空が高くなったなぁって…、屋上でぼんやりしてたらなんとなくそう思った。
 
 横を向くと久保ちゃんがセッタ吸ってて、その白い煙が上へとあがってくのを見てると…、それに気づいた久保ちゃんが俺の方を向く。
 そしたら近くで目が合って、俺も久保ちゃんも笑った。
 さっきから一言もなにも言わなくて、二人でぼんやりしてたけど…、
 それでも少し触れてる肩とか、そんなトコから色んなのが伝わってくるカンジがして…、こんな風に空を眺めてんのもいいかもって気がした。

 「なに笑ってんだよっ、久保ちゃん」
 「そーいうお前こそ、なに笑ってんの?」
 「べっつにっ」
 「じゃ、右に同じく」
 「言うと思ったっ」
 「そう?」
 
 ちょっとだけ話してまた笑って、それから二人で空を見上げる。いつもはこうしてると桂木に見つかるトコだけど、今日は公務はなくて非番だった。
 学校に当たり前にヒトがいっぱいいて、執行部してて…、その中にいる時は気づかないコトも、二人きりになると気づいたり思ったりする。
 けど…、やっぱいつも言葉にならなくて…、
 今も言葉にはならなくて…、久保ちゃんの肩に頭をコツンとぶつけた。
 そしたら久保ちゃんの顔が近づいてきて、よけないでそのままでいたら…、

 ・・・・・目を閉じないで、空を見つめたままキスされた。

 ゆっくりだけど深いキスをしながら空を見てると、なぜかさっきよりも空が青く見えて…、その青を見てたら空が落ちてきそうな気がする。
 だから、長い長いキスが終わった後にそう言ったら…、久保ちゃんは手に持ってたセッタをまたくわえて、
 「そういえば、人類滅亡とか騒いでた時あったけど、空から何も降って来なかったよねぇ…」
って言いながら、ふーっと俺とキスした唇から煙を吐き出した。
 久保ちゃんが言ってるのは俺らがまだ会ってなかった時のコトで、空からなんかが降ってくるとか世紀末だとかわけわかんねぇコトをテレビでも言ってた頃のコトだけど…、マジで滅亡したらなんてのは考えたこともない。
 でも滅亡とかそういうんじゃなくて、ちゃんと今があって良かったって想った。

 「空から降るとかって、なんでそんなコトわかんだよ?」
 「さぁねぇ?」
 「まっ、べつに空からなんか降ってきても、俺様は無敵だから大丈夫に決まってるけどな」
 「正義の味方だし?」
 「そーいう久保ちゃんだって、俺とオンナジだろ?」

 「・・・たぶんね」
 
 そう言った久保ちゃんは、俺の方を見ないで空ばかり見てた。
 たぶんって…、返事だけしてなんにも言わないで…。
 だから久保ちゃんの頬に手を伸ばして、ぐいっと引っ張って無理やり俺の方を向かせた。

 「たぶん、じゃなくて絶対だろ?」
 「なんで?」
 「なんでって、それは…」
 「なに?」

 「オンナジじゃないとココにいたって執行部してたって…、いつまでたっても会えねぇじゃんか…」

 もしも会ってなかったら会えなかったコトを後悔するコトすらできなくて…、
 一回も手を握りしめるコトも…、キスするコトもないってことで…、
 それは当たり前のことなのかもしんないけど、どうしてもイヤだった。
 だから…、俺が無敵なら久保ちゃんも無敵で…、
 俺がこんな風に空を見上げてるなら、オンナジ空を久保ちゃんも眺めてて欲しかった。

 こんな風に落ちてきそうなくらい…、青い空を…。
 
 久保ちゃんが見てるのとオンナジ空を眺めながら俺がバシッと背中を叩くと、久保ちゃんは吸ってたセッタを携帯用灰皿の中に放り込んで…、
 空をじっと睨んでる俺の肩を、ぎゅっと強く抱きしめてきた。

 「ねぇ、時任…」
 「な、なに?」
 「もっかいキスしよっか?」
 「・・・・うん」

 「今度は空が落ちて来ないように…、ちゃんと目を閉じて…」

 当然で当たり前のコト…、見上げてる空が青いってコトも…、
 たぶんきっと、ホントは当然のことなんて何一つなくて…、
 全部が偶然とか奇跡とか、そんなモノで出来てるのかもしれない。
 けど、それを当たり前だって言ってるのは、そんな風に信じてんのは…、
 ずっとずっとこのままでいたいって…、知らないうちに願って想ってるってことなのかもって気がした。
 こうやって一緒にいて、抱きしめ合ってキスして…、
 そうしてる今がいつまでも続いて、それが当たり前なんだって…。
 だから俺は…、重なってく唇の柔らかい感触を感じながら、落ちてきそうな青い空が見えないようにゆっくりと目を閉じた。

 ずっと変わらなくてなくならない言葉にならないキモチを…、抱きしめて…。


                                             2003.9.28
 「屋上で」


                     *荒磯部屋へ*