何故だか新井田と、2人で川岸に立っていた。

 川沿いには桜の木。

 満開になった桜は、花びらを落とし始めている。

 はらはらと。

 とても儚く、綺麗なそれを。

 風が川まで運び、水面に散って、流れていく。

「まだ少し、肌寒いな」

 そう言って新井田は、俺の肩に手を置いた。

 こんな事くらいで、徐々に体が熱くなっていくのが分かる。

 それは多分、抗う事の出来ない熱なのだろう。

 どんなに望んでも、きっと得る事が出来ないモノ。

 望まないからこそ、与えられるモノ。

「そうでもない」

と、俺は答えた。

 拒絶していた。

 慣れたくなかった。

 触れられる事に。

 与えられる事に。

 何かがどこかで、壊れてしまいそうで。

「そうかよ」

 新井田はあっさりと手を引っ込める。

 こいつにしては、珍しかった。

 熱が失われて、俺はそれに寂しさを覚える。

 そんな自分がいる事を否定したくて。

 学ランを、脱ぎ捨てた。

 薄いワイシャツ一枚を通して、俺の体を風が走っていく。

 風はまだ冷たくて、どこか寂しい気がするのは、この風のせいなのだと思わせてくれた。

「風邪ひくぞ」

 苦笑しながらそう言われたから、

「平気だ」

と、すぐに答えた。

 心配してくれているのが、きっと嬉しい。

 でも、嬉しいと思っている自分すら、認める事が出来なくて。

 素直じゃないのか、素直になる事が出来ないのか。

 多分どっちだって変わらないのに、そんな事を真剣に考えてみたりして。

 当たり前の事だけど、与えられる優しい声に、愛情なんて感じなくて。

「風邪ひきたいんだな」

 意地悪に笑って、そう言われた方が嬉しいかもしれないなんて、どうかしてる。

「このくらいで風邪をひく事なんてない」

 そう答えると、新井田は笑った。

 さすがだと、そう言って笑った。

 何がさすがなのか、俺には分からないし、尋ねるつもりもなくて。

「それなら平気だな」

 声と共に後ろから手を回され、シャツのボタンに手をかけられた。

「おい」

 抗議の声を上げる。

 それにはおかまいなしに、きっちり閉じられたボタンの、上から3つほど、外されて。

 滑り込む手が、やけに熱くて。

 悔しくて、唇を噛んだ。

 文句を言おうと振り返り、そうして新井田の目を見て。

 言うはずだった言葉が、何だったかも忘れてしまって。

 その目から、逃げる事が出来なくて。

 あらわになった胸元に、キスと呼ばれるものをされて。

 悔しくて。

「俺の事なんて、好きでもなんでもないくせに」

 そう言ったら、新井田は視線だけを少し上に向けて。

「杉村だって、俺の事が嫌いだろ?」

 そう返されて。

 その通りなのに、何も言い返せなくなって。

 だけど何か言いたくて。

 何も言葉が、浮かんで来なくて。

「当たり前だ」

 そう呟く事しか、出来なくて。

 

 

 

 風が、2人の間を走り抜けて行った。

 この風がどこから来るものなのか、どこへ行くのか。

 きっとそんな事、分かりはしなくて。

 どこへ続いて行くのだとしても、この先には何もない。

 俺も。

 お前も。

 何かあるとしたって、それは決して。

 ――愛情なんかでは、ない。

 

 

 

END.



桜が散り始めた季節に書いたはずのものが、何故か新緑の季節にアップされるという不思議。
不思議でもなんでもないです、すいません…
37ネタで考えていたはずなのに、気がつけば新杉…
ええ。実は好きなんです、新杉。今まで書いた事がありませんでしたけど。
この話だけだと、2人がどんな関係なのか、掴みづらいですけどね。
徐々に、徐々にと…くっくっく。(オイ)