何も起こらない日とか、何もない日とか、別にあんまりそんなの気にしたことねぇけど、こういう時ってやっぱ普段考えないようなコトとか考えちまうもんなのかもしれない。 今日の朝から、俺はちょっとワケがあって久保ちゃんをじっと観察していた。 「時任、コーヒーいる?」 「いる」 「牛乳入り?」 「うん」 料理とか洗濯とかなんでも器用にやるんだよなぁ、久保ちゃんて…。 俺は一応、片付けとか洗濯くらいはできるけど、久保ちゃんみたくうまくできるわけじゃない。 そういうできるようになったコトは、全部久保ちゃんに習ったことだから、それは当然なのかもしんねぇけどな。 でも、なんかちょっと不思議な気がする。 久保ちゃんはこういうの誰に習ったんだろう? 「はい、どうぞ」 「サンキュ」 俺がブツブツ心の中で呟いてると、久保ちゃんが俺の前にコーヒーを置いた。 安物だけど飲めないほどじゃないって言ってたっけ、このコーヒー。 ホントは安くても高くてもコーヒーなんか苦くて飲めねぇんだけど、久保ちゃんが牛乳入れてくれてから飲めるようになった。苦いのは嫌だけど、コーヒーの匂い好きだったからこうやっていつも飲んでる。 俺と違って久保ちゃんはいつも何にも入れないけどな。 そーとーな甘党のクセに。 「時任、ゲームする?」 「今はしねぇよ」 「ふーん。じゃ、俺がやるわ」 久保ちゃんはコーヒーを床に置くと、コントローラーを手に取る。 たぶん、こないだからやってるヤツだよな。 あっでも、これやられるのは結構嫌かも…。 セーブできるトコに行くまで晩ゴハン作ってくれねぇんだもん、久保ちゃん。 「後で変われよ」 「…うん」 こういう生返事する時は、ぜってぇ今言ったこと忘れてる。 久保ちゃんに言わせると、ゲームやってる俺も同じようなモンらしい。 …実はこうやって、今は二人でやったりとかしてるゲームも最初良くわかんなかった。 けど、久保ちゃんがやってるの見たらできるようになった。 一回わかっちまうとコントローラーの操作とかそういうのはどのゲームでも似てるから、教えてもらわなくても全然平気。テクに関しては、久保ちゃんに勝てねぇからまだまだかもしんねぇけど…。 「久保ちゃん」 「ん〜?」 「バカ」 「うん」 「アホ」 「…うん」 「ヘンタイ」 「…ん」 かんっぺきに俺の話聞いてねぇ。 かなりムカツクよな、こーいうのっ。 俺はムカムカしながら、ひたすら画面を見つつコントローラーをカチャカチャやってる久保ちゃんの後ろの忍び寄った。 ・・・・・俺を無視したコト、後悔させてやる。 バシッ、バシッ!! 俺は朝から考えてたコトの実験をするため、久保ちゃんの頭を軽く二度手で叩いた。 あまり痛くない程度だけど、衝撃はあるはずっ。 けど久保ちゃんはピクリとも動かなかった。 ・・・・か、かなり鈍いのかもしかして? 俺は手を振り上げると、今度は少し強く久保ちゃんの頭を叩いた。 バシッ、バシッ、バシッ!!! ・・・・・・・しぶとい。 よおっし、もっかい叩いてやれっ! そう思って手を振り上げた瞬間、なぜか俺の頭にバシッと衝撃があった。 「なっ、なに?」 一瞬なんなのかわからなかったケド、すぐに久保ちゃんが俺の頭を叩いたってわかった。 何も無言で叩くことねぇじゃんっ! た、確かに最初に叩いたのは俺だけどさ。 俺のコト無視った久保ちゃんも悪いっ! バシッ! バシッ、バシッ!! 「なんで一回叩いたのに、二回叩き返すんだよっ」 「だってお前、この前に五回俺のコト叩いてるでしょ?だから後残り三回ね」 「そんなにきっちり返すことねぇじゃんかっ!」 「ん〜、こういうことはやっぱきっちりしないとね」 「久保ちゃんのオニ!」 「倍返しにされたい?」 「三倍返しにしてやるっ!」 「じゃ、俺は四倍返しね」 ビシッ、バシッ!! バシッ!! リビングで、久保ちゃんと俺の攻防戦が始まった。 ここであまり走ったりできないから、追いかけっこじゃなくて叩きあいになる。 久保ちゃんは器用に俺の攻撃をさけてた。 ほんっとマジでムカツクっ!! ぜってぇ、五倍返してやるっ!! …なーんて思ってたケド、俺のコト叩いてる久保ちゃんの顔を見た瞬間、五倍はやめとこうと思った。 だって、だってさ。 なんでかわかんねぇけど、久保ちゃんの目がすっげ−優しかったから…。 こういうのって反則だよな。 仕返しできねぇじゃんっ。 「痛い?」 「痛ぇに決まってんだろ?!」 「自業自得」 「・・・・・むっ」 「あっ、むくれてる」 「うるせぇ」 叩きあいしてるのに、久保ちゃんも俺もいつの間にか笑い出してた。 