いつもそばにいて、近くにいて…、それが当たり前みたいに口では言ってても、時々そんな風にカンジられなくなる時がある。けど、べつに俺から離れる予感とか可能性とか、そんなのをカンジて不安だったワケじゃない。
 それは違うって言えるけど…。
 時々、チリリと何かが胸を焼く…。
 その痛みを感じるたびに、痛みのワケを考えてたりしてた。

 「ホント、相変わらず時任ばっか見てんのね」

 いつも座ってるイスに座ってると、横から桂木ちゃんがそう言ってきた。
 時任ばっかって言われても、事実だからべつにそう言われてもかまわない。
 いまさらってカンジだし…、驚くほどのコトでもないし…。
 俺は気にしてないけど、桂木ちゃんはなぜか気にしてるみたいだった。
 
 「時任は気づいてないんでしょうね、やっぱり…」
 「さぁ、どうだろうね?」
 「・・・・・・気づいてたら、あんな視線、毎日向けられてて平然となんかしてられないわよ」
 「あんな視線って?」
 「自分のモノだから、誰にも渡さないって視線」

 桂木ちゃんはなぜかそう言って、俺じゃなくて時任の方を見る。
 けど時任は、室田たちとゲームして遊んでて、こっちの様子には少しも気づいてなかった。
 人の気配さぐったりするのは得意なクセに、俺の気配にはいつも気づかない。
 だから、いくら見つめても…、視線も想いも素通りしてしまってるんだろう。
 それはたぶん、そばにいることが当たり前だからの現象で…。
 近くにいることが当然だからの結果だった。
 
 「そんなに見つめるくらい好きなら、なんで告白しないの?」
 「…したくないから、してないだけだけど?」
 「どうして? フラれたくないから? けど、時任だって久保田君のコト少なからず想ってるはずだし…」
 「もしかして、付き合えってすすめてくれてんの?」
 「すすめるとかそんなんじゃなくて…、ただ、時々見てられなくなるってだけよ。余計なお世話だってのはわかってるけど…」
 「うん、余計なお世話」
 「…悪かったわね」
 「ゴメンね、桂木ちゃん」

 こうやって心配されてるコトは、べつに不快じゃない。
 けど、時任とのことで誰かに口出しはされたくなかった。
 たとえ、それが善意からしてくれたことだったとしても…、俺と時任の間に誰かが入るのは好きじゃない。
 自分のココロのあまりの狭さに笑えてきたりするけど…。
 それが本音だった。
 
 「ずっとこのままでいるつもり?」
 「今のところは…、ね」
 「・・・じゃあ、もし時任が好きだって告白してきたらどうするつもりなの?」
 「さすが桂木ちゃん、面白いコト言うね?」
 「冗談言ってるつもりはないけど?」
 「そう…」
 「で、どうするのよ?」
 「う〜ん、フッちゃうかも?」

 俺の言ったことに桂木ちゃんが驚いてる。
 時任に好きって言われて、フルなんて信じられないってカオ。
 でも、それは冗談なんかじゃなくて…、結構ホンキで言ったコトだった。
 
 好きだって言って…、好きって言われて…。
 
 そういうのを望んでないワケじゃないけど…。
 時任を腕の中に抱きしめた瞬間、きっと抱きしめてるのは好きってキモチでも…、そういう想いでもなくて…。
 ただ今も胸をチリチリと焼いている何かが、その痛みが、想いをキモチを犯すように広がっていくだけかもしれないって気がした。
 
 時任を見つめている自分を…。
 時任を欲しがっている自分を自覚した瞬間から、愛おしさとともに痛みが始まった。
 
 この想いが深くなればなるほど、痛みが強くなって…。
 その痛みがココロに歯止めをかける。
 初めからなければ…、何もなくさなくて済むかもなんて…。
 恐がりなココロが、時任に向かって伸ばそうとした腕を止めさせていた。

 「俺って臆病モノだから…」

 そう言って笑ったら、桂木ちゃんのカオが少し悲しそうになる。
 けど、そんなカオしなきゃならないくらい悲しいコトなんて一つもない。
 時任がココにいて…、そばにいて…、こんなに近くにいて…。
 それで悲しいはずなんてないから…。
 だからもしかしたら、チリチリと胸を焼くこの痛みも…、ホントは気のせいなのかもしれなかった。
 
 「行くぞっ、久保ちゃん」
 「はいはい」

 見回りの時間が来て、いつもみたいに時任が俺を呼ぶ。
 それが当たり前で…、当然で…。
 けど、俺にとっては当たり前でもなんでもなくて…、ホントはそう思っていたいだけの、ただの強がりなのかもしれない。
 
 「久保ちゃん」
 「なに?」
 「…桂木となに話してたんだ?」
 「時任クンの悪口」
 「なっ、なにぃ〜っ!」
 「なんてのは、ウソ」
 「…って、マジで言ってたんじゃねぇだろうなっ」
 「二人でなに話してたか知りたい?」
 「ぜんっぜんっ!」

 「俺のことキライって言ったら、教えてあげるよ?」
 

 好きのキモチが想いが痛いから…。
 時々、ありったけの好きのキモチを込めて、キライって叫びたくなる。
 君への想いをキモチを…、手放せないとわかっていても…。
 
 だからどうか…、好きと同じ強さでキライだと言ってください。

                                『自覚症状』 2002.9.20 キリリク222


キリリクTOP