さっきからじ〜っとして、ドアのチャイムが鳴るのを待っている。 俺の予想が正しければ、たぶんもうちょっとで久保ちゃんが帰ってくるはずだった。 (準備は、完璧オッケー) 自分の手に持ったモノを再度確認して、俺はワクワクしながらその瞬間を待っていた。 近くのスーパーで手に入れたコレは、今日この日のために作られた特別製。なんだか良く分からないけど、日本全国のあらゆるご家庭でコレをするらしい。 「ったく、おっせぇよ、久保ちゃん」 別にいつ帰るとか言ってたワケじゃねぇけど、こうやって俺様が待ってやってるってのに帰ってこねぇとは許せねぇ。 時計の針が一分進むごとに、俺のやる気もそれだけ増している。 気合十分ってヤツだった。 玄関まで出て待ってようかと考えていた時、丁度その瞬間はやってきた。 ピンポ〜ン! 「時任、開けて」 (やったっっ!!) 俺はいつもの倍以上早く玄関まで走っていき、ドアの鍵を急いで開けた。 「あれっ、いつもより出てくるの早・・・・」 ビシ、ビシ、ビシッ!! 久保ちゃんが何かを言い終わる前に、俺は手に持っていたソレを久保ちゃんに向かって投げつける。ソレは見事に久保ちゃんにヒットし、音を立ててそこらに散らばった。 「・・・俺、何か豆投げつけられるようなコトした?時任クン」 豆をぶつけられた久保ちゃんは、笑顔で俺にそう言った。 (ま、まさか、怒ったりとかしてないよな?) そう思いつつも、この楽しそうな行事をやめるつもりはなかった。 だって、けっこー長い時間待ったんだぞ。 「今日、節分だろ? 豆撒きしようかと思ってさ。俺が豆撒くから、久保ちゃんが鬼すんの!」 そう言って再び豆を投げると、久保ちゃんは持っていたコンビニのビニール袋で豆を防いだ。 「だったら、時任が鬼しようよ。俺が豆投げるからさ」 「イヤだっ!」 「俺もイヤ」 久保ちゃんはイヤだというけど、豆を持っているのは俺様だっ。 俺の方に分がある。 俺は再び豆を投げようと、手に持った四角い入れ物から豆を取り出した。 「甘いな、時任。自分だけが豆持ってるってのはマチガイだぁね」 「ま、まさか、久保ちゃんっ!」 「そのまさか」 久保ちゃんはビニール袋から豆の入った俺と同じような形の入れ物を取り出すと、袋を破いて豆を取り出した。 「さっきのお返し」 「うわっ、ちょっと待ったっ!」 「待ったなし」 ビシビシッ、ビシッ、ビシッ!! 豆が俺の顔や体に浴びせられる。 たとえぶつけられたのが豆でも、やっぱちよっと痛い。 「い、いてっ!」 「俺も痛かったんだよねぇ」 「く、久保ちゃんが投げた方が量が多かったっ!」 「そう?」 あやしげな笑みを浮かべた久保ちゃんの手には、再び豆が握られている。 俺は負けじと豆を掴んだ。 (くそぉっ、このままじゃマズい。リビングに一時撤退するぜ!) 牽制するために、久保ちゃんに豆を思い切り投げつけ、俺はリビングへと走った。 背中に豆が当たったが振り返ったりしない。 とにかく、ソファーの陰に隠れて防御しなきゃだなっ。 「そぉんなトコに隠れても無駄だよ。時任は絶対俺には勝てないから」 「なんで、んなことわかんだよっ!」 「俺にはねぇ、わかるの」 「絶対、負けねぇっ!!」 俺が豆を投げると、久保ちゃんも豆を投げてくる。 俺はソファーに隠れてそれをかわしてたけど、久保ちゃんは器用に少しだけ体を動かして避けてた。そういうのもなんか見ててムカツク。 なんか余裕っぽい。 「くそぉっ!って、あれ!?」 俺は何度目かの豆を投げようとして、あることに気づいた。 豆は投げたらなくなるものだったんだ。当たり前だけど。 でも、それは久保ちゃんだって同じコトだ。 そう思って久保ちゃんの方を見ると、久保ちゃんは俺の豆がなくなったことに気づいたらしく、ニッと笑った。 「俺、時任の分も豆買ってきてるんだよねぇ」 久保ちゃんは、豆の無くなった箱をゴミ箱に投げ捨てて、新しい箱を袋から取り出した。 「ウソッ、マジで!?」 「大マジ」 ぎゃぁぁ〜!! 俺はその後、久保ちゃんにめちゃくちゃやられた。 久保ちゃんは鬼だ。 やっぱ、俺よか久保ちゃんの方が鬼、似合うんじゃんかっ! ぶつぶつ言いながら、リビングの隅でぐちぐちしてると、久保ちゃんがダイニングから俺を呼んだ。 「いつまですねてんの? 巻き寿司あるから一緒に食べよ?」 「・・・・・」 いつもみたく優しい久保ちゃんが、俺様のために晩御飯用意してくれてる。 けど、俺はかなりぶすくれてしまっていた。 そんな俺を見た久保ちゃんはリビングまでやってきて、俯いてる俺の顔を強引に上げさせた。俺がぶすくれた顔のまま久保ちゃんを見ると、久保ちゃんは優しい瞳で俺を覗き込んできた。 「ごめん、時任。あやまるから、機嫌直してくれる?」 俺が悪くても、久保ちゃんが悪くても、あやまるのはいつも久保ちゃん。 俺に甘くて優しすぎる久保ちゃんに、時々戸惑ったりもするケド、久保ちゃんに負けないくらい、俺も久保ちゃんが好き。 「・・・・別に怒ってない」 俺がそう言うと、久保ちゃんはクスっと笑った。 「好きだよ、時任」 うん、俺も好き。でも、そんなこと言ってやらない。 俺は久保ちゃんの首に腕を絡めると、ゆっくりと自分の方に倒す。 すると、少し驚いたように久保ちゃんの肩が揺れたけど、すぐに久保ちゃんは俺の気持ちに気づいて俺の身体を抱きしめた。 豆まきなんかしなくても、俺達このままで十分じゃんか。 |
2002.2.3 「節分」 *WA部屋へ* |