「久保ちゃんっ、そこのゴミ箱取ってくんねぇ?」
 「はいはい」

 べつにそんなに増やしているつもりはねぇんだけど、いつの間にかゴミって増えてる。
 コンビニで買ったお菓子の袋とか、レトルトの箱とか…。
 少しだけならそうでもないのに、たくさん集まると多くなってホントにゴミってカンジ。
 前のゴミの日に久保ちゃんに出しに行けって言われてたけど…、やっぱ忘れちまってて…。
 だから今日のゴミ出しは、いつもより量が多くなってた。

 「もしかして、コレ全部捨てに行くのか?」
 「いつもの二倍の量なのは、こないだのゴミの時に誰かサンが忘れてたせいでしょ?」
 「うっ…、それはそうだけどさ」
 「ほら、早く行かないと今度は三倍になるよ?」
 「一緒に行ってくんねぇの?」
 「ジャンケンで負けて、今日のゴミ当番になったのは誰だっけ?」
 「…俺」
 「だっしょ?」
 「わぁったよっ、一人で行きゃいいんだろっ!」

 ゴミ当番は前の日にジャンケンで決めたりとかすんだけど、いつもは結局、久保ちゃんが出しに行ってることが多かったりする。
 けど、今日はいつもと違って行ってくれる気はないらしかった。
 俺がゴミ袋をなんとか苦労して両手で持つと、それを見てた久保ちゃんが小さく笑う。
 それを見てムッとしてたら、久保ちゃんが俺の手からゴミ袋を半分くらい取った。

 「行くよ、時任」
 「…って、もしかしなくてもっ、実は始めっから行くつもりだっただろっ!」
 「こうでもしないと、一緒に行こうって言っても行ってくれないし…」
 「そ、そんなことねぇよっ」
 「ウソつき」
 「ウソじゃねぇってのっ!」
 「じゃ、今度からちゃんとゴミ当番してくれる?」
 「一緒に行くのはいいけど、一人はヤダっ」

 そんな風に話しながら、俺と久保ちゃんはゴミを持ってゴミ捨て場に行った。
 ゴミ袋につまってるのはいらないモノとかいらなくなったモノで…、それがつまってるのは当たり前なんだけど…。
 前に夢中になって読んでたマンガとかこないだまで机に乗っかってたボールペンもこの中に入ってて…、それを思うとちょっとだけヘンな気分になった。

 それをゴミだって思って、この中に詰めたのは間違いなく俺なのに…。

 そんなコトを考えてたからかもしれねぇけど、ゴミ捨て場に行ったら捨ててあるゴミ袋の上にいる茶色いぬいぐるみのクマが気になった。
 茶色いクマはまだそんなに汚れたりとかしてない感じで、首に赤いリボンがついてる。
 たぶんココの近所に住んでる誰かが持ってたクマだろうけど…、ここにあるってコトはもうクマじゃなくてゴミになったのかもしれなかった。
 まだ全然、キレイなのにもったいない気ぃしたけど、たぶん捨てたヤツにとってはゴミでしかなくて…。
 なんとなく、そんな風に思ったら自然に手がクマの方に伸びてたけど、その手がクマに届く前に久保ちゃんの手が俺の手を掴んだ。
 
 「そのクマ持って帰るつもりなら、やめときなよ」
 「えっ?」
 「もったいないからって、それだけで持って帰るなら意味ないから…」
 「べ、べつに持って帰るとかそんなんじゃねぇけどさ。意味ないってどういうコトだよ?」
 「それはね、お前がそのクマ欲しいって思ってないから言ってんだけど? いらないのに持って帰ったら、ゴミにしかならないでしょ?」
 「ゴミになるかどうかなんて、わかんねぇじゃんっ」
 「じゃあさ、そのクマ欲しいと思ってる?」
 「・・・・それは思ってねぇけど」
 
 ゴミになるかどうかわかんないって言ったけど、久保ちゃんの言うことがぜんぜんわからないってワケじゃなかった。
 クマをゴミにしたくないって思ってるのはホントのことだったけど、でもそれはもったいないってだけで、欲しいとか必要だとかそんなんじゃないから…。
 だからたぶん久保ちゃんが言うみたいにいつか拾って来たことも忘れて…、ホコリかぶってゴミになってしまうんだろう。
 たとえばこうして今、ゴミ捨て場にクマが捨てられているみたいに…。
 そう考えるのはさみしい気ぃしたけど、始めからいらないなら拾わない方がいいのかもって…。久保ちゃんに手をつかまれてたら、ちょっとだけそんな風に思った。
 
