このお話は、距離と対になってます。


 冗談みたいにふざけて肩に触れてくる手、からめられる腕。
 男同士だからこういうのが不自然ってワケじゃない。
 けど、そういうのを不自然だってカンジ始めたのは、たぶん俺がおかしくなったからって気ぃする。
 俺のコト、時々見つめてくる久保ちゃんの視線が、すごく気になって仕方なくなったから…。

 「さっきから、俺のコトずっと見てるだろ?」
 「うん」
 「なんで?」
 「さあ、なんでかなぁ?」
 
 見つめて、見つめられてキモチが落ち着かない。
 久保ちゃんはいつも何聞いても答えてくれなくて、そんなふうに思っちゃってるのは俺だけなんだって思い知ったりする。
 視線が合った時に微笑む久保ちゃんの表情とか、触れてくる手がすごく優しくカンジちゃうのはやっぱ気のせいなのかな?
 俺のコト・・・・どう思ってんの? 久保ちゃん。
 
 「時任」
 「うわっ、いきなり何すんだよ」
 「愛情確認」
 「なんだそりゃ」

 久保ちゃんはそんな俺のキモチとかお構いなしに、俺のこと抱きしめる。
 こんなふうにされっと俺がどんなになっちゃうか、久保ちゃんは知らない。
 男同士でヘンだってそう思ってんのに、久保ちゃんがしてるみたいに俺も久保ちゃんのコト抱きしめたくなって、息が触れるくらいに近づいた距離が少しも縮まらないコトに切なくなる。
 ・・・・・やっぱヘンだよな、こーいうの。

 久保ちゃんとキスしたいなんて…。

 たぶん、俺がもうちょっとだけ背伸びしたら、久保ちゃんの唇にキスできる。
 ほんのちょっとだけ、爪先立ちしたら届くのに。
 久保ちゃんに拒まれるのが恐くてできない。

 「顔赤いよ、時任」
 「そ、そんなことねぇよっ」
 「誰かがココに入ってくるまで、こうしてよっか?」
 
 久保ちゃんって、ホント無神経。
 こんなにドキドキしてて心臓が破裂しちゃいそうなのに、なんで気づいてくんないんだろ。
 …バカ。
 そんなにぎゅっと俺のコト抱きしめたりすんなよ。
 痛くて泣きたくなるだろ?

 「今日は天気いいね」
 「ごまかすなっての」
 「そんなにイヤ?」
 「…べつにイヤじゃないけど」

 全然イヤじゃねぇよ、久保ちゃん。
 イヤじゃねぇから困ってんの。
 すっごく、すっごく、困ってんの。

 こういうキモチ、なんて言うんだろ?

 なぁ、久保ちゃん。
 ふざけてないで、誤魔化さないでちゃんと答えてよ。
 
                            『視線』 2002.5.30更新

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