昨日、久保ちゃんとケンカした。 なんでかって言うと、俺が下駄箱ん中に入ってたラブレター持って帰ったから…。 持って帰ったりとかしたのは、ただせっかく書いてくれたのに悪いとか、そういう単純なキモチだったし、ただそれだけだった。 ゴメンって、付き合えないからって、そう返事しようって。 なのに久保ちゃんは、ポケットからその手紙見つけた瞬間、 「ふーん、この子と付き合うの?」 なんて言った。 まるで、俺が久保ちゃんと別れて、まだ顔も知らない女と付き合うみたいに。 俺はそう言われた瞬間、自分でショック受けてんか、怒ってんのか全然わかんなかった。 けど、全然なんにもわかんなかったのに、俺は久保ちゃんのこと怒鳴りつけて…。 それから、久保ちゃんのこと殴った。 ・・・・・・・思いっきり。 「なんでそういうコト平気で言ったりすんだよっ!!」 「・・・・・・っ!」 「俺のことためすみたいな言い方して、それで俺が女と付き合ったりとかしたら、今みたいな平気な顔してさよならすんの?」 「時任が付き合いたいって言うなら、しょうがないでしょ?」 「へぇー、それであきらめんの?」 「うん」 「そうかよっ!」 「…俺は時任じゃないから」 「俺も久保ちゃんじゃねぇから、久保ちゃんのことなんかわかんねぇよっ!」 顔殴って、腹殴って、久保ちゃんのコトめちゃくちゃ叩いた。 でも、そんなにされても反撃とかぜんぜんしてこなくて、それがなんでかわかんねぇけどすごく痛い。 殴ってんのは俺の方なのに、すごくすごく痛かった。 痛くて歯を食いしばって、それでも俺は久保ちゃんのこと責め続けた。 「だったら、なんで俺と一緒になんか暮らしてんだよっ!別れんなら、いなくなんなら、始めっからいない方がいいじゃんっ!」 「・・・・・・・」 「いなくなれよっ!俺の前からいなくなりやがれっ!!」 そう言った瞬間、自分の耳まで心臓の音が聞こえるみたいなカンジして。 その音があんまり大きかったから、部屋から出てく久保ちゃんが俺に何を言ったかもわかんなかった。 バタンッてドアが閉じて、そうしてから俺は自分の言ったコトを死ぬほど後悔したけどもう遅い。 久保ちゃんはその晩、部屋に帰って来なかった。 …もう帰って来ないかもしんない。 俺が出てけって言ったから。 俺は俺のせいで、久保ちゃんとサヨナラしなきゃなんない。 俺は久保ちゃんじゃないけど、そんなの当たり前だけど…、想ってるコトとかそういうの少しはわかってほしいなんてのはやっぱダメなのかな…。 俺は何があってもさよならしたくない。 だから、久保ちゃんにもサヨナラしてほしくないなんてさ。 そういうのは、ワガママなのかもな、なんて…。 ・・・・・・なんかもうダメ。 痛くて苦しくて壊れちゃいそう。 とにかく、ここを出なきゃダメだよな。 出てけって言ったケド、この部屋久保ちゃんのだし…。 昨日、時任とケンカした。 きっかけは、時任が持ってたラブレター。 俺はそれ見つけた時、時任にも選ぶ権利はあるよなぁなんて、ガラにもなくそんなことを思った。 けど、そう思った瞬間、ドス黒い感情が沸いてくるのカンジて、それを誤魔化すために、 「ふーん、この子と付き合うの?」 なんて言った。 そしたら時任がいきなり俺のコト殴りつけてきて…。 時任が女のコと付き合うって言ったらサヨナラするのかって怒鳴られた。 その時俺はしょうがないって言ったけど…。 本当にそう思ってたと思う? 時任。 簡単にサヨナラできたら、俺は自分のココロの汚さに苦笑したりしない。 独占欲剥き出しで、お前のこと抱いて犯して理性なんかとっくの昔になくなってるのに、それでもぜんぜん足りないからココロまで犯して縛りたいなんて思ったりもしなかった。 