 「帰るよ、時任」
 「・・・・・・うん」

 結局、俺らはクマをゴミ捨て場に置いたまま部屋に戻ることにした。
 だからクマはゴミのままで、ゴミ回収車が来るまでああやってゴミ袋の上に座ってる。
 もう気にしないつもりだったけど、久保ちゃんの横に並んで歩きながら一度だけクマの方を振り返った。
 そしたら、そのクマの姿がちょっとだけ何かとダブった気がして…。
 なんでかはわかんなかったけど、ほんの少しだけ胸の奥がズキッと痛んだ。
 
 「時任…」
 「なに?」
 「そんなにクマが心配?」
 「ぬいぐるみを心配するワケねぇだろっ」
 「それはそうだけど…、なんとなくね」
 「なんとなくで言うなっ」
 「・・・・・クマ拾いに行く?」
 「何言ってんだよっ、さっき拾うなって言ってたクセにっ!」
 「うん、でもほっとけないし」
 「クマのことが?」
 「ゴミ捨てに行ってくれない誰かサンのことが…」
 
 クマを拾いに行こうって…、そう言って久保ちゃんは俺の頭を撫でて…。
 本当にクマを拾うためにゴミ捨て場に戻った。
 欲しくもないクマを拾って部屋に持って帰るために…。
 なのにそんな久保ちゃんの後ろ姿を見ながら、いらないなら拾ったりしなくて、欲しくないならそのままにしておくクセにって…。
 せっかく拾って来てくれてんのに、俺はなぜか久保ちゃんのことを責めてた。
 けどそんな風に責めたりしたのはたぶん…、考えたくないことを考えてしまってたせいなのかもしれないって…、それに気づいたのはゴミ捨て場にあわてた様子で走ってきた女の子がクマを拾った瞬間だった。 

 「そのクマ…」
 「うん、あたしのなのっ」
 「持って帰るの?」
 「大事なクマだから、捨てたりなんかしないもんっ」
 「そう」
 「じゃあね、お兄ちゃんっ」

 俺らはいらないのにクマを拾おうとしてたけど、女の子は大事だからって言ってて…。
 だからこれでいいんだって思ったけど…、女の子がいなかったらクマはゴミのままだったかもって思った。

 誰もいるって言ってくれないから…、欲しいって言わないから…。

 もしもこんな風だったらとか、そうじゃなかったらなんて考える必要なんてないのに、いらないなら拾わなくて、欲しくないならそのままな久保ちゃんを見てるとたまらなくなる。
 久保ちゃんが何を思って俺のコト拾ったりしたのかとか…、そんなのは知らないけど…。
 どうしようもなく…、何かが胸の中で揺れてた。
 それはたぶん考える必要なんかないけど、あったかもしれないもう一つの現実なのかもしれない。

 「クマの持ち主が来て良かったね」
 「…うん」

 そんな風に話しながら二人で並んで歩いてたけど、なんとなく久保ちゃんと手をつなぎたくなって手を伸ばした。
 そしたら久保ちゃんは、何も言わないのに俺の手をしっかり握ってくれる。
 まるでありもしない現実に、ズキズキ胸が痛んでるコトに気づいてるみたいに…。
 けどホントはぜんぜんそんなのじゃないって…、久保ちゃんが教えてくれた。

 「俺のコト、クマみたいに捨てたりしないでくれる?」
 「な、なに言ってんだよっ」
 「時任って飽きっぽいし…」
 「そんなワケねえだろ…って、なに言わせんだよっ!」
 「好きだよ、時任」
 「うわっ、こ、こんなトコでくっつくなっ!」
 「今度のゴミ捨ても一緒に行く?」

 「ぜってぇ、ヤダっ!」

 必要だって言ってくれるヤツがいたとして…、そいつが俺のコト拾ってくれたとしても…。
 たぶん俺は、ソイツのことを必要だって言ってやれなかったかもしれない…。
 それは絶対にありもしないことだけど…。
 出会ってなくても…、理由なんてワケなんて何もなくても…。
 久保ちゃんしか好きにならなかったって…、そんな気がするから…
 

                                             2002.11.2
 「いらないモノ」


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