こーいうのってさ、無いようで良くある。
 けど、それが良くあることでも俺にとって違うのは、渡り廊下で赤い顔して立ってる女のコが見つめちゃってる奴が、すっっごく良く知ってる奴だってコト。
 分厚い眼鏡はド近眼で乱視だから。
 髪くくってんのは、切りに行くのが面倒だから。
 タバコ吸ってんのは、なくとなく口がさみしいから?
 ぼーっとしてるように見えるけど、じ〜っと見ると顔が良かったりして。
 男女を問わず、なぜか異様にもてるコイツは、俺の相方っつーか、同居人つーか。
 説明すんのムズカシイけど、そういうカンケイのヤツ。
 「あ、あの、久保田くん・・・私」
 「何?」
 熱っぽくうるうるした瞳で見つめちゃってるオンナノコと違って、久保ちゃんはいつもとぜーんぜんかわんない・・・っていうか、めんどくさそう。
 まあさぁ。
 久保ちゃんは巨乳好きだっつって言ってたし、そーいうのってやっぱ、色気むんむんのおねぇさんタイプだろーからさ。あーいう、ジュンジョウカレンっていうの? そういうのってタイプじゃないんだろうなぁ。
 「私、久保田君のこと。ずっと好きだったの」
 「あー、悪いけどさ。付き合えないわ」
 「と、友達ならいい?友達にならなってくれる?」
 よっぽど久保ちゃんのコト好きなんだろーな、あのコ。
 すっげー必死みたいな顔してる。
 けど、久保ちゃんは・・・・・。
 「無駄なコトやめようよ。好きになるなんて、絶対にありえないからさ」
 と、思いっきりバッサリ切った。
 うわ〜、やっぱキツイよなぁ。さっきのひと言。
 久保ちゃんが言ってることは事実なんだろうけど、俺が言われてんじゃないのに、ちよっとだけ、胸がチクッとした。
 どうしてだろ?
 「わ、わたし・・・・」
 「じゃあね」
 ・・・・オンナノコが泣いてる。
 なのに久保ちゃんは見向きもしないで立ち去った。
 そんな気ないのにって、そおいう理屈はわかるケド・・・・・。
 なんでかわかんないケド。


 痛い。


 俺は生徒会室に行くと、ドアを勢い良く開けた。
 それは、ココに久保ちゃんがいるって知ってるから。
 「久保ちゃんっ」
 俺はムカムカしながら座って本読んでる久保ちゃんのそばまで歩いてくと、その本を手から奪い取った。
 「どうかしたの?」
 たぶん、俺がムカついてるのに気づいてる。
 久保ちゃんは微笑んで俺の方を見た。
 さっきのコトなんか微塵も感じさせない顔。
 俺は久保ちゃんの腕をぐいっと引っ張って立たせた。
 「あやまって来いっ!」
 「誰にあやまるの?」
 「・・・・・・」
 勢いでそう言ったけど、その先が言えない。
 久保ちゃんは悪くない。
 でも、悪い。
 ぐちゃぐちゃして良くわかんねぇっ!!

 「もしかして、さっきの見てた?」
 「・・・・・・」
 「あやまらないよ。その必要ないから」
 「久保ちゃんっ!」
 「俺があのコのこと好きにならないのは悪いコト?」
 「そ、それは、だって・・・・・」
 「時任」
 久保ちゃんが俺の顔、のぞき込んでくる。
 なんか顔みられんのがイヤで、久保ちゃんから顔を背けた。
 
 「なんで泣きそうな顔なんかしてんの?」

 え!?
 泣きそうって誰が?

 「自分がフラれたみたいな顔して」

 久保ちゃん?
 
 「時任はあのコじゃないでしょ?」

 そんなの言われなくったってわかってるに決まってんじゃんっ!
 俺は俺だし。
 だいいち、俺はオンナノコじゃねぇんだから、久保ちゃんにフラれるとか、そーいうのカンケイないしっ。
 相棒だし、一緒に住んでんだしっ。
 そんなの、そんなのゼンゼン・・・・カンケイ・・・ない・・・・。

 「時任」

 おれ・・・・。
 
 「時任はどうしたい?」
 「えっ?」
 「俺はね。どっちでもいい」
 「どっちでも?」
 「そう、どっちでも」

 久保ちゃんがなに言ってんのかわかんねぇ。
 どっちでもって・・・・・。
 考え込んでると、俺の唇に何か柔らかいモノが当たった。

 「イヤじゃない?」

 柔らかいのは久保ちゃんの唇。
 なんで、なんで、そんなことすんの?
 だってさ、そおいうのはさ。

 そおいうのは・・・・・。

 「時任なら、どういうカンケイでもいいよ。時任が俺んトコにいてくれることだけが重要だから、あとはどうでもいいし」
 「それって、俺なんてどうでもいいってコト?」

 さっきより、もっと痛くなった。
 どうしてこんなに痛いんだろ。
 なんでこんなに・・・・・・・・。

 「違うよ」
 「違う?」
 「うん」
 
 久保ちゃんはなんか怖い顔して、俺のことギュって抱きしめた。

 「俺も、あのコみたく時任に否定されちゃうのかもしんないケド。それでも放す気ないよ。身勝手な話だけどさ」
 「なんで俺が久保ちゃんのコト否定すんの?そんなワケないじゃん」
 「さっきよりももっとキスしたいって言っても?」
 
 久保ちゃんの問いに俺は首をかしげた。
 キスしたい? 俺と?
 それってどういうコト?

 「キスしたら、もっとイケナイことしたいって言っちゃうかもしんないよ?」
 「く、く、久保ちゃんっ、それって・・・・・・」
 「そーいうこと」

 な、なんとなくだけどわかった。
 久保ちゃんのしたいことは決まってる、たぶん。
 だったら、俺は?
 俺はどーしたい?

 「久保ちゃん」
 「うん」
 「キスしよう」
 「うん」

 頭で考えてもわかんないことは考えても仕方ないし。
 そおいうときは、まず行動。
 本能のおもむくままってのも悪くねぇじゃん?

 「時任」
 「ん〜」
 「こっから先どーすんの?」
 「久保ちゃんは?」
 「もちろんヤリたいけど」
 「んじゃあ、やろっ」
 「後悔してもしらないよ」
 「何事もチャレンジってヤツ」
 「なんか違うような気するけど?」
 「俺も久保ちゃんならなんでもいいし、何してもいいのっ」
 「なんでも?」
 「なんでもっ」

 後悔なんて、やってからすりゃいいじゃん。
 やらなきゃ後悔もできないし、そんなんつまんないと思わねぇ?
                                             2002.2.26
 「告白」


                     *荒磯部屋へ*