ガゥンッ、ガゥンガゥン・・・・・・!!

 ビルの谷間に銃声が鳴り響く。
 こんな真っ昼間から派手な銃声を響かせて、久保田は三人の男の額を銃弾で打ち抜いた。
 寸分の狂いもない見事な射撃。
 まるで機械のように正確にすぅっと標的に向かって構えられた拳銃は、引き金を引いた衝撃で揺れただけだった。
 銃の撃ち方には撃った人間のクセが出る。
 久保田の射撃のクセは、イヤに正確に急所を打ち抜く所だった。
 「行くよ、時任」
 「ああ…」
 パトカーが殺害現場に到着する前に逃げるため、時任と久保田は入りくんだ路地を全力疾走する。ただひらすら前を向いて…。
 けれど本当は逃げる必要などないのかもしれない。先に仕掛けてきたのはあちらの方で、久保田はただ自分達の身を守るために引き金を引いたのだ。
 銃刀法違反だというなら、あの時あの瞬間、誰が助けてくれたと言うのだろう?
 「なんかさ」
 「うん?」
 「やけに多くなったよな、最近…」
 現場からずいぶん遠ざかって、歩みが普通の歩調まで戻った頃、時任がポツリとそう言った。
 決して、それを悲観的に思っているとかそんな感じではなかったが、なんとなく少しだけ疲れたような色が混じっているように聞こえなくもない。
 久保田はポケットからセッタを取り出すと、それに火を付けた。
 「もうイヤ?」
 いつもと変わらない表情で久保田がそう言うと、時任は不審そうな顔をして首をかしげる。そんな時任の顔を見た久保田は、ゆっくりと白い煙を吐き出した。
 「危ないオジサンたちにおっかけられたり、ヒト殺したりするの。イヤになった?」
 「…何言ってんの、久保ちゃん」
 「何って、言った通りだけど?」
 いつもと変わらない口調、変わらない表情。
 時任は間近まで傍に寄って行って、そんな久保田の顔を覗き込んだ。
 強い意志を感じさせる綺麗に澄んだ瞳が、鋭く久保田を射抜く。
 この瞳の前では嘘も誤魔化しも通用しない。
 すべてが暴かれてしまう。
 久保田は目を細めて、その瞳をじっと見返した。
 「久保ちゃんは?」
 久保田の視線を受けても時任は目をそらさず、久保田を見つめ続けている。
 先に視線をそらせたのは久保田の方で、
 「別に」
と、言って静かに目を閉じた。
 「久保ちゃんはヒト殺すのイヤ? つらくなってきてんの?」
 なおも視線をそらさず、時任がそう言う。
 久保田は少し考えるように足元のアスファルトを見た後、軽く肩をすくめた。
 「さあ? とりあえずイヤじゃないような気はするけど」
 飄々とそう久保田が答えると、時任は少し伸びをして久保田の頭の後ろに両手を回す。そして、自分の額に久保田の額をくっ付けた。
 すると、二人の間は目をそらせないほどの距離になる。
 久保田はしっかりと目を開けて、間近にある時任の瞳を見た。
 「俺らのしてるコトっていけないことか? 生きようとすることがそんなに悪いことなのかよ?」
 「時任」
 「…後悔なんかしない。生きようって思ってる自分のコト、イヤになんかなんない。俺は久保ちゃんと一緒に生きんだって決めたんてんだ。だから、死んでも後悔なんかしねぇよ」
 そう言い切った時任の表情には一点の曇りもなかった。

 生きようとすることに理由なんていらない。
 生きることは存在しつづけるという事だから、そこに自分がある限り生きていることを誇ろう。
 その誇りを、自分が生きるという選択を間違ってるなんて、そんなことは神様にだって絶対に言わせない。
 
 時任はニッと久保田に笑いかけると、
 「行けるトコまで一緒に行こうぜ、久保ちゃん」
と、言った。
 すると久保田は今を必死に生きている時任を眩しそうに見つめながら、ゆっくりと微笑んだ。
 「俺のコト置いてかないでね、時任」
 自然に近づいていく唇が、まるでお互いの存在を伝え合うかのように触れ合う。
 深く深く口付けて吐息を分け合いながら、久保田はきつく時任を抱きしめた。
 この世のすべてのモノから守るかのように…。
 「…空がすっげー青い」
 久保田の腕に抱かれながら時任が空を見上げると、そこには雲一つない青空が広がっていた。穢れのない綺麗な空を見ながら、時任は久保田の頭を抱きこんで自分の肩に押し付ける。
 そうしたのはなんとなく、久保田が泣いているような気がしたからだった。
 泣いてなんていないのはわかっていたけど…。

 「帰ろう、久保ちゃん」


 存在し続けることが罪だとしても、強い意志を秘めてる君の綺麗な瞳を汚すことなんて誰にもできやしない。たとえそれが神サマだって、俺が絶対にそんなコトさせないから…。
 
 
                                             2002.4.19
 「瞳」


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