深夜、午前0時を少し過ぎた頃、俺はソファーの上で膝を抱えた姿勢で、横に置いたポテチをパリパリと食いつつ、前をじーーっと眺めていた。
 ホントにじーっと、じぃぃー…っと眺めていた。
 それはなぜかと問われれば、俺は前にテレビがあるに決まってんだろって答える。だけど、なんでドラマで、しかも恋愛モノなのかって聞かれれば、この前に見てたバラエティの次だったからじゃねぇの?…としか答えられない。
 ペツに見るつもりなかったけど、他に特に見たいのなかったし、まだポテチ食い終わってないしで、だらだらと見てた。それは横に座ってる久保ちゃんも同じで、ポテチじゃなくて…、なんかアヤシイ味の新発売のスナック食ってる。
 袋開けた時に、食う?とか聞かれたけど・・・・・、

 誰が食うかぁぁぁぁ…っ!!

 …って、久保ちゃんが食ってんのは、そんな感じのヤツ。
 特大パフェ食った数時間後に、七味山盛り牛丼な久保ちゃんの味覚は、ほんっと相変わらず最強だよなぁ。ぜんっぜんっ、うらやましくねぇけど…つか、俺の食欲が減退する時の原因の3パーセントくらいは、久保ちゃんのせいだと思うっっ。
 けど、そこそこに耐久性の出来てきた俺は、アヤシイの食ってる久保ちゃんの横で、今はへーぜんとポテチをバリバリ食えてたりするワケだけど…、
 目の前で展開されてるドラマの、ものすっっごくドロッドロな感じの展開に、正確にはあるシーンを見てしまったがためにっ、口に入れかけたポテチを手からポロリと落としちまった…っっ。
 ど、ドロッドロな内容はとりあえず置いといてっ、主人公のオンナがヤケ酒で酔っぱらって吐き気がして、薄暗い裏路地に入り込んじまって…、
 し、しかもっ、そこで力尽きて倒れ込んじまうんだけどさっ。
 通りがかった見ず知らずのオトコが、主人公のオンナを自分んちに連れて帰って…、なんかどっかで聞いたコトあるような、身に覚えがあるようなっ、無いようなカンジのシュチュエーションでっ!
 ま、まぁ、ソコまではいんだけどっ、だけど、そっから先が、先がぁぁっ!!
 ココロん中で、うえぇぇ…っっ!!!て感じの良くわからない叫び声をあげつつ、落ちたポテチをそのままに、俺はテレビを見ながら、はいっと勢い良く手をあげたっ!
 
 「・・・・・・・・あのスイマセン、久保田センセイ」

 手をあげてから俺がそう言うと、のほほんと同じシーンを見てた久保ちゃん…。
 もといっ、カレーの作り方から、拳銃の組み立て方、ヤクの味まで何でも知ってる久保田センセイが、黒板の前…じゃなくて、横から俺を当てたっ。

 「はい、時任クン。トイレなら、行って来ていいヨ」
 「…って、誰がトイレつったっ。 そーじゃなくてっ、今のドラマのシーンっ!」
 「あぁ、酔って倒れてる女のヒトを、おもちかえり?」
 「そうっ、ソレなんだけどさっ。な、なんで持って帰った上に、ぬ、ぬっ、脱が…っ?!」
 「うん、だからソレは見たまんま、せっ・・・・・」
 「ぴーーーーーーっ!!!!!!」
 「…って、ナニ授業中に妨害電波出してんの?」
 「なんか、そうした方がいいような気がしたんだよっ、すんげぇ激しくっ!!」
 「あ、目の前の二人も激しい…」
 「ぎゃあぁぁっ、言うなぁぁぁ…っ!」
 
 久保田センセイが指差した瞬間、叫んでカオを手で覆うっ。
 だ、だけど…、なんか気になって指がっっ、指が勝手にっっ!!

 「うん、まぁ、そういうお年頃?」
 「ちっ、ちげぇよっ!!つか、倒れてるヤツを、自分んちに連れて帰る時ってさっ。やっぱ、あーいう…っっ」
 「んー…、まぁ、家族とか知り合いだったとかじゃないなら、そういう目的の場合が多いかもね。フツーは放置しとくか、起こして起きなきゃ救急車呼ぶか、最寄りの交番に通報でもしとくか…」

 ・・・・・・だよな、と、久保田センセイの話を聞きつつ思う。
 なんか、目的がなきゃ倒れてるヤツを拾って帰るなんて、面倒なコトはしねぇよなー…。特に手がこんなんなってるヤツとか、速攻通報だよなぁ、フツー…。
 とか思ったのは、実はドロッドロな上に、な、なんかエ…な展開なドラマを見てる今だけが初めてじゃない。だけど、なんか聞きづれぇっていうか、ちょっち聞きたいのに聞きたくねぇ気もしてんだよなぁ…。
 