いなくなるなら最初から一緒にいたりしないし、手放せるなら抱いたりしない。 離れられるなら、こんなに何もかもを欲しがったりしないのに…。 それなのに、俺はキモチを誤魔化して時任を怒らせた。 サヨナラって言われて手を振り返せない自分を知ってたけど、時任の真っ直ぐな瞳を見てると、時々その瞳があんまり綺麗だから見つめていられなくなる。 そう、俺は時任じゃない。 だから、時任の何もかもをわかってるワケじゃない。 いなくなれって言った言葉が、どれくらい本気なのかも…。 時任の口からいなくなれって言われたのは初めてだったけど、言われてショックっていうよりもなんだか、なにもかもがなくなっちゃったみたいなカンジがした。 時任に否定されちゃったら、たぶん俺はもう終わりなのかもしれない。 途方に暮れて俺が壁を背にして座ってると、玄関のドアがゆっくりと開いて真っ赤な目をした時任が出てきた。 もしかして、泣いてたの? そんな痛そうな哀しい顔して…。 「くぼちゃん…、なんで?」 「もしかして、出てったって思った?」 「・・・・・・」 「ゴメンね。出てけって言われても、ここから離れられなかったから」 「お、おれ…さ…」 時任は泣いてた余韻が残ってるカンジでうまく話せなかった。 そんな時任を見ていられなくて、俺は腕を引っ張って時任を抱き込むと、その背中を撫でるみたいなカンジでさする。痛みをこらえるみたいにぎゅっと目を閉じながら泣いている時任は、苦しそうに小さく咳をして、それでも喋ろうとしていた。 「時任。無理に喋らなくていいから、じっとしてて?」 俺がそう言うと、時任は首を子供がイヤイヤするみたいに振って俺の頬を手で撫でる。 その手はスゴク優しくて暖かかった。 「…いた、かった?」 「痛くないよ?」 「ウソ…、ばっか…」 「ホントだから」 「…ごめ、ん、くぼちゃん」 「ゴメンね時任。いっぱい痛くさせて」 「いたく…、ない」 「痛そうな顔してるよ?」 「・・・・・・・痛いのは…、くぼちゃんがいなくなっ、たって思ったから…」 「時任」 「サヨナラ…したくない…」 「俺もサヨナラしたくないから、絶対に」 「…うん」 俺はサヨナラしたくないって泣く時任を抱きしめながら、そんな風に俺のこと想って泣いてる時任をカンジて安心してた。 泣いてほしくないって思ってるのも本当なのになんでだろう? 時任の言った通り、俺は時任のことためしてたのかもしれない。 こういうのって、最低だよね。 ためして泣かせて、自己満足に浸ってるなんて…。 こんな俺のコト許してくれなくてもいいから、ただひたすらそばにいて欲しいなんて願ってる俺は…。 やっぱり、もうすでに壊れちゃってるのかもしれない。 「くぼちゃ…」 「うん?」 「…出てく時、…なんて言った?」 「行ってきますって言ったよ?」 「な、んで?」 「行ってきますって言ったら、ただいまって言えるから」 「お、かえり…、くぼちゃ…」 「ただいま、時任」 どこにも行くなって、離れるなって。 そう怒鳴って怒って、引き止めて欲しいなんて願ったりする自分が嫌になる。 一緒にいるからって離れないからって、そういう自分の気持ちだけじゃ満足できなくて、一緒にいてほしいって離れたくないって言って欲しくなった。 どうして、こんなにキモチが想いが欲しくなるんだろう? こんなキモチはやっぱ壊れてるのかな? 俺は久保ちゃんに抱きしめられながら、ラブレターは悪いケド捨てようって思った。 自分の想いだけで、ココロが一杯だから。 |
2002.6.19 「ラブレター」 *荒磯部屋へ* |