね。小説を読んでいて、そういうことを考えることはこれまでにもたびたびあった。 | |
アリス・ウォーカーの「喜びの秘密」に出てくる女性の割礼のように、 女性がその後、一生不自由な生活を強いられることになる儀式とか、ヨーロッパにおける魔女裁判とか、なくなるべきものは沢山あったしね。 | |
こういうことをする前にはこれこれこういうことをしなきゃならないとか、今の時代で考えたりとか、 他の国の人間として客観的に見たりとかすると、おかしいなと思う決まりごとが世界中にいっぱいあるもんね。そういうのに制約されて 生きるってのはたしかに息苦しい生活だよ。今が自由かどうかは別として。 | |
あと、自分でじっさいに見聞きしたことじゃなくて、多くの情報源を文献に頼ってるから、 信憑性に欠けるって批判されてたりもするよね。 | |
それは読んでて気にならないでもなかったな。こんな風習、本当にあったのかな、なんて思うこともたびたび。 でも、どれもだれかの頭のなかでは、実際にあると信じられていたことだし、それだけでも興味深いような内容ばかりだった。 | |
あと、最後のほうのまとめ部分についてかな。強引といえば強引だったりも、 さんざん引っ張っといてこの終りかいって気も。でも、まあ、知の冒険ってことで、これはこれで(笑) | |
最後だけじゃなくて、全体的に、ちょっと強引さはあったよね。これは人を生け贄にしていたときの名残りの儀式だ、 とか、炎は太陽に見立てている、とか、その地方に住んでる人が読むと、反論したくなる部分は多々あるかも。 | |
でも、いろんなところをひっくるめて、やっぱりおもしろい本だよね。ただの研究書とかじゃなくて、 小説的なおもしろさとか、美しさのようなものもあって、読んでて楽しかった。 | |
でも、どう考えても一読でぜんぶを把握しきったとは言いがたいよね。とりあえず読んだって既成事実ができただけのような。 いつかもう一回、読み返したいな。 | |
楽しい知の冒険でした。やっぱり、興味があったら一度は読んでみるべき本だったかな。時間と気持ちに余裕があるときにどうぞ。 | |
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