・・・正直、良くわかんねぇ。 何がわかんねぇかっつーと、たぶん、他の誰でもなく俺自身。 今、現在、ムカムカしてたり、イライラしてたりする原因とか理由とか、そういうのは何となくわかってたりはするけど…、そこまでじゃねぇっていうか…、 ムカムカとかイライラするまでもねぇっていうか、そんなカンジなんだけどさ。 それでも、胸ん中がムカムカイライラな上に、モヤモヤしちまうのはなんでなのか、自分でも理解不能だったりする。ホントにさ、いっつもマジでわっかんねぇんだよな…。 そうなっちまう原因…、引き金みたいなモンは、ただ久保ちゃんの隣とか近くにオンナが居たり並んだりしてるだけ。何か聞いてきた通りすがりとか、店の店員とかまで含まれるって、ソレってどうよ?とか自分で思ってる…、すんげぇ思ってるっ。 なんつーか、自分で自分が痛いっっ。 痛いっ、痛すぎる…っっんだけど、どうにもなんねぇんだよな…、実際。 「・・・・・・・・はぁ」 なんつーコトを考えつつ、何度目かの溜め息ついたのはウチのリビングのソファーの上。留守番してんのがタイクツで、ゲーセンにでも行くかって出かけたら、最悪なコトにムカムカイライラな上に、モヤモヤなモンを見ちまって…、 …で、行く途中で180度反転して戻って来ちまったってワケ。 何なんだっ、あのオンナっっとか思っても、道聞かれたとか何か聞かれたとか、ちょっとカオ知ってる程度でアイサツされただけとか、そういうのだろって予想はしてる。 まぁ、久保ちゃん本人に聞いても、十中八九そうだろうし…。 うん…、だよな、今回だって…。 ・・・・・・うん。 「・・・ちゃんとわかってんじゃん」 ソファにパタリと倒れて寝転がって、うつ伏せて足をパタパタさせてみる。そうしてると、少し落ち着くような気がするようで、そうでもないような? ちらっと見た時計は、まだ夕方の時間帯…。 ウチに帰ってから、ソファーの上に放り投げたままになってたケータイを掴んで、パチリと開いてみたけど着信はナシ。もし、バイトの帰りが遅くなるとかだったら、そろそろ連絡してくるハズ…、だけど…。 そう思いながら、ケータイをパチパチ開いたり閉じたりしながら、脳裏をチラチラすんのは久保ちゃんとオンナ。でも、たとえ遅くなりすぎて朝帰りなんてコトになってもアレとは無関係。遅くなったのは、バイトだからってだけ。 うん、わかってんだ…、ホントにさ。 けど、だからソレがなんだってんだって…、なんでこんなコト考えなきゃなんないんだろうって、イライラムカムカ、モヤモヤしながら思うんだ。 「久保ちゃんとはそんなのじゃねーし…、あり得ねぇし」 そう言いながら、上に伸ばした手に握ってるケータイを眺める。 そして、しばらく眺めた後、そのケータイは手ごと下へパタリと落ちた。 ついでに、パタパタしてた足も落ちた。 でも、イライラとかムカムカしてた気分まで落ちちまった。 まさにパタリってカンジで…、だけど…、 「やっぱ、良くわかんねぇ」 グルグル、ゴロゴロ…。 ソファーの上でしばらくそーしてたら、いつに間にか眠っちまってた。 それに、あれっ、いつの間にって気づいた原因が、玄関からチャイム。久保ちゃんが帰ってきたんだってわかってたけど、なんとなく気分が落ちちまったままで、寝たフリを決め込む。 どーせ、チャイム鳴らしてても、カギ持ってるクセに。 だから、音だけを聞いてた。 久保ちゃんが自分でカギを開けて、俺のいるリビングまで来て…、 それから…、それから・・・・・。 俺が寝たフリしてる時だけ、久保ちゃんは俺に手を伸ばす。 まるで、何かを確かめるように額に触れて、頬に触れて撫でて…、 それでも俺が目を開かないと一つ…、濡れた感触が落ちてくる。 場所は時々で違うけど、今日は右目の目蓋の辺りだった。 ほんのちょっと…、軽く落ちて離れる。 