・・・・・なんか、食いたくない。


 腹は確かに減ってんだけど、やってるゲームの映ってるテレビ画面見ながら、そんでもって、コントローラーのボタンをカチカチ押しながら…、
 そう思って、はぁー…っと息を吐く。
 でも、こういうのは初めてじゃなくて、いつものコトなんだけどさ。
 一人でウチに居る時は、なんか腹減ってるのに食べたい気分になんない。
 ポテチとか、そーいうのはつまんで食うけど、メシは気分じゃねぇっつーか…、
 おまけに久保ちゃんに食えって言われてるし、とか思って無理に食うと、ウマいはずなのにウマくねぇんだよなぁ…、コレが。
 味覚っつーの? それがちょっちヘンになってるカンジでさ。
 けど、二人ん時はバグバク食ってっから、久保ちゃんがいつも首捻ってる。
 『あんな食ってて、なんで太んないの? お前』とかつって…・。
 しかも、セクハラで脇腹触ってくっから、そういう時は蹴り飛ばすけど、太んない理由に心当たりはあっても、久保ちゃんにはぜっってぇ言わない。
 心配かけたくないっていうのもあるけど、なんかムカツクし…っ。
 …っていうのも、自分でも不思議で、思わずポロッと久保ちゃんじゃなくて、
 昨日、偶然会った葛西のおっさんと新木さんに、ファミレスでメシ奢ってもらいながら、言っちまったんだ。
 そん時のメシは、いつもよかマシでウマかったから…、なーんとなく。
 そしたら、葛西のおっさんは頭をガシガシ掻いて、口をへの字に曲げて、新木さんは久しぶりに食ったらしいハンバーグを、皿の上にポロリと落とした。

 『あー…、それはアレじゃないのかなぁ。久保田君が居なくて、寂しいとか?』
 『は? なんで、そーなんだよ。俺は久保ちゃんじゃなくて、メシの話をしてんだけど?』
 『だから、久保君が居なくて寂しいとか心配とか、そういうのでメシが喉を通らないっていうか、味覚がおかしくなってるんじゃないっかって』
 『ば…っ、そんなんあり得ねぇって…っ。ベツに待ってりゃ、久保ちゃんは必ず帰ってくるし、心配とか全然してねえしっ』
 『もしかして、自覚ナシ?』
 『だーかーらっ、違う…っげほげほ…って!』

 新木さんがヘンなコトいうから、何かが喉につっかえたっ。
 つか、そんなコドモみてぇなの、マジであり得ねぇって!
 そう思って完全否定したけど、新木さんは勝手に納得してて信じてくんないしっ、
 頭を掻いてた葛西さんは、『…ったく、アイツは』とか何とか言いながら、ケータイ片手に席を立って、どっかに行っちまうし…っ、
 何なんだよ…っとか思ってると、俺のケータイに着信アリ。
 誰からなのかは見るまでもなくて、久保ちゃんからだった。

 『今日の晩メシ…、何がいい?』

 ・・・・・今日の晩メシってコトは、久保ちゃんが帰ってくるってコト。
 最近、ずっとバイトばっかで夜居なかったから…、うれしかった。
 今日の晩メシのコトを考えると、今食ってるのに腹が鳴りそうだった。
 でも、そんな俺を新木さんがじーっと見てるしっ、なんか心配とか、そーいうのしてたってぽく見られたくなくて、俺はそんな素振りを見せないで、ぎゅっとケータイを握りしめるっっ。
そしたら・・・・・・、ケータイがご臨終した。

 『うぎゃあぁぁ・・・・・っ!!』

 そんなカンジで、昨日、晩メシの材料の入ったスーパーの袋を片手にご臨終したケータイを見た久保ちゃんは、俺は何も言ってねぇのに、何かわかったみたいに『うん…』ってうなづいて、俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
 けど、今度はそんな久保ちゃんに、俺が不思議そうに首を傾げた。