何もおかしいことなんかないはずだけど、なんでかわかんないけど楽しいカンジ。 久保ちゃんが笑いながら手を伸ばして俺のわき腹くすぐって、俺も久保ちゃんの足とかくすぐった。 そうしてるとさ、なんか気持ちまでくすぐったくなってくる。 笑って笑って微笑んで、俺も久保ちゃんも最後にはもつれ込むように床に倒れた。 「俺様の勝ちっ」 「目じりに涙滲んでるのに?」 久保ちゃんが俺の目元にキスしたから、俺は久保ちゃんの鼻にキスする。 子どもがするイタズラみたいな気持ちで、俺は久保ちゃんに、久保ちゃんは俺にたくさんたくさんキスした。 チュッと派手な音立ててみたりとか、跡つけてみたりとか、ほんっとバカみたいにたくさん。 「あっ、バカ。見えるじゃんソコ」 「ギリギリセーフってとこ」 「ウソばっかっ」 キスしていく内に服が邪魔になって脱いで脱がせて、俺達は裸になった。 別にそういうつもりなんかじゃなかったけど、すっごく自然に久保ちゃんとセックスしたいって思ってたりする。 だから、拒むつもりなんて全然ない。 俺は久保ちゃんの前に屈み込むと、すでに半分くらい立ち上がってるモノを口に含んだ。 「時任」 「…んっ」 こういうコトはいつもはあんまやらねぇけど、今日はなんか二人で気持ち良くなりたかったから、恥ずかしいキモチをぎゅっと耐えて久保ちゃんのモノに舌を這わせた。 そうすると、半分くらいだったのが完全に立ち上がって大きくなる。 俺が視線を上げて久保ちゃんを見ると、久保ちゃんも俺の顔を見てた。 うわぁ…、なんかすっごく色っぽい顔してる。 なんて思った瞬間、俺の身体が嫌ってほど素直に反応した。 「俺ばっかじゃつらいでしょ? おいで時任」 俺は言われるまま久保ちゃんに身体を預ける。 すると久保ちゃんは俺がしてるみたいに、反応しちゃったモノを口に含んだ。 腰から湧き上がってくる快感に俺が身震いをする。 …気持ち良くてもうダメかも。 快感だけを追って、自分がどんなカッコしてるとか、そんなのはもうどうでも良くなって、俺は自分から足開いて久保ちゃんにすがった。 口で言えない分だけ、身体で抱いてくれって言ったような気がする。 「…なんかさ」 「んっ、あぁ…」 「気持ちよすぎて…、抱き殺しちゃいそうだなぁ」 「…あっ、と、止まんなバカ」 「あわてなくても、気を失うまで抱いててあげるよ」 「うぁぁっ、あ…」 …目が覚めたら久保ちゃんがまだ俺の中にいた。 もしかして、マジで気ぃ失っちまったのか? ヤッてた間の記憶がいまいち飛んでて、俺は少し顔が熱くなってくるのをカンジながら、久保ちゃんの顔を見た。 「気がついた?」 「…うん」 「もっかいやる?」 「えっ、あっ、ちょっと待てっ」 さすがにこれ以上ヤッたらきついので俺があわてると、久保ちゃんは小さく笑って俺の中から出て行った。 くっそ〜、からかいやがったなっ。 んなことすると、もう抱かせてやらねぇから覚悟しとけよ。 なんて思ってたけど、散々自分から抱かれたせいでそれは言えなかった。 ちょっとだけ後悔してたりとかして…。 赤い顔を隠すために枕に顔を埋めると、久保ちゃんがセッタを口にくわえて火をつけながら俺に質問をしてきた。 「で、なんで時任クンは俺のこと叩いたりしたの?」 「それは…」 「なんかワケあるよね?」 「まぁ、あるにはあるけどさ」 「何?」 これで言わないって言ったら、たぶんマジで抱き殺されるかも…。 なんて考えちまった俺は、仕方なく実験のことを久保ちゃんに話した。 「葛西のおっちゃんがさ」 「葛西サンが?」 「久保ちゃんが俺に甘すぎるっつって言ってたから、ホントにそーなのかどうなのかって、ちよっと実験した」 「それと叩くのと関係ない気がするけど」 「あるよっ。甘かったら、俺が叩いても怒ったりとか叩き返したりしないってコトじゃんかっ」 「なるほど、そういう基準ではかったワケね。だから実験の結果、俺は時任に甘くないって?」 「…たぶん」 「ふーん、まあそれでいいんじゃないの。せっかく実験したんだし」 「なんだよソレっ」 「時任にはわかんなくていいってコト」 「なんでわかんなくていいんだよっ」 「俺が自覚してればいいだけって話だから」 「わっかんねぇ」 「だから、わかんなくていいよ」 結局、あの後キスとかで誤魔化されて、うやむやにされちまった。 ホントは甘いとか甘くないとか別にどうでも良かったけど、甘すぎるのは良くないとかなんとかって聞いたからちょっと知りたかっただけ。 …ぜんっぜんよくわかんなかったけど。 久保ちゃんのキスがスゴク甘くて優しいのだけはわかった。 |
2002.5.24 「砂糖菓子」 *WA部屋へ* |