新しい月になったら、カレンダーをめくるけど…、
 メンドくさがりの久保ちゃんはいつまでたってもめくらないから、それはいつの間にか俺がすることになってた。

 「今日は…、12月1日っと…」

 そう言いながらリビングにあるカレンダーを、ピリッとめくると12月になる。そしたら、最初はあんなに分厚かったカレンダーが一枚だけになって…、それを見たらホントにもうじき一年なんだなぁって…、
 もう一年…、ずっと一緒にいたんだなぁってすごく思った。
 始めてこのカレンダーを見た時は十二枚もあったのに、今はこんなにヒラヒラしてる。それはもう一枚きりになったから当たり前なんだけど、いつの間にかこんなにカレンダーめくってたんだってことが、なぜか不思議な気がした。
 始めて見るモノだらけだった部屋も、今は見慣れたモノばっかあって…、
 ソファーにある俺が使ってるぐちゃぐちゃになってる毛布とか、夏に買った青色のマグカップとか…、ココには俺のモノがいっぱいある…。
 だから、それはたぶん俺がココにいるって証拠で…、
 
 ココに…、久保ちゃんと一緒にいたコトの証拠なのかもしれない。

 なんとなく、ぐるっと部屋を見回すと隅にあるラックの中に夏にしそこねた花火が入ってて…、その横にはゲーセンに行った時に取ったキーホルダーが落ちてて…、
 そういうのを見てると、あん時はどうだったとかこうだったとか色んなコトを思い出した。
 けど、まだなつかしいとかそんな風に思うくらい昔のコトじゃない。
 それは俺と久保ちゃんが一緒にいたのが一年だからだけど…、たぶん久保ちゃんと会う前の時間よりも会ってからの時間の方が短いのに長いって気がする。
 一年が過ぎんのは、すっげぇ早くてあっという間だけど…、いつでも思い出すのはしそこねた花火とかそういうので…、
 だから、カレンダーを一枚ずつめくった一年はきっと短いけど長くて…、そん時の気持ちとか想ってたコトとか…、

 俺の中には…、たくさんたくさん詰まってるのかもしれなかった。

 めくった十一月のカレンダーをゴミ箱に放り込んで、ちょっとだけ伸びをしてみる。
 そしたら、ドアのチャイムが聞きなれたリズムで二回鳴って…、俺はゆっくりと伸びをしてた手を下へと降ろした。
 
 「…ったくっ、カギくらい持ってけってのっ」

 何度言ったかわからないセリフを言いながら、俺がドスドスとわざと足音を立てて玄関まで行ってドアを開けるとそこには久保ちゃんが立ってて…、
 だから一年前とかそんなのじゃなくて…、ずっとずっと前からこんな風にしてたみたいなカオして久保ちゃんにおかえりを言った。

 「おかえり…、久保ちゃん」











 ピンポーン…、ピンポーン・・・・・。

 マンションの部屋の前に帰りつくと、いつものようにドアのチャイムを鳴らした。そしたら、ドアの向こうからドスドスと足音が聞えてきて、ドアがまるで自動ドアのように自動的に開く。けど、それは当たり前に自動ドアじゃなくて、ちゃんと開けてくれてるヒトがいるからだった。
 前は忘れずにカギを持ってたけど、今はカギなんてなくてもドアは開く。
 ドアを開いて顔をのぞかせた時任は、少しムッとした表情でおかえりを言った。
 だから、俺もただいまを言って部屋の中に入る。
 すると、時任は俺が持ってるモノはなんなのかって聞いてきた。

 「それってなに? ポスター?」
 「いんや、バイト先でもらったカレンダー」
 「…って、なんで雀荘でカレンダーなんかもらうんだよっ」
 「さぁねぇ? 一緒に卓囲んでたオジサンが自分の店のだからってくれたけど?」
 「ふーん…。ま、わざわざ買うのもったいねぇし、ちょうどいいじゃんっ」
 「まだ貼るには、ちょっとだけ早いけどね」
 「けど、すぐに十二月も終わっちまいそうだよな…」
 
 「そうだね…」

 リビングに入ると昨日まで十一月だったカレンダーはちゃんと十二月になってて…、この間までまだ数枚あると想ってたのにもう一枚きりになってた…。
 いつの間に一年もたっちゃったのかなぁって、考えてもわからないけど…、
 テーブルの上で俺がもらってきたカレンダーを開いてる時任を見てると、なぜかこれがちゃんと現実だって確かめたくなって時任に近づいて頭を軽く撫でた。
 時任はめくる手を止めたけど、少しすると何も言わずにそのまま猫の写真が印刷されているカレンダーを再びめくり始める。でも、その手は八月のところで止まって…、そしてそばにあったペンで二十四日の所に大きな丸印を書いた…。
 だから俺は、時任が丸を書き終えると次のページをめくって八日の所に同じように丸印を書く。そうしてから…、時任と俺は指切りをする代わりに顔を見合わせた。