 『なに? どーかしたのか?』
 『・・・・・いんや、ベツに何でもないよ』

 昨日の晩メシは、久保ちゃんの作ったチャーハンだった。
 良く作ってくれる、定番のキムチチャーハン。
 でも、俺はバクバク食べて、おかわりした。
 定番だけど、ウマかった。
 けど、今日の俺の晩メシは、一人分作る気力ねぇからコンビニ弁当で…、
 俺は買って来てるのにゲームしながら、弁当よりポテチに手を伸ばしてた。
 新木さんに言われて…、そうかもとか思い始めてても…、
 心配なんかしてねぇし…っと、パリッとポテチを噛み砕く。
 でも、ホントはそうかもって自分でわかってっから、ポテチまで味気ない。
 一体、何なんだよっとか自分で思って、ガキみてぇじゃんとか思ってて…、
 やっぱ食いたくなかった…んだけど、いきなり開いたドアを見て、俺はコントローラーを手に、そのままの状態で固まった。

 「な、んで…、今日はバイトじゃ…?」
 「んー、まぁそうなんだけどね。ちょっち用事思い出したから、一時帰宅」
 「はぁ? 一時帰宅!?」
 「そ、作ったら、また行くから」
 「作ったらって、何を?」
 「カレー」
 「か、カレーって、食うカレー?」

 「うん、お前の晩メシ」

 久保ちゃんに俺の晩メシとか言われて、すぐにテーブルの上の弁当を指差したけど、
 き、聞く耳持たねぇっつか、持ってねぇみたいで、スーパーの袋片手に、久保ちゃんはキッチンへ…。
 えぇ…っ、マジか!??とか思ってっと、ホントにカレーを作り始めた。
 手際よく野菜をコンコンって包丁で切って、鍋に入れて炒めて…、
 それから、煮込んで様子を見る。
 カレーの作り方は、俺も久保ちゃんに教えてもらって知ってのに、わざわざ一時帰宅までして、作る理由がわからなかった。

・・・・・・・・なんで?

 鍋を見つめる久保ちゃんの横顔を眺めながら、俺はそう問いかけたくてたまらない。
 してたゲームは、いつの間にか終っちまってたけど、久保ちゃんの行動が…、
 その理由が気になって、俺はそれにぜんぜん気づいてなかった。
 もしかして・・・、何かあったのか…とか…、
 脳裏に浮かんでくんのは、なぜか良くないコトばっかで…、
 俺は思わず、そんなのを振り払うために頭を振る。
 すると、カレーの匂いが漂ってくるのと同時に、久保ちゃんが俺の方を見て微笑んだ。

 「カレーが無くなるまでには、帰ってくるから…」
 「え?」
 「もしも、帰りが遅くなるコトがあっても、カレーが無くなるまでには帰るって約束。ホントは、ソレをするための一時帰宅」
 「…って、何でそんな約束っ」
 「必ず守るから、カレー食べて待っててよ。それとも、そんな約束はしたくない?」
 「・・・・・・・・・」

 カレーの匂いも、必ず守るって言う久保ちゃんの微笑みも優しくてあったかい。
 すごくあったかくて優しくて…、なぜかソレが胸ん中に染みてきて…、
 タマネギ切ったのは久保ちゃんなのに、鼻の辺りがツンとする…。
 ホントはずっとずっと心配だったんだって…、その時になって気づいたけど…、
 俺はそれを口にしたりしないで、胸いっぱいにカレーの匂いを吸い込んで笑った。

 「そんなくらいじゃ、すぐに食っちまうからなっ。そしたら、早く帰って来いよっ、約束だかんな!」

 そんな俺の言葉に、了解と言った久保ちゃんはそれから約束を守ってくれてる。
 だから、久保ちゃんが帰らない日の晩メシは、必ずカレーだ。
 けど、これを食ったら、何があっても帰って来るんだって思ったら、
 何がなんでも食うぞって気になるし…、久保ちゃんが作ってくれてるからさ…、
 やっぱ…、ウマい…。
 それで前よりも少し太った俺を見た久保ちゃんは、満足そうにセクハラして蹴り飛ばされ。あれから、また昼メシを奢ってくれた葛西さんと新木さんは、やっぱガキみたいだし、素直に言いたくなくて心配とかじゃなくて…、
 俺にとって久保ちゃんはオカズみたいなもんかも…とか言ったら、二人ともなぜか盛大にむせた。
 けど、俺が理由を聞いても、ぜんぜん教えてくんなかったっ。
 何なんだ、一体っ!
 でも、俺は今日もカレーを食べながら、オカズな久保ちゃんを待つ。
 早く、二人で晩メシが食えるように…。


 腕によりをかけて作る、二人分の晩メシを考えながら…。


『久保田家の食卓』 2009.10.25更新


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