すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ホワイト・ノイズ」 ドン・デリーロ (アメリカ)  <集英社 単行本> 【Amazon】
アメリカ中部の、学問をするのに適した穏やかな町でにある大学、カレッジ・オン・ザ・ヒルで、 1968年からヒトラー学科の教授をつとめているジャック・グラドニーは、体格のいい四番めの妻 バベットとそれぞれの連れ子である四人の子供たちと暮らしていた。バベットはボランティアで目の不自由な 老人に週刊誌を読んでやったり、姿勢矯正のクラスで教えたりしている健全な女性だが、ダイエットを強く 意識していた。娘のデニスとステッフィーはバベットの無理なジョギングなどを批判していたが、バベットは 聞く耳を持たなかった。
1985年全米図書賞受賞作品
にえ 最近になって発売された分厚い上下巻「アンダーワールド」がちょっと気になってる ドン・デリーロです。
すみ ようするに、知らない作家だし、ストーリー紹介を読んでも食指が動かず、それでも 気になってるから、過去に出版されてるもっと薄い本を先に試してみたってことよね(笑)
にえ 「ホワイト・ノイズ」の主人公ジャック・グラドニーは中年の大学 教授。大学にヒトラー学科なるものを創設して全米の注目を浴び、成功して確固たる地位を築いたって人物。
すみ ヒットラー学科なんて、もうここから怪しげだよね。
にえ 授業の内容はよくわからないんだけどね。ヒトラーを体系的にまとめ、教えている ってことだけど、べつに論文を発表したわけでもなさそうだし、新たな発見をしたわけでもなさそうだし。
すみ 大学の目玉商品となるように、かなり工夫はしたみたいだけどね。 もともとは背が高くて痩身だったのを、貫禄をつけるために太り、それっぽく見せるために黒メガネを して、要はまあ、中身より外見ね。
にえ ジャック自身は、ヒトラーの研究者ってことになるんだろうけど、 ドイツ語の読み書きはいっさいできないっていうんだから、底は見えるよね。
すみ ちなみに、ジャックの同僚マーレイは、ジャックの成功をうらやみ、 エルビス・プレスリーを体系的に教えていく授業をやろうとしています。つまりはまあ、そういうことね(笑)
にえ で、ジャックは今度の結婚が四回めなんだけど、一回めの相手と 三回めの相手は同じ女性で、諜報活動で世界を飛びまわるスパイなんだとか。どひゃ。
すみ 今の奥さんのバベットも離婚歴があって、二人あわせると、連れ子として 育てている合計四人の子供の他にも何人か子供がいるみたいで、なかなか複雑な家庭なんだよね。
にえ ジャックは家庭で、職場で、その他もろもろの場で、とにかくたくさん 会話をするんだけど、その会話がなかなかクセモノ。
すみ どの人にしても、普通に「はい」「いいえ」ですむところを、かならず 屁理屈をこねまわしたような返事をしてくるんだよね。
にえ みんな自分が知識人階級に属してることをかなり意識してるって感じがしたな。 ジャックは偏見に満ちたセリフが多かったし、大人だけじゃなく、ジャックの子供たちも揃ってそうだったし。
すみ でも反面、みんな感傷的だったりもしたよね。自分の弱い面をさらけ出して、 悲壮感を漂わせて、ちょっとノイローゼ気味っぽくて。
にえ ジャックの長男のハインリッヒなんてとくに凄かったよね。質問を質問で 返すタイプ。こりゃ友だちはいないだろうと思ったら、蛇がウジャウジャいる檻に入って世界最長時間を達成しよ うと修行をしている年上のお友だちがいました(笑)
すみ そんな中で、バベットだけは健全な女性かと思ったんだけど、じつは この人が一番問題ありで、なんか家族に隠れてコソコソと、おかしな薬を飲んでるの。
にえ だんだんと強度の健忘症になっていって、ジャックや娘のデニスは薬の 副作用が原因じゃないかって怪しむんだけど、バベットは薬なんか飲んでいないと言い張って、なかなか尻尾を出さないんだよね。
すみ そんなこんなのうちに、近所で大事故があるの。トラックが追突されて爆発炎上、 荷台の中身の化学物質が漏れるんだけど、その化学物質ってのがナイオディンDという、人体への影響が未知の、なんとも怖ろ しげな薬品。
にえ 住民は避難するんだけど、家族を自動車に乗せて避難している途中で、 ジャックはガソリンスタンドに立ち寄って給油、そのためにナイオディンDに冒されてしまう。
すみ そこまで、登場人物のだれもにあったけど、隠されて口には出されなかった 死への恐怖が、そこからは一気に噴出しはじめるのよね、そんな感じのお話です。
にえ だいたい予想通りではあったけど、かなり変わった感触の小説だったよね。
すみ 登場人物に感情移入して読むとか、起伏のあるストーリーを楽しむとかではなくて、小説世界 全体が織りなす歪んだ世界を味わい、そこに哲学らしきものを見いだしていくって感じなのかな。
にえ 正直なところ、ちょっともう今読むには時代遅れかなって気はしなくもなかった。
すみ それは個人の好みの問題じゃないのかな。こういう不条理感のある小説は、まだまだ 支持している人も多いよ。流れのひとつでしょ。
にえ それにしても、あとがきに最初から最後までのあらすじをシッカリ書いてしまう 翻訳家さんというのは理解しがたかった(笑) 全部読むのが面倒くさいけど、ストーリーだけ知りたいって方は、あとがきをご覧ください。 わずか2ページで全粗筋がわかるように上手にまとめてくださっています。そして、読む楽しみを味わいたい方は、くれぐれもあとがきを先に見ませぬよう。
すみ こういう硬質な小説は好みがハッキリ分かれるかなと思いましたってことで。