 約束すんじゃなくて…、来年も一緒にケーキを一緒に食べるのが当たり前みたいなカオして微笑み合いながら…。

 こんな風に丸印を書いてても先のことなんて何もわからないけど、たぶんこんな風に一緒に丸印を書いたコトが…、大切な何かになっていくのかもしれない。形なんてなくて、たとえ月日が流れてカレンダーがめくられても…、この部屋の中に一緒にいたコトは消えてなくならないから…、
 過ぎていく時を鼓動で心臓に刻みつけて…、いつも触れた暖かさを放さないように強く抱きしめていた。
 だから…、鼓動が時を刻みながら熱く激しく動き始めた日にも大きく印を付ける。
 そしたら、俺が丸印を付けている手の先を時任がじっとのぞき込んだ。

 「なぁ、この日ってなんの日?」
 「ん〜、わかんない?」
 「俺らの誕生日でもなんでもねぇし、祝日とかでもねぇし…」
 「この日って、はじめての日なんだけど?」
 「はぁ? はじめての日ってそんなのあんのかよ?」
 「うん…、初エッチ記念日」
 「そ、そんなの記念日になんかにすんじゃねぇっ!!!」
 「ハジメテの時は痛くしちゃってゴメンね」
 「うわぁぁ〜〜〜っ!!!もう何も言うなっ、しゃべるなぁっ!!」
 「けど、気持ち良かったデショ?」
 「わ、忘れたっ!!」
 「もしかして、やっちゃったコト後悔してるとか?」
 「・・・・・・・・・・バカっ、そんなワケねぇだろっ。もし後悔とかしてたら、今頃ベッドが一つじゃなくて二つになってる…」
 「うん…」
 「でも、ホントはそういう日じゃねぇんだろ? 一月って俺がまだココに来たばっかの頃だし…」

 「それはねぇ…、ナイショ」

 そう言いながら持っていたペンから手を放すと、俺は丸印のついた来年のカレンダーを今年の隣りにかける…。するとカレンダーを貼るにはまだ早いけど、こうしてるといつか終わりがくることを知ってても…、
 歩き続ける今日が…、こんな風になんでもない日が明日へと止めどなく続いているような気がした。

 この部屋でお互いの鼓動を感じながら…、止めどなく恋していくように…。

 過ぎてく時は俺の鼓動じゃなくて、時任の鼓動で刻まれてくから…、カレンダーも俺の手じゃなくて時任の手でめくられていく…。だから、このカレンダーがめくられなくなった時は、俺の中の時間も動き始めた時と同じように…、
 ・・・・・唐突に突然に止まってしまうのかもしれなかった。
 それから少しして時任は俺が印をつけたよりも少し後の日ににペンを持って印を付けたけど、今度は俺の方がその日が何の日なのかわからない…。だから、何かあったのか考えてると、時任は俺の頭を軽く叩いた。

 「俺よか先に見つけてたからっていい気になんなよっ。もしも意識失ってなかったら、ぜってぇ俺の方が先に久保ちゃんのコト見つけてたんだかんなっ!」

 そう言ったのを聞いた瞬間に、印をつけた日が何の日なのかがわかった。
 時任が印をつけたのは…、この部屋のベッドで目を開いた日…。
 時任が俺を始めて見た日だった。
 俺は暴れる時任を強引に抱きしめると、動けないようにソファーにその身体を押し付ける。そして…、パーカーの中に手を這わせながら、少し赤くなってる耳元に唇を寄せた。

 「だったら、今度はどっちがたくさん好きになるか…、競争でもしょっか?」

 過ぎていく時は止まらない、どんなに足を止めようとしても止まれないけど…、だからって歩き続けてるんじゃなくて…、
 めくられていくカレンダーの先に何があるのかはわからないけど、俺の背中に回された愛しい手がめくっていくからまだ止まりたくなかった。
 だから、過ぎていく日々を歩きながら走りながら…、生きるように君への想いだけを刻み続けてる鼓動で恋をしよう…。

 赤い丸印をいっぱいつけて…、君と生きる時をカレンダーに刻みつけながら…。


 
『カレンダー』 2003.12.5更新


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