すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「コールドマウンテン」 チャールズ・フレイジャー (アメリカ) <新潮社 文庫本>  【Amazon】 (上) (下)
手つかずの自然に囲まれたコールドマウンテン村で、一組の男女が知り合った。女性の名前はエイダ、 サウスカロライナ州チャールストンで生まれ育った都会育ちの娘だったが、父モンローが病気療養のため、 この山の中の村にある教会の牧師になることに決め、連れてこられた。母はエイダを産んだとき亡くなって いるので、父娘の関係は深いものだった。男の名はインマン、村で生まれ育った寡黙な男だが、興味本位で 行った教会で、美しいエイダに一目惚れをしてしまった。二人は少しずつ愛をはぐくんでいくはずだったが、 南北戦争が始まり、インマンが徴兵されてその大切な時期を奪われてしまった。戦争は二人の予想に反して 長引く。二人はふたたび逢うことができるのだろうか。
1997年全米図書賞受賞作品
にえ 1997年の全米図書賞受賞作品です。ドン・デリーロの「アンダー ワールド」やトマス・ピンチョンの「メイソン&ディクソン」を蹴落としての受賞だったのだとか。
すみ 7年もかけて完成させた小説だとも書いてあったよね。読めば納得。 7年分の重厚感あり、研ぎ澄まされた無駄のない美しさあり、で心に響きまくったよ。
にえ 今時珍しい純愛が描かれているのだけれど、恋愛小説と呼ぶのはおか しいよね。だって小説のなかで二人はほとんど別行動なんだもん。
すみ 戦争の痛ましさを訴える歴史小説のようでいて、神話的な透明感があり……、 ああ、もう、こういう語りをしちゃうと、この小説を読み終えたあとの深い感動からかけ離れてしまう〜っ。
にえ とにかくもう美しすぎたね。しゃべりたくなるより、黙りこみたくなる 感動だった。ではでは、ストーリーだけささっと紹介しましょ。
すみ ストーリーは、コールドマウンテン村に残ったエイダと、負傷して収容 されたノースカロライナ州ローリーの病院から逃げ出して脱走兵となり、エイダの待つコールドマウンテンへ 帰る旅をするインマンの話の二本の筋が、交互に出てきて、最後のほうでまじわるの。
にえ まずエイダのほう。こちらは、父モンローを亡くして、途方に暮れてる ところから。
すみ なにせエイダは女性としては立派すぎるほどの教育を受けて、フランス語もラテン語も、 少々だけどギリシャ語もできて、編み物や刺繍は無難にこなせ、ピアノに絵画と教養ある女性らしい趣味も持ち、 読書家で本もたくさん読んでるんだけど、肝心の生きるすべを持ち合わせてないのよね。
にえ 料理もできないし、父親が残していった農場に作物を植えることもできない、 家畜を屠殺したり、狩りをしたりなんてもちろんできない、つまりは山の中の村で独り暮らしをするなんてまったく不可能なお嬢様。
すみ それなのに、戦争のために経済も不安定になって、父親が投資していた金も消えてなくなり、 助けてくれそうな親戚もなしで、にっちもさっちもいかなくなってるんだよね。
にえ そこに現れるのがルビーという少女。ルビーはろくでなしの父親に育てられたために字も書けないけど、 早くから生きるすべをすべて身につけてて、つまりはエイダと正反対。
すみ ルビーは対等の関係として、エイダと一緒に暮らすことになるの。
にえ エイダはルビーから料理やら農業やら、生きるためのすべてを学ぶことになるんだけど、 エイダが学ぶのはそれだけじゃないよね。
すみ エイダが持っているのは本で得た、生きる上では薄っぺらな知識、ルビーが 持っているのは、自然への深い洞察力から得た深い知識。重みが違うからね。
にえ エイダがルビーから得た知識をさらに深め、どんどん豊かな、成熟した女性に なっていく姿が素晴らしかった。
すみ 鳥の声を聞き分け、川のせせらぎを見つめて源流を思い、それぞれの木の 特徴を学び、それをより大きな思想へと昇華させていくんだよね。
にえ 別に哲学をこねくりまわすってわけじゃないけど、さまざまな場面で エイダがハッとさせられる姿に、こっちまでハッとさせられた。
すみ 最後のほうで父親と自分の関係についてサラリと言ってのけたセリフが とくに印象深かったな。父親への永遠の愛情を抱きながらも、自分たちの関係を客観的に批判するでしょ。こんな に人って成長するものなのね〜と感激してしまった。
にえ インマンのほうは、旅で出会う印象的な人々との出来事が次々と綴られていくのよね。
すみ 自分を愛してくれている女を平気で裏切る男、愛する女性を探し求めて長い長い旅をしている人、 愛する人を失って途方に暮れている人、いろんな人に出会って、インマンも多くのことを学んでた。
にえ 出会いだけじゃなくて、何度も絶体絶命の危機に襲われるから、ハラハラさせられ どうしだったしね。
すみ 淡い恋心を抱いていたに過ぎないような二人が、成熟した大人としてもう一度出会う日が、 どんどん待ち遠しくなっていったなあ。ただ、過酷な運命の予感がず〜っと漂っているから、安心して待ってはいられないんだけど。
にえ 厳しくも美しいコールドマウンテンの自然と、人々に襲いかかる戦争の悲劇のコントラストが、 さらにまた深い感動を呼び起こすし、もう、とにかく良かったね。
すみ 厚い本だったけど、途中から加速がかかって一気に読んでしまった。良かったとか、美しかった とかしか言えないけど、とにかくオススメです。