すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「すべての美しい馬」 コーマック・マッカーシー (アメリカ)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
1949年テキサス、祖父が亡くなり、愛する牧場が人手に渡ることを知った16歳のジョン・グレンディは、 17歳の親友ロリンズとともにメキシコへ向かうことにした。トラックの走るハイウェイを馬に乗り、南下していく二人だったが、 途中で同じように馬に乗った、ブレヴィンズと名乗る13歳ぐらいの少年に出会った。あきらかに嘘をついていると思われる ブレヴィンズが同行するのを嫌がるロリンズだったが、ジョン・グレンディは邪険にできず、三人でメキシコへ向かうことに なったのだが。
1992年全米図書賞受賞作品
にえ 1992年全米図書賞受賞作品です。マッカーシーはこの南部アメリカとメキシコの境を 舞台にした作品を他に「越境」「平原の町」と書いていて、「すべての美しい馬」と合わせて、<国境三部作>と呼ばれているのだそうな。
すみ この小説は、1992年に書かれた小説とは思えないような、オーソドックスで クラシカルな雰囲気が漂ってて、読んでて心地よかったよね。
にえ うん、暑さであんまりヒネクリ回した小説は頭が受けつけなくなって きてたから、このわかりやすさとユッタリ感は嬉しかった。
すみ 舞台は1949年、最初はジョン・グレンディと母、ロリンズと父の会話シーンなどが 交互に挿入されてて、なにがなんだかサッパリわからないの。
にえ それから読み進めていくと、だんだんと話が見えてくるんだよね。
すみ うん、二人の少年が旅をはじめてからは、話は一本で、時を追ってまっすぐに進んでいく から、ついていくだけでいいから楽だった。
にえ 途中の雑貨店で食糧を買い、獲物がいれば銃で撃って食べ、馬に乗って野宿をしな がら旅をする少年二人。なんともうらやましくって、こっちまで馬に揺られて風にあたってるような気分になったな。
すみ でも、そのまま国境を越えてすんなりメキシコへ行ければ良かったんだけど、 謎の少年ブレヴィンズに出会っちゃうのよね。
にえ ブレヴィンズはとにかく怪しげ。名前だってラジオ番組の有名人と同じ名前で偽名っぽいし、 やけにカッコイイ、不釣り合いな馬に乗ってて、なんだか盗んだっぽいし、あんまり関わり合わないほうがよさそうなタイプなんだよね。
すみ でも、なんとなく放っておけなくて、情が移っちゃったりするジョン・グレンディの気持ちもわかるよ。
にえ まあ、わかろうがわかるまいが、ブレヴィンズは勝手についてきちゃうんだけどね。
すみ 結局、ちょっとゴタゴタしたことがあってブレヴィンズとは別れるんだけど、 あとあと思いがけないかたちで、二人の身に不運となって返ってきちゃうんだよね。
にえ それはまあ置いといて、メキシコの牧場にたどりついた二人は、そこで牧童として 働かせてもらうことになるの。
すみ とくにジョン・グレンディは馬の扱いに詳しいから、牧場主に気に入られることになるのよね。 二人は野生馬の調教をまかされたりして、なかなかいい感じに働きはじめるんだけど。
にえ 牧場主にはアレハンドラっていう美しい娘がいて、ジョン・グレンディに恋心が芽生えちゃうんだよね。 でも、二人は牧童とお嬢様、結ばれる運命にはない立場なのよね。
すみ アレハンドラの保護者が牧場主だけなら気づかれなかったかもしれないけど、 鋭い知性を持つ伯母アルフォンサが目を光らせてるから、こっそりと恋をはぐくむってわけにもいかなかったからなあ。
にえ アルフォンサは銃の暴発で何本か指をなくしていて独身なんだけど、威厳があって、 哀しみも喜びもすべてを達観したような存在感があって、なかなかカッコイイ女性だった。
すみ ブレヴィンズとアルフォンサ、この二人のためにジョン・グレンディとロリンズは過酷な運命を歩まされる ことになっちゃうんだよね。
にえ 馬に乗った少年の旅、たまたま知り合って少年のために受けるとばっちり、身分違いの実らぬ恋、古め かしくて、オーソドックスだよね。これだけでじゅうぶん新鮮みがあって、奇をてらわないでくれてもいいのにって気がしたんだけど。
すみ そうなのよね。問題は文体。句読点がほとんどなくて、ズルズルずるっと続いていく文章、会話部分の「 」抜き。 なんのためなのかよくわからなかった。
にえ 句読点がなくても、英語だと単語ごとにスペースが入るんだけど、日本語だとまったく区切りがない状態で つながっていっちゃうから、どうしても和訳された文章のほうが読者に負担がかかるよね。
すみ まあ、句読点がなくても、リズムをつけ、意味を理解するためにかってに頭のなかで句読点を打って読んじゃうから、 べつに支障はなかったんだけど、だったら最初からつけてあっても変わらないんじゃないのかと思う。どんな効果を狙ったのか、理解できなかった。
にえ アメリカの純文学系の作家って独自の文体を確立しようとして無茶するようなところがあるから、 これもそのオリジナリティーの追求が悪いほうに出た例なのかな、なんてことも思ったんだけど。
すみ せっかくストレートな味わいのストーリーだから、おかしな文体で邪魔せず、ストレートに楽しませてほしかった なと思うのは、アホな読者のわがままかな。
にえ あくまでも自分に正直であろうとする少年の、自分探しの旅。読みづらい文章をのぞけば、心地よさもあり、 しんみりと考えさせられるような深みもあり、ノンビリ読むには良い小説でした。あんまり刺激を求めてないときにオススメ、かな。