「あ〜、めんどくせぇ〜」
 
 今日は日曜なんだけどさぁ。
 久保ちゃんは朝から出稼ぎに出てて不在。
 そーいうコトで、俺様はこの部屋で一人っきりなワケよ。
 久保ちゃんがいないっつーことは、昼飯とかそーいうのを自分で用意しなきゃなんないってことじゃん。

 ぐぅぅぅ・・・・・・・。

 うっ、腹が鳴った。
 今日はなんも作ってくれてないしなぁ。
 カップ麺あったっけ?
 コンビニまで行くのも面倒くせぇし。
 適当にキッチンでもあさってみるかぁ。
 
 ごそごそごそ・・・・・・。

 あっ、あったじゃんっ、カップ麺。
 ラッキー。
 えっと、俺んちって電気ポットないからヤカンで沸さなきゃだなっ。
 水はてきとー。
 火ぃつけてっと。
 あとは沸くの待つだけ。

 ・・・・・・・・・・・・。

 おっしゃあ、これっくらい湯気出たらいいだろっ。
 カップ麺のフタあけて、袋ん中入ってるの全部開けてっと。
 よしっ!
 これでお湯を注げば・・・・・。

 ざぁぁ・・・・・・。

 んで、フタ閉めて三分。
 これって、生麺じゃねぇから待ち時間なげぇの。
 まっ、時間なんかてきとーだけど。

 ごそごそ・・・・。

 ごそ・・・・。

 ん?
 なんでごそごそ音すんの?
 俺、なーんもしてねぇのに。
 音のする方って、さっきカップ麺さがしてた辺りじゃん。
 なんだろ?
 
 がさがさ・・・・・・。


 うっ!!!!!!!
 ごっ、ごっ、ゴキブリ〜!!!!
 ぎゃあぁぁぁぁっ!!
 き、気持ち悪いっ!!
 うわぁぁぁっ、なんかしんないけど追いかけてくるっ!!
 こっちにくんなっ!
 くんなってばっ!!
 イヤだっつってんだろぉぉぉ!!!

 バシャアァァン!!

 あっ・・・・カップ麺投げちまった。
 ゴキブリって熱湯に弱かったよな、確か。
 って、まだ動いてやがるしっ!
 けど攻撃は効いてるみたいだよな、ひっくり返ったままピクピクしてるし。

 ・・・・なんかさっきよか、よけいに気持ち悪い。

 もう、やだっ!
 なんで俺様がこんな目にあわなきゃなんねぇんだよっ!
 腹へったし、カップ麺は床にこぼれてるし、ゴキブリはピクピクしてるし。
 最悪っ!
 めちゃくちゃ最悪っ!!
 だいたい、久保ちゃんがいないから悪いんじゃん。
 久保ちゃんがいれば、こんなことになんなかったのにっ。
 久保ちゃんのバカぁー!!
 もういいっ、ムカツクから寝るっ。

 どたどたどた・・・・・。

 おやすみっ!!




 ピンポーン。

 「時任、開けて」

 あれ、返事がない。
 うーん、もしかして寝てんのかなぁ。
 仕方ない。
 
 ガチャガチャ。
 
 自分でカギ開けんのってキライなんだけどなぁ。
 って、まあ、べつにいいげとね。
 
 「時任、ただいま〜」

 …あっ、やっぱ寝てる。
 無邪気なカオしちゃってさ。
 なぁんか、かわいい。
 せっかくだから、ただいまのキスしとこ。

 ちゅっ。

 寝てるときはホント猫みたいだよねぇ。
 丸くなっちゃってる。
 けど、ふてくされてる時の寝方だなぁ。
 もしかして、なんかあった?
 まぁ、とりあえず起こす前に買ってきたヤツ冷蔵庫に入れよ。

 ドタドタ・・。

 ・・・・・・・・・・。

 この惨状からして、何があったかは想像つくけどさ。
 誰が片付けんの、コレ。
 ゴキブリは死んでるし。
 カップ麺は床にこぼれてるし。
 ゴキブリはまあしょうがないとしても、カップ麺くらいは片してほしいなぁ。
 なーんて。
 時任が何もしないっての知ってるし、そーいうの承知で暮らしてるからさ、俺。
 そーいうのは今更ってカンジ。
 ゴキブリ嫌いだろうから、起きる前に片付けときますか。
 そんで、なんか食べさせないとね。
 カップ麺ころがってるってコトは何も食べてないだろうから。



 ん〜、あれっ、なんか人の気配がする。
 ふあぁ・・・・・。
 よく寝た。
 けど、腹へった。
 
 「起きた?」
 
 あれっ、久保ちゃんだ。
 いつの間に帰ったんだろ?
 「おかえり、久保ちゃん。いつ帰ったんだよ?」
 「ん〜、さっき」
 「ふーん」
 俺はキッチンに立って何かしてる久保ちゃんを見て、あることを思い出した。

 ご、ゴキブリのコトを。
 
 「く、久保ちゃんっ」
 「なに?」
 「あのさぁ」
 「うん」
 「そ、そこにさ・・・・・・」
 「あぁ、ゴキブリのコトね」
 久保ちゃんはゴキブリのコトをなんでもないことのように言った。
 そーいえば、キッチンの床にゴキブリの姿も、カップ麺の残骸もない。
 「片付けたからもういないよ」
 そう言いながら、久保ちゃんは俺の前にラーメンのどんぶり持ってきた。
 いい匂いがするっ。
 なんかうまそうっ!

 ぐぅぅぅ・・・・・・・。
 
 げっ、また腹が鳴っちまった。
 「笑うなよっ」
 「笑ってないでしょ?」
 笑ってないとか言いつつ、久保ちゃんは笑ってた。
 ムカツクけど、笑ってる久保ちゃんのカオがやさしいから怒れない。
 ・・・・久保ちゃんはいつだって、俺にやさしいもんな。

 「久保ちゃん」
 
 ちゅっ。
 
 俺はちょっと伸び上がって、久保ちゃんのほっぺにキスした。
 ありがとうのキス。
 言いづらい時はいっつもこーする。
 言葉よりキモチ伝わる気ぃするから。
 
 俺のキモチ伝わった? 久保ちゃん。


  ラーメン持ってったら、時任がほっぺにキスしてくれた。
 ありがとうってコトね。
 「どうせなら、口にしてほしいんだけどなぁ」
 そう俺が言ったら、頭を軽く叩かれた。
 顔がほんのり赤くなってる。

 食べ終わったら、今度は愛してるのキスしようね、時任。
 
 
                                             2002.3.18
 「キッチンの惨劇」


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