朝起きたら、ベッドの中にもリビングにもどこにも久保ちゃんがいなかった。 たぶん用事とかあって出かけたんだってわかってっけど…。 なんかさ…。 今日はいてほしかったなぁって思ったりした。 実はカラダだるいし、気分もあんま良くない。 こういう時に一人でココにいるのって、なんか好きくねぇんだよなぁ。 「…家出してやる」 なんて口に出して言っても、ただ言ってるだけ。 するはずねぇじゃん…、当たり前だけど。 って、なんで俺様が憂鬱なんかしなきゃなんねぇんだ。 くそぉっ、久保ちゃんのせいだっ、久保ちゃんが悪いっ! 「久保ちゃんのバカっ、早く帰って来いっての!!」 ・・・・・・・・・・。 なんとなく叫んでみたけど、なんかむなしい…。 一人でしゃべってんのって、バカみてぇ。 あーあ、なんかイヤーなカンジ。 とりあえずリビングのソファーに寝転がってようって思ったら、ソファの上に昨日久保ちゃんが着てたシャツがあった。 そういや、昨日ソファーでだったっけ? なんてなんとなく昨日のコト思い出しかけたけど、なんかヤバい気分になりそうだからやめた。 一人でエッチな気分になんのも、やっぱむなしいよなぁ…。 そーいう気分になっても、エッチどころかキスもできねぇし…。 …なんて、なんかそういうコト考えちゃってる自分もイヤなカンジ。 イヤな気分ばっかでどうにもなんねぇから、今日は何もしたくない。 「…だるい、眠い、メンドい」 とりあえずソファーに座ってから、クーラーが寒いからって理由つけて、なんとなく久保ちゃんのシャツ着てみる。 そしたらぶかぶかだった。 ヤセてても背ぇ高けぇもんなぁ…、ジーパンもサイズぜんっぜん違うし…。 ・・・・・・それに、やっぱシャツからセッタのニオイする。 こんだけニオイついてんのって、そーとー吸ってるってコトだよなぁ。 ソデんとこに鼻をつけて匂いかいだら、セッタに混じって久保ちゃんのニオイがした。 いつもは慣れすぎててわかんねぇけど…、今ははっきりわかるニオイ。 そのニオイ嗅いでると、シャツと一緒に投げてあったセッタが目に入った。 新品じゃなくて、何本か吸ってあるヤツ。 俺はそこから一本だけ出して、こないだセッタ買った時にもらったライターで火をつけた。 うわっ、マズッ! いっつも思うけど、よくこんなん毎日吸ってるよなぁ。 しかも、すっげぇウマそうに…。 なんでこんなんがウマいのか、ぜんっぜんわかんねぇ。 やっぱ汚染されてんじゃん、今に肺とか真っ黒になんじゃねぇの? …なーんて最初は思ってたけど、いつの間にか俺も吸えるようになってた。 カラダに良くないってそれだけのモノだから、吸えるようになってもうれしくない。 ぜんぜんうれしくなんかねぇけど、久保ちゃんが汚染されてるなら俺もそれでいいって思った。 だから、久保ちゃんのいない時にセッタ吸うクセついてたりする。 久保ちゃんと同じくらい、真っ黒に肺を汚したいから…。 一緒に汚れたいから…。 そしたら、ずっと一緒にいられるような気がしたから。 ピンポーン…。 「ただいま、時任。開けて」 あっ、久保ちゃんが帰ってきたっ。 なんか帰ってくんの早いって思いながらドタドタと歩いて行ってドア開けると、買い物袋持った久保ちゃんが玄関の前に立ってた。 「おかえり、久保ちゃん」 「ただいま…」 帰ってきた久保ちゃんは、なんでかわかんねぇけど俺の顔をじ〜っと見つめたまま、中に入らずに突っ立ってる。 な、なんだってんだっ、一体!? そう久保ちゃんに言おうとしたけど、俺より先に久保ちゃんが口を開いた。 「…時任」 「なに?」 「なんで、俺のシャツ着てセッタ吸ってんの?」 げっ、ヤバッ!! 久保ちゃんに言われて自分のカッコ見たら、思わず逃げ出したくなった。 久保ちゃんのシャツ着てセッタ吸ってて…、これってかなり…。 こ、ここはなんとか誤魔化さねぇと・・・・・・・。 「く、久保ちゃんのものまねっ」 苦し紛れにそう言ってみたら、久保ちゃんはう〜んと唸って首をかしげた。 「・・・・・・俺ってそんなんだっけ?」 「そんなんだっつーのっ!」 「ふーん」 な、なんとかセーフ…。 なんて思ったけど、そう思った次の瞬間、視界が何も見えないくらいスゴクぼやけた。 「どうせなら眼鏡もかけなきゃねぇ」 「かけたら歩けねぇだろっ」 「心配しなくても、俺が連れてってあげるよ」 「リビングまで?」 「どこへでも、どこまででも…、ね」 どこへでも、どこまででも・・・・・・・。 そう言った久保ちゃんの顔は、眼鏡のせいでぼやけてて見えなかった。 |
2002.7.21 「不在中」 *WA部屋へ* |