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ワタヌキ 皮膚を撫でられる感触を、どこか非現実的なものだと感じながら、それでもじっと、それを見ていた。 決して綺麗とは呼べない無骨な指が、首から胸、腹の方へと体の上を辿って行く。 その指に視線を感じて、和志はニィっと笑った。 そのまま、今度は指ではなく舌で皮膚を舐め上げる。 思わず顔を逸らすと、もう片方の手で顔を捕まれた。 「目ぇ逸らしてんじゃねぇよ、杉村」 それはとても冷たい声だったのに。 酷く、眩暈を覚えさせるような、そんな甘い声に聞こえた。 思えば、弘樹が和志と体の関係を持ったのはいつだったか。 よく思い出せない。 記憶から消してしまったみたいに。 最初は――そう。最初は、強姦に近いものだった。 近いと言ったのは、それは決して強姦とは呼べなかったから。 何故なら、弘樹は抵抗しなかった。 ひねり上げようと思えば簡単に出来たはずのその腕が、自分を押さえつけている様を、じっと見ていた。 蹴り上げれば悶絶しただろうその体がかける重みが、なんだか酷く、痛々しくて。 噛み切る事も出来たその舌を、甘んじて受け入れた。 理由は分からない。 気まぐれだったのかもしれないし、同情だったのかもしれないし、あるいは……いや、それだけは、ない。 体で抵抗しない弘樹を、和志はどう思ったのか。 それからは事あるごとに求めてくるようになった。 拒否は出来ない。させない。 強いられるだけの苦痛な行為に、それでも弘樹は、何も言わなかった。 和志の部屋の床に散らばった制服を、拾い上げる。 体に残る疲労を引きずって、無言のまま服を着る。 それも、いつもの事だった。 和志はベッドに横たわったまま、弘樹の動きを目で追う。 何故こんな事をするのか。なんて。2人の間で交わされた事のない言葉だった。 「今日、4月1日だな」 唐突に、和志が口にした。 弘樹は振り返らない。 ひとつひとつボタンを留めて、立ち上がる。 「好きだぜ。杉村」 その声に、一瞬だけ動きを止めたけれど。 「エイプリル・フール」 間髪いれずに呟かれた言葉に、目を伏せる。 言われなくても分かっていた。 それにショックを受けているわけでもない。 和志は面白そうな顔をして、体を起こした。 座ったまま壁に寄りかかり、弘樹の背を見る。 感情は、読めない。 「お前も俺が、好きだろ?」 背後からの声に、何と答えれば良いのか迷った。 和志が望んでいる言葉は分かっている。 彼の言葉は質問ではないのだから。 「……ああ」 そう。 今日は4月1日だから。 嘘をついても良い日だから。 平気な顔で……嘘をつく。 弘樹の返事に満足したのか、和志は口元を笑みの形に歪めた。 そうして、彼の腕を引く。 バランスを崩しても決して倒れ込まない弘樹に、さすがだと思いながら、その目を見つめた。 瞳に翳る感情は、困惑なのか憎しみなのかあるいは。 「好きだぜ、杉村」 弘樹の目を見上げながら、はっきりと言う。 その顔が歪む様を、近くで見たかったから。 弘樹は苦しそうな顔をして、視線を逸らした。 掴まれた腕が、酷く、熱い。 4月1日だからといって嘘をつく必要が、どこにある? すでに偽りで塗り固められた関係なのに。 「俺も、新井田が」 視線を合わせないままに、言葉を吐く。 求められたわけじゃない。 ただ、嘘をつこうと、そう、思った。 声は、唇でさえぎられたけれど。 それでも今日は、今日だけは。 嘘を、つく。 「好きだ」 END. 初新杉。って言っても、前に微妙なやつを書いた事があるのですが。(『風』参照) 書こう書こうと思って、全然書いてなかったんですよね。 需要も無いだろうと思いましたし。 でも、このネタは新杉っぽいなぁとか思って書いてしまいました。 私の中の新杉は、なんだろ。お互いが絶対にお互いの事を好きとは言わなくて、むしろ嫌いだと言っていて、でも体の関係があって、相手は自分の事を嫌いだろうと思っているんだけど、自分は本当は相手の事が好きで、でも絶対にそれを口に出せなくて、素直にならないけれど、一緒にはいる、みたいな。 でももしかしたら相手も自分を好きでいてくれてるのかも?みたいな。 でもついそんな事ないって拒絶してしまうような。 酷く不安定な、そんな関係っぽいです。 なんかこういう、曖昧な微妙な関係にもやもやしつつ心惹かれるものがあったりするのでした。 自己満足自己満足(笑) |