コンビニ袋と線香花火…。
 夕方、一人でコンビニに買いモノに行った時、まだ五月なのに花火があって…、それを眺めてるとなんとなく欲しくなってカゴの中に放り込んだ。だからそのせいでコンビニ袋の中身を冷蔵庫とかに収めると、線香花火の束がだけが手に残る。
 けど、コンビニで見た時は買おうって思ったのに、今は手に残った線香花火を見ても、なんで欲しくなったのかはわからなくなってた。
 花火をするのは夏って決まってるワケじゃないけど、やっぱり花火をするのはまだ早いって気はする。去年、時任と花火をした時は、確か夜になっても空気が生ぬるくて蒸し暑い夜だった…。
 
 「たぶん…、またすぐに夏になるんだろうね…」

 テーブルに置きっぱなしになってた100円ライターを線香花火と一緒に持って、窓を開けてベランダに出ると…、思ってより気温が高くて暑くないけど寒くもない…。わずかに吹いてくる風が気持ち良くて目を細めると、暗くなり始めた街に明かりがぽつりぽつりとつき始めているのが見えた。
 今日は天気が良くないから、夕焼けもないから夜になるのが早い…。
 だから、ベランダに座り込んでライターをつけると、ゆらゆらと揺れてるオレンジ色の火が明るく見えて…、それを見てるとなんとなく…、

 時任は今頃なにしてるのかなぁって…、ちょっとだけ想った。
 
 暗くなってきたベランダで、束になってる中から一本だけ線香花火を出して火をつけて見る。そして小さくパチパチって音がすると、同じくらい小さい花みたいな火の粉が次々に咲いて、それからすぐに散って…、先の辺りに赤い丸い火の玉ができてきた。
 他の花火みたいに勢い良くなくて、じりじりと燃えてくのを見てると少しだけ早く燃えたらいいのにって気もしたけど、小さく小さくなっても燃え続けて咲き続けてる火の粉を見てると…、
 こんな風に燃える火もあるんだってコトを、なぜか初めて知った気がする…。ライターのオレンジ色の炎のように勢いよく燃えなくても、これもたぶん同じ火だから…、ちゃんと燃えてて熱いに違いなくて…、
 だからそれを確かめたくなって、まだ燃えてる線香花火を手のひらに押し付けて見ようとしたら…、なぜかいきなり手がぐいっと後ろに引っ張られた…。
 
 「あ…、玉が落ちた…」
 「じゃねぇよっ。そんなもん手に押し付けたら、マジでヤケドするじゃんかっ」
 「そう言われればそうかも…って、いつ帰ったの? お前」
 「今っ! ちゃんとただいまって言っただろっ」
 「そうだったっけ?」
 「あのなぁ…」
 「鵠さんの定期検診は?」
 「いつもどーりっ、調べたってなんにもわからねぇし変わりねぇよ」
 「そう…」
 「そんなことより、俺にも線香花火一本っ」
 「はいはい」
 「これって、もしかして去年の残り?」
 「いんや、コンビニ」
 「ふーん、まだ五月なのに花火とか売ってんだな」
 「早咲きならぬ…、早売りってヤツ?」
 「まあ、べつに花火がいつ売っててもいいけどさ…」
 「ん?」

 「なんとなく夏まで早く来て…、早く過ぎてく気ぃする…」

 そう言った時任の線香花火に火をつけると、俺がさっきやってたのより火薬が先の方にあるみたいで…、思ったよりも勢い良く燃えていく…。
 パチパチと火の粉をあげて…、次々と花が咲いて散って…、
 それは俺のよりもずっと綺麗だったけど、その分だけ早く燃えた火薬が少し大き目の赤い玉になって下の方で少し黒くなりかかってくすぶっていた。だから、このままだったら重くて、ちょっとでも揺らしたら火の粉を散らしながらすぐに下へと落ちる…。
 でも、たぶんコレが落ちても…、あーあ、落ちたってそれで終わりなんだろうけど、なぜか落ちる瞬間を見たくなくて、俺は手を伸ばして火の粉を散らし続けてる線香花火の先を強く掴んだ。

 「ば、バカっ!!!なにやってんだよっ!!!」
 「熱くないから、ヘーキ」
 「…って、素手でつかんで熱くねぇワケねぇだろっ!!」
 「でも、ホントに熱くないし?」
 「とにかくっ、早く花火握ってる手ぇ開けっ!」
 「・・・・・うーん、どうしても開かなきゃダメ?」
 「ダメに決まってんだろっ!!」

 時任に言われて線香花火を握ってる手を開くと皮膚が少し赤くなってて、火の玉が当たったところが点のように黒くなってる。けど、心配そうなカオして手のひらをのぞき込んでくれてる時任に申し訳ないくらい、やっぱり熱くも痛くもなかった。
 だから線香花火の火は表面を…、皮膚だけを焼いただけだったのかもしれない。
 皮膚だけを焼いただけだったから熱くも痛くもないし、なにも感じない…。
 でも、心配そうなカオをしてる時任を見てると、焼け焦げた皮膚のもっと奥から痛みが滲んでくるカンジがした。

 「やっぱヤケドしてるじゃんか…、それほどひどくはねぇけど早く冷やさないと…」

 ヤケドしてる手を引っ張ると、時任はそう言ってそのまま冷やすためにキッチンに連れて行こうとする。けど、さっきから痛んでるのは手なんかじゃなかったから、俺は逆に引っ張られた手を引き返して…、時任のカラダを腕の中に抱き込んだ…。
 すると時任はなにするんだって怒ったけど、離したくなくて腕に力を込める。そして逃げられないように動きを封じ込めると、時任の肩口に顔を埋めて目を閉じた。

 「冷やさなくても…、こうしてたらすぐに治るよ」
 「な、なに言ってんだよっ、こんなコトしててヤケドが治るわきゃねぇだろっ」
 「ん〜、まぁ、確かにこうしてても焼けた皮膚は治らないけど…」
 「だったらっ、早く…っ」
 「イヤ」
 「久保ちゃんっ」

 「いくら冷やして皮膚が治っても…、こうしてないと痛みは止まらないから…」

 ごめんねって言って…、それから閉じた目を開いて空を見ると…、
 少しだけ明るかった空は暗闇に覆われていて、星の見えない空には白い月だけが一つだけ浮かんでいる。その白い月から届く柔らかい光は太陽のように熱くなくて、そんな当たり前のコトになぜかほっとして細く長く息を吐くと…、
 時任はなにも言わずに、俺の腕の中から同じように白い月を見上げた…。
 
 「夏になったら花火しようぜ…。今度は消火用のバケツ用意して…」
 「うん…」
 「また、二人でベランダで…」

 「・・・・・そうだね」

 空が闇に包まれて吹いてく風が、だんだんと涼しくはじめる。
 その風は春の初めの頃の風とは違って、抱きしめ合うほど冷たくも寒くもなかったけれど…、二人きりのベランダで柔らかで穏やかすぎる月の光を浴びながら…、

 眠るように瞳を閉じた時任を、胸の痛みと一緒に抱きしめ続けていた…。


『線香花火』 2004.5.6更新


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