その感触がなんなのかってのは知ってるし、気づかないはずもねぇけど、俺は久保ちゃんが晩メシ作り始めるまで寝たフリを続けて、それから起きたフリする。そーしながら、なにやってんだって、いっつも思ってるけど…、 どうしても・・・、やめられなかった。 「今日の晩メシ、なに?」 ソファーの上で、今、起きたみたいにウーンって伸びする。 すると、久保ちゃんがのほほんとカレーって言いやがったから、えーっ、マジかよって思い切り不満そうに言ってやる。それから、よいしょってフリつけて勢いよく起き上がってキッチン行って、ジャガイモ切ろうとしてるのを久保ちゃんの肩越しに後ろからのぞき込んだ。 「今月、マジでカレー多くね?っていうか、多すぎだろっ」 「そう? ミートソースの方が多い気がしたけど?」 「えーっ、カレーの方が多いってっ」 「そんじゃ、引き分けってコトにしとく?」 「…って、何の勝負だよっ」 そんな会話しながら、伸ばした腕を久保ちゃんの腹の辺りに回す。そして、ダルいとか眠いとか言いつつ、目の前の肩にアゴを乗せた。 そしたら、久保ちゃんが重いよって言う。 だから、タマネギ切る前に脱出とかつって離れようとした。 ・・・・・けど。 ジャガイモの次にニンジンを掴む予定だった手で、離れかけた右手の手首を握った。 こういう時、左手だってあんのに、なぜか久保ちゃんは右手を掴む。 手を引いたら、簡単にすぐに外れるくらいの力で…。 なのに、いつもソレを外せない俺は、外しかけた腕を回し直して、今度は目の前の肩にアゴじゃなくて額を乗せた。 「重いっつったクセに…」 「重いけど、気持ちいいから」 「なんっだそりゃ」 「さぁ、なんだろうね?」 「ヘンなの」 「うん…、そうかも」 トントントン…って、包丁で野菜を切る音が耳に響く。 その音に混じって聞こえる、久保ちゃんの声と自分の声。 この部屋には二人きりで誰もいなくて…、久保ちゃんが動くたびに伝わってくる振動が気持ちいい。なんてのは重いのが気持ちいいって言う久保ちゃんのマネでもなんでもないけど…、こうしてるとイライラもムカムカもモヤモヤも消えてく…。 消えてからもこのままでいると落ち着くようで、少しドキドキしてきて…、 その感覚が、そのキモチが言葉になりそうで…、 でも、口を開きかけると、ふいにツキンと右手が痛んで…、 言葉になりかかったキモチも感覚もなぜか、その痛みに消えてカタチにならなくて、開きかけた口を閉じる。すると、さっきまでとは違う音が…、たぶんタマネギをむいてるカンジの音がした。 「なんか・・・、タマネギが目に染みてきた」 久保ちゃんの手元も見ずに肩に額を押し付けたまま、俺がそう言う。そしたら、ほんの少しだけタマネギをむく音が止まって…、けど、すぐに止まった手は動き出した。 「うん、俺も…、ちょっちね」 イライラしてもムカムカしても…、ドキドキしても…、 その原因が久保ちゃんに繋がってる時だけ、右手がツキンとする。 いつもと違う痛み方で…、ツキンとして消していく…。 ぎゅっと少しだけ腕に力が入ったけど、久保ちゃんは何も言わずにタマネギを切った。トントントンっていつものように手際良く切って、今日の俺らの晩メシを作ってく。 そして、その音が途切れた瞬間、なんとなく顔を上げた俺は 右手に感じたツキンとした痛みを、目の辺りにカンジて奥歯を噛みしめる。でも・・・、何も気づかないフリして、また久保ちゃんの肩に額を押し付けた。 「・・・・・ぜんぶタマネギのせいだ」 「うん」 右手がツキンとするから、きっと、こんな風にタマネギとかのせいにして…。イライラムカムカしたり、モヤモヤしたりしながら、また俺はソファーで寝たフリとかしちまうんだろう。 今日だけを見つめながら、右手にツキンと明日を感じて…、 唇の触れたトコロに…、触れた場所に…、 ココロの中でナイショで、そっと…、唇をよせながら…。 |
『タマネギ』 2011.9.16更新 リハビリ中。 WA小説部屋へ |