いつもヒマな時に行く場所は、なんでかわかんないけどいつの間にか決まってて…。
 だから今日もそこに行くために、上へ続く階段をのぼってた。
 その階段は屋上に続いてんだけど、ココを上って屋上に行くヤツってあんまいなかったりする。
 屋上に行くのは四階だから眺めもいいし、風が吹いてて気持ちいいから好きだけど、今日はドアを明けた瞬間、このまま帰ろうって思った。

 「今日は屋上行くのやめっ」
 「寒いから?」
 「そ、そうじゃねぇけど…」
 「なにあせってんの?」
 「あせってねぇ…って、ぱ、バカっ、ドア開けんなよっ」
 「なんで?」
 「今、開けるとマズいんだって」
 
 俺が一度開けたドアをすぐ閉めた理由。
 それは屋上にすでに先客が二人いて、しかもその二人がキスしてたから…。
 校内に付き合ってるヤツはたくさんいるだろうけど…。
 実は写真で見たことはあったけど、男同士のカップルのそういう現場を見たのは初めてだった。

 「あ、もしかして屋上で誰かキスでもしてた?」
 「な、な、なんでわかんだよっ」
 「お前の顔が赤いから」
 「べつに赤くなんかなってねぇっ」
 「見学に行っこっか?」
 「い、行くなっつってんだろっ」
 「冗談に決まってるっしょ?」
 「…ヒトで遊んでんじゃねぇよっ」
 「赤くなってて可愛いから、遊びたくなるだよねぇ」
 「だからっ、赤くなってねぇっつーのっ!」
 
 しばらくドアの前にいたけど、俺と久保ちゃんは一緒にのぼった階段を下りた。
 せっかく行ったのに残念って言えばそうだけど…。
 やっぱヒトの恋路を邪魔して、馬に蹴られたくねぇし…。
 それに校内で誰もいない静かな場所って限られてっから、余計に邪魔はしないでおこうと思った。
 
 「なぁ、久保ちゃん」
 「ん?」
 「なんでアイツら、学校なんかでキスすんだろ?」
 「したいからじゃないの?」
 「だってさ、誰に見られるかわかんねぇし、落ち着いてできねぇじゃんっ」
 「まあ、それはそうかもだけど、突然、キスしたくなることだってあるっしょ?」
 「学校で?」
 「どこででも、ね」

 チュッ…。

 「ば、バカっ! 今のはぜってぇっ、誰かに見られたっ!」
 「別に見られてもいいんだけどなぁ」
 「今度やったら、二度とさせてやんねぇかんなっ」
 「はいはい」

 久保ちゃんとキスとか…、それから他のコトとかもしてて…。
 けどそれを誰かに見られたくないし、わざわざ見せたくもなかった。
 そーいうのはヒトに見せるモンじゃねぇから、それが当然ってカンジだけど…。
 男同士だからどうとか、バレたら停学だからとかそんなのを理由にはしたくない。
 屋上でキスしてる奴ら見てなんとなくだけど、好きでキスすることが悪いなんて理屈あってたまるかって思った。
 
 「先客が多くなったら、新しい場所考えないとね」
 「生徒会室に行けばいいじゃん、べつに」
 「落ち着いたトコじゃないと、キスしてくれない誰かサンがいるからダメ」
 「が、学校でしなきゃいいだろっ」
 「だから言ったっしょ? どこででもしたくなるからって」
 「俺は学校とかじゃ、したくなんねぇのっ」
 「ホントにしたくなんない?」
 「・・・・・って、もしかしてそういう理由で、今まで屋上に行ってたのか?」
 「うん、そーだけど?」
 「マジ顔で言うなよっ」
 「キスとかじゃなくても、二人きりになりたいのは本当。時任は俺と二人きりになりたくない?」
 「そ、それは…」
 「それは?」

 「秘密」

 結局、俺らもキスしてた奴らと似たり寄ったりってヤツで…。
 キスしたりするためじゃなくても、二人きりになりたいって思ってたのは事実だった。
 教室にいても、生徒会室にいても…、二人でいることはできても二人きりじゃない。
 別に久保ちゃん以外の誰かがいることが嫌だってんじゃねぇけど、時々、何かを確認するみたいに二人きりでいたくなるから…。
 だからいつも屋上に行くんだって、今になってやっと気づいた。

 「行くならやっぱ屋上がいいっ」
 「じゃ、あまり先客が来ないように祈ってなきゃね?」
 「何に向かって祈るんだよ?」
 「さぁ、何にだろうね?」

 たぶん校舎の中にはたくさんの秘密があって…。
 でも、それはダメだからとかいけないから秘密なんじゃなくって、二人しか知らないから秘密なだけなのかもしれなかった。
 キスしたくなる気持ちや想いは、絶対に見えないから誰にも知られたりしない…。

 だから誰もいない場所で、二人きりでキスをしましょう。
                                             2002.10.12
 「秘密」


                     *荒磯部屋へ*