沙織がいる時には部屋でタバコ吸ってなかったのに、沙織がいなくなった途端、久保田はまた部屋でタバコを吸うようになった。

 「久保ちゃんっ、煙いっ!」
 「そう?」
 「煙いったら、煙いっつってんだろーがっ!」
 「・・・・うん」
 「くーぼーちゃーんっ!」
 「はいはい」
 
 煙いと騒いでいる時任に、久保田が本を読みながら適当な返事をする。
 あくまでタバコをやめる気はないようだった。
 時任はやっていたゲームのリモコンを放り投げると、スタスタと久保田のそばまで行って、くわえてたタバコを取る。すると久保田は、新しいタバコをポケットから出して、火をつけた。

 「・・・ケンカ売ってんのか、久保ちゃん」
 「べつに」
 「あっそうっ」
 
 いつもより数段ドスの聞いた声を出してる時任に、久保田はふーっとタバコの煙を吐いて、相変わらず本を読んでいる。
 べつに本を読んでるのはかまわないが、タバコのことが妙にひっかかって仕方ない。
 自分が嫌がっても全然やめてくれないのに、沙織の時は何も言わなかったのにタバコをやめた。
 ニンプにタバコは悪いんだって、それくらいは時任も知ってる。
 それに、ニンプじゃなくても身体に悪いってコトも。

 「いつまでもタバコ持ってるとあぶないから、ちゃんと灰皿で消しときなさいね」

 久保田のその言葉に、時任は自分の手に持ってるタバコを見て、それから再び久保田を見てからブチ切れた。

 「今日から禁煙だぁっ!!!」

 手に持ってるタバコをガシガシと灰皿に押し付けた後、時任は久保田に襲いかかり、ポケットからタバコとライター、ついでにくわえてるタバコも没収する。タバコはぐっちゃぐちゃに丸めてゴミ箱行きにした。
 そんな時任をぼーっと見ていた久保田は、カリカリと後ろ頭を掻いていた。

 「まだ半分も吸ってなかったんだけど」
 「問答無用っ!!」
 「そんなにやめてほしいの?」
 「・・・・やめろってさっきから言ってんじゃん!」
 「どして?」
 「身体にわりぃだろっ!」
 「それだけ?」
 「・・・・・・それだけで十分だろっ、普通っ」
 「ふーん」

 久保田がじっと時任の方を見ると、時任はふんっと顔を背ける。
 それは、理由がそれだけじゃなかったから。
 そんな時任を見て微笑むと、久保田は時任の腕を捕らえてぐいっと自分の方へと引っ張った。

 「うわっっ!」
 
 バランスを崩して倒れそうになる時任を、久保田が抱きとめる。
 これはそれを予測しての行動。
 久保田は時任の身体を捕らえると、自分の座ってるソファーへと押し倒した。

 「なっ、なにすんだよっ!」

 じたばた暴れようとする時任の上にのしかかると、久保田はその手首をつかまえてその動きを拘束する。手袋の中に隠された秘密のせいで、本当は久保田を押しのけるのは簡単なのだが、時任はそれをしない。
 それが人を傷つける力だと知っているからだった。
 時任がキッと睨みつけると、久保田は余裕の笑みを浮かべて時任の耳に唇を寄せた。

 「タバコはダメ。時任のお願いでも聞いてあげない」
 「なんでだよっ。沙織の時は部屋で吸ってなかったじゃんっ」
 「沙織ちゃん?」
 「あっ・・・・・」

 言ってしまってからしまったと思った。
 沙織の名前を出せば、禁煙をせまってるのが身体に悪いだけの理由じゃないとばれてしまう。
 時任がバツの悪そうな顔をしていると、久保田が時任の瞼に唇を落とした。

 「沙織ちゃんはニンプさんだから特別」
 「ニンプだとタバコやめんのか?」
 「うん」
 
 久保田の言いたいことは時任にもわかる。
 沙織だからタバコを吸わなかったのではなく、お腹に子供がいたからだと。
 けれどまだ、なんだかスッキリとしない。
 時任は久保田のわき腹を軽く蹴った。

 「だったらさ。もし、俺がニンプだったらタバコやめんの?」
 「やめるよ」
 「ホントに?」
 「ためしてみよっか?」
 「どうやって?」
 「こうやって」

 そう言うと、久保田は時任の首筋にキスを落としながら、トレーナーを脱がしにかかった。
 すでに上からのっかって下半身を押さえているため、時任は逃げられない。
 久保田はトレーナーを脱がし終わると、胸から腰のラインに向かって手を滑らせた。

 「なっ、なにすんだよっ」
 「時任がニンプになったら、タバコやめられるかどうか実験・・」
 「んなことあるわけねぇだろっ、バカっ」
 「世の中には、不思議なことがいっぱいあるからね」
 「そんなのないっつーのっ」
 「二人で奇跡起こしてみない?」
 「遠慮しとくっ」
 「そーいわないでさ。子供できるまでがんばろうよ」
 「あっ・・・やめろって」

 敏感な部分をさわってくる久保田のせいで、時任の声に力が入っていない。
 すでに時任の鎖骨の辺りには、赤い跡が何個かついている。
 ジーパンのチャックを開ける音が、やけに生々しく聞こえた。

 「ちょっ、待てっ」
 「待たない」
 「そ、そんなトコさわんなっ」
 「さわんなきゃできないでしょ?」
 「うっ、ん・・・、マジでダメだって・・・・」
 「イッパイしよう」
 「・・・・シテくんなくていいっ」
 「気持ち良さそうな顔してるのに?」
 「・・・く、くぼちゃんの、ば、ばかっ・・・・」
 
 君が欲しいっていう欲望が、俺の身体を熱くする。
 俺の熱に浮かされる君の声とか、色っぽく潤む君の瞳とか。
 そういうすべてが俺の本能に火をつけたら、誰にももう止められない。
 本能は何よりも優先するものでしょ?

 「あっ・・ま、待て・・・・・」
 「今日はつけないでするよ。つけたら子供できないから」
 「マ、マジで言ってんのか?」
 
 「うん」

 時任の問いに、久保田はマジメな顔をしてうなづいた。

 「これから毎日実験しようね?」

 「い、い、いやだぁぁぁっ」




 次の日、時任は起き上がることが出来なかった。
 ベッドにもぐったまま、だるそうな顔して一日中寝ている時任の世話を、久保田がかいがいしくしている。それは明らかに、時任が起きられない原因が久保田にあるからだ。

 「・・・・・・・当分やんねぇからな」
 
 そう言いつつも、時任の顔は怒ろうとして怒りそこねている感じである。
 
 今日もやはり久保田がタバコを吸っている所を見ると、やはり禁煙するには、時任がニンシンするしかなさそうだった。

                                             2002.2.28
 「禁煙」


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