午前三時に目が覚めた。 寝たのが午前一時だったから、それからおよそたった二時間後だったりする。 俺は小さく欠伸をしてから、時間を確認するために取った腕時計をもとの位置に戻した。 う〜ん、今日は早起きしなきゃなんないんだけどねぇ。 眠る前にすでに日付は変わってたケド、それでもあと五時間は眠りの中にいられる予定だった。それなのに俺は二度寝することなく、しっかりと覚醒なんかしちゃってる。 でも、それにはちゃんとした理由があったりした。 その理由を確認すべく、俺は上体だけ起こして隣に眠る時任を見る。 「うっ・・・・」 時任は苦しそうに布団の端を握りしめて、ぎゅっと目を閉じたまま恐怖に怯えた顔してた。普段の強気で勝気な姿が信じられないほど、小さく丸くなって声にもならない悲鳴あげてる。 現実じゃなく、夢の中で。 けれどそれは夢じゃなくてホントにあったコトで。 なくしたはずの記憶と過去が、まるで古びたテープのように夢を借りて再生されてる。たぶんね、これはそーいうこと。 俺は手を伸ばして、呼吸困難を起こしてしまいそうな時任の身体を抱き込んだ。 起こしてしまわないように、注意して。 「・・・・・っ」 一瞬、身体がぴくっと揺れたけど、時任は目を覚まさなかった。 俺はその姿勢のまま、そっと時任の右手を探り当て、その指に自分の指をからめる。 俺のいない世界にとらわれてる時任に、少しでもこのぬくもりが伝わるように。 それは、ガラじゃないけど祈りみたいな気持ちに似てた。 祈ってんのはカミサマじゃないけど。 午前三時半。 まだ時任は俺のいない世界にいる。 「・・・・くっ・・・・・」 こうやって腕の中で時任がうなされてんの聞いてて、気づいたことあったんだよね。 それは、時任が一回も助けてって言ったことがないってコト。 時任は誰にも助けなんか求めない。 けど、あきらめなんかじゃない。 それは、絶対に負けないっていう意思と、時任らしい生きるプライドで。 ただナミダに暮れて助けを待つより、みっともなくっても、情けなくっても、足掻いて足掻いて、足掻きまくって、往生際悪く生き抜くカンジ。 だから俺は、絶対に時任を起こしたりしない。 自分で夢からさめなきゃね。 自力で戻っておいで、時任。 俺のそばに。 「うっ、う・・・・・・」 時任の身体が大きく震える。 夢の中で何か衝撃を受けたらしい。 時任は今まで眠ってたのがウソみたいにパチッと目を開いた。 「・・・あっ、はぁはぁ」 息が切れてる。 夢の中で全力で動いたのかもしれない。 俺は何も言わずに、時任を抱きかかえたままじっとしてた。 すると時任は完全に夢から覚めたみたいで、自分がドコにいるのか思い出したみたいに俺の顔を見た。 「・・・・・久保ちゃん?」 「起きた?」 「うん・・・・」 「夢見てた?」 「・・・けどへーき」 「うん」 俺は時任を今よりもっと抱きしめる。 そしたら、時任はぎゅっと俺の背中を抱きしめた。 それは夢の続きで助けを求めてるんじゃなく、お互いの存在を確かめるようなカンカクでする『おかえりなさい』みたいなカンジ。 何も言わなくても、身体が想いを伝えてくれる。 指先が触れるだけでも十分なほどに。 「おやすみ、時任」 「おやすみ、久保ちゃん」 今度は眠りが夢も見ないくらい深くなるよう、俺達は抱きしめあったまま眠りについた。 俺が眠れるのは後二時間くらい。 もう少しで、また朝がやってくる。 |
2002.2.19 「眠りの森」 *WA部屋へ* |