すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「族長の秋」 ガルシア=マルケス (コロンビア)  <集英社 文庫本> 【Amazon】
架空の小国に君臨している大統領は、街頭の娼婦ベンディシオン・アルバラードの父無し子として 生まれた。若くして軍隊に入ると、上官を裏切り、あくどい手段で昇進をかさねて今日の座についた。 年齢は150歳とも250歳ともいわれている。影武者パトリシオ・アラゴネスや、命の恩人であり忠義の 人であるロドリーゴ・デ・アギラルに守られ、暗殺の危機をすりぬけて専制支配を続けていた。
<おまけ> 南米作家分布地図
にえ ↑ この本のうしろにあった解説から南米作家の分布地図を作 りました。よかったらご参考に。
すみ で、この本だけど、初ガルシア=マルケスとしては勧められな いかな。
にえ うん、ちょっとストーリーがね。緩慢で、進んでるような 進んでないような展開で、ちょっと物語としての魅力には欠けるかも。
すみ 魅力のある小説ではあるのだけどね。
にえ 最初から最後まで、専制君主である大統領という人物について 書かれてるんだど、この人の個性でラストまでもたせちゃうからスゴイ。残酷さとやさしさの表裏一体ぶり や孤独感が鬼気迫ってくる。
すみ 疑わしい人間や邪魔な人間は片っ端から殺しちゃうんだけど、 その殺し方が残酷よね。殺した人間を料理して出したりするんだもんね。
にえ そういうことをしていながら、ラジオドラマの主人公に同情し て、悲劇的なラストをハッピーエンドに書き直させたりね。
すみ マザコンぶりも強烈だよね。娼婦だった下品な母親に尽くし まくり、母親のほうはわかってなくて、あいかわらず鳥に色を塗って売ってたりする。
にえ 女性にたいしても、同じように固執しまくるのよね。追いかけ まわして、女の言いなりになって。
すみ でも結局、愛した女はいなくなるし、信じていた人は信じられ なくなるし、最後にはかならず孤独が待ってるのよね。
にえ だけどさ、欧米の小説だと、寒々しいような孤独が待ってる ところだけど、さすがに南米の小説だと、いつまで経っても熱いよね。
すみ そう、ガックリくることはあっても、また情熱が煮えたぎった ようになって、同じ過ちを自分で繰り返しにいくしつこさは、さすが。
にえ あと、大統領は専制君主で、なんでも自分の思い通りにやって るようだけど、かげでかってに動いてる力があって、それを止めることができないってかんじの著述が何度 も出てきたでしょ、あれはたまらなかったな。
すみ そう、大統領がこう望んでいるだろうって下のものが勝手に 動いてたり、側近が調子に乗りすぎて悪事を重ねれば、暗殺者が現れる。
にえ 大統領は自分で動いているようでいて、もっと大きな民衆の力 に知らず、知らず動かされてるのよね。結局、自分のやりたい事なんてなにもできないのかな。
すみ 最後のほうでは大統領自身も、寵愛する側近をどうにもできな くなって、逆にそういう力を期待してたりしてね。
にえ とんでもなく我儘で、ろくでもない人間だけど、不思議と同情 してしまうんだな、読んでると。
すみ 哀れなんだよね。欲に支配されて、敵や死に怯え、こっちの顔 が赤らむほどあからさまに愛されたいと願ってる。
にえ だからね、大統領とか、ほかの登場人物はすごく魅力的だし、 ファンタジックで、しかも生々しいエピソードの数々もよかった、書いてあることじたいもよかった。 ただ、ストーリーにメリハリがないから、この長さを読むのはちと辛かった。
すみ ノーベル賞作家の作品に私たちごときがシノゴノいうのは大 きな勘違いだけど、あえて言うなら、これの3分の2ぐらいの中編にまとめられなかったのかな。
にえ この本の大統領の人生じたいがクドクドしかったから、それを 伝えるためにはクドクド書くしかなかったのかもしれないね。でも、もうちょい短くしてくれてたら、 これもオススメ本なんだけどな。
すみ といっても、そんなに長編じゃないんだけどね。文庫で300 ページちょい。堪えられない長さじゃないんだけどね。