ベランダの窓を開けると、風がちょっと涼しかった。
 昨日までまだ夏っぽいって思ってたはずなのに、いつの間にか秋ってカンジで…。
 あんな暑いって言ってたのが、ウソみたいだった。
 よくわかんないけど、秋の空と夏の空は色が違ってて…。
 その色をベランダから見てると、すっげぇホッとする。
 それはたぶん、涼しくなったからだろうけど…。

 「ベランダでなにやってんの?」
 「空見てるだけっ」
 「ヒマなら、ちょっとこっち来て手伝いなよ」
 「だーかーらっ、空見てるって言ってんじゃんっ」
 「そういうのを、ヒマって言うんじゃないの?」
 「うっ、それはそうだけど…」

 俺に手伝えって言って、久保ちゃんが向かった先は寝室だった。
 そんなトコでなに手伝わせるつもりだっ!!
 なんつって思ってたけど、久保ちゃんはクローゼットの中とかベッドの下に突っ込んであったダンボールを取り出した。
 
 「もう寒くなっちゃったから、出しとかないといざって時に着れないっしょ?」
 「そーいや、今日も結構寒いよな」
 「夏物はしまうから、クローゼットから出してくれる?」
 「わぁった」

 クローゼットから久保ちゃんと俺の半袖のシャツとか色々出して、ダンボールの前に置く
 そしたら思ってたよりたくさんあって、服で出来た小さい山ができた。
 そん中には、ぜんぜん着てなかったヤツとかもある。
 一回くらい着れば良かったって思ったけど、もう寒いからしまわなきゃならなかった。

 「どしたの?」
 「着てないヤツ、結構あるなぁって思っただけっ」
 「来年着ればいいっしょ?」
 「・・・・・うん」

 来年って言われて、ちょっとだけ何かが胸の中に引っかかった。
 けど、それは嫌なカンジとかじゃなくて…。
 もっとずっと…、べつなカンジ…。
 久保ちゃんがダンボールに入ってた服、フローリングに並べてんの見たら、そのカンジはもっと強くなる。
 ダンボールから自分の服が出てくるってコトが、なんか…、うれしいって思った。 
 この部屋に来た頃、俺の服なんかどこにもなくて…。
 久保ちゃんのブカブカの服借りて着てたから…。
 
 「コレって俺のだけど、時任が気に入って良く着てたヤツだよねぇ?」
 「あっ、ホントだ…」
 「今でも、ブカブカ…」
 「久保ちゃんがデカすぎんだよっ」

 久保ちゃんの匂いの染み付いた黒いコート…。
 それを着てみたら、久保ちゃんが言うみたいにブカブカだった。
 袖もかなりあまってる…。
 もしかして、俺ってすでに成長止まってたりして?
 なんてあんま認めたくないコト思ってっと、背中がふわっと温かくなった。

 「な、なにやってんだよっ」
 「部屋にいる時くらいは、俺が温めてあげよっかなぁって思って…」
 「暑苦しいっつーのっ」
 「まあ、そう言わないでさ。せっかく涼しくなったんだし」
 「コート着てるからいいっ」
 「心配しなくても、脱がせてあげるよ?」
 「うわっ、なんでシャツまで脱がそうとしてんだっ!」
 「どうせなら、ココロもカラダも温め合わなきゃね」
 「・・・・・まだ冬じゃねぇぞ」
 「季節の変わり目でココロが風邪引いちゃいそうだから、ココロの風邪予防」
 「なんだそりゃ」
 
 季節が変わるたびに、このダンボールの中に何かが収められて…。
 同じように何かが取り出される。
 それを見ながらカンジながら、去年の自分と今の自分を比べてみたりもするけど…。
 けれどそれでも、その中から変わらない何かを見つけられたらいいかもしんない。
 いくつ季節がすぎても…、こうやって抱きしめてくれる腕があって…。
 こうやって想える大切な想いがあるように…。
 
 「く、久保ちゃん…、衣替え…」
 「明日…ね…」
 
 季節の変わり目は風邪を引きやすいから…。
 君のココロと身体の温もりを抱きしめて、風邪予防をしよう。
 たとえ秋が冬に変わっても…、この想いの温かさが消えてしまわないように…。


                                             2002.9.25
 「衣替え」


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