ことの発端は、別段変わりない平日の放課後、執行部メンバーが集まる生徒会室での桂木の発言によってだった。 この日、別段変わらなくはあるが、実は少しだけ変わった点ならあった。つまらなそうにゲームをしている時任の横に、いつもならいるはずの久保田の姿がなかったのである。 「くそぉっ、またやられちまった!!」 さっきから、コントローラーをガチャガチャやっていた時任は絶不調で、さっきから格闘ゲームは負けてばかりだった。 自分では気づいていないようだったが、周りにいるメンバー全員が、時任が不機嫌な理由を知っていた。知らないのは、自覚のない本人だけである。 今までにもあったことだが、久保田は時々生徒会長の松本に呼ばれて、生徒会長室に一人で出向く事がある。それはおそらく、表沙汰になったらマズイような事の調査とかそんな感じなのだろうが、呼ばれてホイホイ出向く久保田に、時任はイライラを募らせていた。 (何も一人で行くことねぇじゃねぇかよ) 前に久保田と松本が話している所を見たことがあるが、かなり親しそうな感じだった。松本と久保田が出会ったのは、時任よりもずっと前なのだから、当たり前と言えばそうなのかもしれない。 時任が久保田と会ったのは、実はたった一年と少し前のことだった。 「あぁっ! なんかムカつくっ!!」 そんなことを思いつつ、ゲーム画面に向かって大声で叫びまくる時任に、書類整理をしていた執行部の紅一点、桂木は切れかかっていた。 「ったく。久保田くんがいなくなるたびに、いちいち情緒不安定になってどうするってのよ」 ぶつぶつ桂木がそう呟いていると、なにやら書いている室田がが肩をすくめた。 「あれだけ四六時中一緒にいるんだから、無理ないんじゃないか? 一人でいるのを見ると結構違和感あるしなぁ。俺でさえそうなんだから、当事者は相当だと思うけど」 「まぁね。違和感あるのは認めるけどね」 それにしても、と、言いかけてから桂木は再び時任を見た。 ゲームに夢中になってるので、時任は桂木達の会話は聞こえていないが、実は久保田のことばかり考えてゲームもうわの空だった。 桂木はそこまでは見抜いていなかったが、そんな時任を見ていて、一つだけ疑問に思ったことがある。それは、久保田はそれなりに付き合いのある奴がいるようだが、時任が久保田以外の奴と親しくしているのを見たことがないのだった。 生徒会メンバーはそれなりに付き合いがあると言ってもいいが、それでも放課後や公務以外での付き合いは年中行事以外皆無に等しかった。 「・・・ねぇ、ちょっと聞いてみるんだけど、時任って久保田くん以外に親しい奴っているの?」 桂木の何気ない質問に、室田、相浦、松原の三人は同時に首を傾げた。 結局の所、今は例外として、時任の傍には常に久保田がいるわけで、それ以外の奴といる所を見たことがないというよりも、久保田が傍にいない時がないというのが実際の話である。 「直接、時任に聞いてみなきゃわかんないんじゃない? いつも顔合わせてるって言っても、休みの日の行動とか知ってるワケじゃないしさ」 そういう相浦の意見に、松原がうなづいている。 そういえばそうかもしれない。 桂木はゲームをしている時任に向かって、少し大き目の声で話しかけた。 「ねぇ、時任!」 「あぁ? なんだよ、俺は今ゲームで忙しいんだよっ!」 案の定、機嫌のすこぶる悪そうな返事が返ってくる。しかし、桂木はそれに構わず時任に質問をした。 「時任。あんたって、久保田くん以外に誰か親しい奴っていないの?」 桂木はただそんなにイライラするなら、こういう時ぐらい他の奴と話にでも行けばいいのにと思っただけだった。だが、その質問は時任には予想外だったらしく、ゲームしていた手を止めて真っ直ぐ桂木の方を見た。 「親しいって何が?」 どうやら、質問の意味がいまいちわかっていないらしい。 桂木は小さくため息をついた。 「久保田くんには、松本会長とか、わりに古い付き合いの人がいたりするじゃない? だから、時任だってこの学校に少しぐらい付き合いのある奴いないのかって思っただけよ」 「いるじゃん、ここに」 時任が執行部メンバーを指差している。 そのしぐさが桂木の質問に対する答えだった。 「・・・まぁ、それはそうなんだけどね」 これはおせっかいなのかもしれないが、久保田がいないだけで不安定になるのを直すには、久保田以外にも親しい人間を作る必要があると、桂木は考えていた。 それに、不機嫌になるたびに学校の備品を破壊する時任を止めるにはこれしかない。桂木は意を決すると、時任にある提案を持ちかけた。 「時任、あんたさぁ。少しは久保田くん以外の奴と付き合ってみたら?」 「なんで?」 即座にそう返されて、さすがに一瞬言葉に詰まる。しかし、こんなことでひるんでいては、被害を食い止めることはできない。 桂木は気を取り直すと、再び時任を説得しにかかった。 「相棒なのに、いつも置いてけぼり食うのって悔しくない?」 「お、俺は別にそんなこと気にしてねぇからなっ!」 「声が裏返ってるわよ、あんた」 「うるせーよ!」 真っ赤になって叫んでいる時任に、桂木は何かを企んでいるかのような笑みを浮かべた。 「たまには、久保田くんにも同じ思いさせたくない?」 「えっ?」 魅惑的な提案に時任は少し躊躇したが、松本のところに行っている久保田にかなりムカついていたので思わずうなづいてしまっていた。 (そーだよっ。なんで俺ばっかり、こんな思いしなきゃなんねぇんだよ!) 自分の提案に乗ってきた時任に、桂木がしてやったりと思っている横で、他の三人は何があっても知らないぞという顔をしていた。 だが、実はこの三人も強制的に{時任に友達を作ろう}という桂木の案に無理やり参加されられてしまうことになるのである。 |
2002.1.29 *戻 る* *次 へ* |