 「まぁ、俺は男だし、路地裏とかに落ちてても、あ、ああはならねぇもんな…」
 「・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・たぶん」
 「…って、そのなっげぇ間はなんだっっ、しかもたぶんってっっ!!ソコは全力で肯定しろよっ!!」
 「なんで、全力」
 「だってさ、連れ帰られた上に服脱がされてベッドで全裸とかっ、マジでやべぇじゃんっ」
 「・・・・・・・・・・・」
 「え…? なんで、ソコで沈黙?」
 「・・・・・・・・・・」
 「ま、まさか…っっ、くぼ…っ!」
 「ぐー…」
 「…って、センセーのクセに、授業中に居眠りすんなよっ!」
 
 寝たフリの久保田センセーをどつき、授業再開っっ。
 だけど、質問攻めにしてやろうとしてた俺を嘲笑うかのように、キラリと眼鏡を光らせた久保田センセーは、逆に俺に質問してきた。
 くそぉっっ、あの沈黙は一体なんだったんだぁー…っ!

 「じゃあ、授業らしく、時任クンに問題出すけど…」
 「も、問題?」
 「例えば、薄暗い路地裏に知らないヒト、わかりやすく言うと知らない俺とか重症で気を失って倒れてたら、お前ならどうする?」
 「知らない久保ちゃんって、なんかこんがらがってるっていうか、全然わかりやすくねぇよな気がっ」
 「も少しわかりやすく言うと、お前が俺と会ったコトないって設定」

 久保ちゃんと俺が会ったコトなくて、赤の他人。
 そんでもって、薄暗い路地裏で通りかかった俺が、倒れてる久保ちゃんを発見。
 ・・・・・うん、まぁ、想像はできるよな。
 今、テレビで似たようなの見たばっかだしっ。
 だから、俺は久保ちゃんの出した問題に素直に答えた。

 「倒れてるの見つけたら、とりあえず肩を揺すってみる」
 「ふーん、じゃあソレでも起きなかったら?」
 「ん〜…、頬を軽くぺしぺし叩いてみる」
 「ソレでもダメなら?」
 「頭をバシバシ叩いてみる」
 「そんでもダメなら?」
 「頭をガツーンと殴ってみる」
 「・・・・・あのスイマセン、時任サン。今、瀕死の重傷だったトコロを、俺、トドメ刺されちゃったりしたような気がするんですけど?」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・ね?」
 「い、いやだなぁっ、センセーっ。き、気のせいに決まってんだろっ! それに、その後でちゃんとウチまで連れて帰って、手当すっから大丈夫だって!」

 瀕死の重傷で倒れてた赤の他人の久保ちゃんに、トドメを刺しちまった俺は、はははと笑いながら、久保田センセーの肩を左手でバシバシ軽く叩く。すると、久保田センセーが持ってたスナック菓子が袋ごと、ポロリと床に落ちた。
 だから、あ…っと思って、反射的に落ちた袋に左手を伸ばす。
 すると、同じように手を伸ばしたセンセーの…、久保ちゃんの左手が、俺の左手に重なった。
 
 「・・・・・・・・・あ」
 「へ?」

 そしたら、お互いの口から、なんかマヌケな声が出た。
 テレビのドラマは、更にヤケになっちまった主人公のオンナが、懲りるどころか進んで酒飲んで似た状況になって、相変わらずドロッドロな感じな展開で…、
 だけど、似た場所で拾って拾われた俺らは…、自然な感じで触れたお互いの手を握りしめ合ってる。この違いってなんだろう…って思う前に、俺の手は久保ちゃんの手を…、久保ちゃんの手は俺の手を拾うように握りしめてた。
 
 「拾った据え膳食わないのは恋心…、だったりしてね」
 「えっ、今、なんて…?」
 「んー? テレビのドラマのハナシ」
 「あ、同じ展開なのに、今度はなんか食われてねぇじゃんっ」
 「だから、案外ケダモノをヒトに変えるのは、恋心? なーんて」
 「うわっ、なんかくっせぇっっ」
 「うん、俺もそう思う」
 「けど、もしそうだったらさ」
 「うん?」

 「・・・・・やっぱ、なんでもねぇよっ」

 そう言って俺が笑うと、久保ちゃんもそうって言って微笑む。
 そして、俺らはぼんやりと、また、ドロッドロのドラマを見始める。
 そうしながら、俺はケダモノじゃないけど、獣の右手。
 もしも、ケダモノが恋心でヒトになるなら、獣だって恋心で魔法が解けるみたいに…さ。そうなればいいのにって思ったけど、ワケわかんねぇし、すんげぇくせぇし…っ、
 その上、なんか笑いすぎて腹痛ぇし…、涙目になっちまうしで…っっ、


 結局、笑う俺を見て、なぜか心配そうに目を細めたセンセイには言えなかった。
 
『課外授業』 2010.4.6更新


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