静かに、静かに、音も無く雪が舞い落ちている。 少しの間、気を失ってたみたいだけど、あまりの寒さに目が覚めたみたいだ。 目の前をひらひらとくるくると落ちてく雪が、なんとなく幻想的っていうか、そんな感じで。 なんだかすべてが現実味を欠いていた。 「せめて冬じゃなかったらよかったんだけどなぁ」 わき腹からアスファルトの上に流れ出た赤い血も、すぐに凍ってしまうかも、なんて、そんな関係のないことを考えたりしながら、俺はポケットに無造作に突っ込んであった、セッタを取り出した。 「そういえば、昨日あんまり寝てなかったっけ・・・」 ライターで火をつけて肺の奥まで煙を吸い込んだら、なんだか眠くなってきたけど、その理由は寒いとかそういうのじゃなくて、ちゃんとあったりする。 昨日、俺は徹夜で時任とゲームしてたんだった。 一回も勝てなくて、ムキになって、必死に俺と対戦してたんだよねぇ、時任は。 俺はその必死さに飲まれちゃったって感じで、朝までお付き合い。 でも、実はその半分くらいはベッドの中でだったけど。 ・・・・時任。 口に出さずに、その名前を口ずさんでみる。 俺は何度、その名前を呼んだだろう。 『久保ちゃん』 俺は何度、時任が俺のことをそう呼ぶのを聞いただろう。 俺達は、未来のコトとか、明日のコトとか、そんな約束は何もしなかった。 けど、これまでもこれから先も、ずっと時任の隣にいることが俺の当たり前だったんだよね。 まぁけど、それも時任次第ってトコあったけどさ。 「う〜ん、ちょっと本格的にヤバそう、かな」 撃たれた部分は、急所は外してるものの、たぶん血管とか内臓とか傷つけちゃった感じの場所。 身体に力が入らなくて、立ち上がることができないのはそのせい。 そのせいで、俺はあの時の時任みたく、狭い路地裏で捨て猫みたいにこうしてる。 いつか、そういつか、こんな風に・・・・・と、俺は思ってた・・・・・。 辺りは白く白く染まっていき、すべてのモノが凍りついてく。 もう何も見えない、聞こえない。 俺は世界が音もなく静かに凍結していくのを感じていた。 「・・・・ちゃん!」 「久保ちゃん!!」 どれくらい眠ってかわからない。 けど俺は、自分の耳に届いた声にひっぱたかれたような感じで目を開いた。 全身の力を振り絞ったって感じのその声は、半分泣いて、半分怒ってる。 視界はぼやけてるのに、今にも泣きそうな顔だけがはっきりと見えた。 「泣きそうな顔してどしたの?」 そう俺が尋ねると、時任はぼろぼろ泣きながら俺を怒鳴りつけた。 「バカっ、久保ちゃんのバカ!! 久保ちゃんなんか大嫌いだっ!!」 ケガ人に大嫌いはないんじゃないのかなぁ、時任くん。 けど、どんなに嫌われたって、俺はお前コト嫌いになんないっていうか、なれないケドね。 「絶対!ゆるさねぇからなっ!!」 何を許さないのかなんなのか、支離滅裂なことをわめき散らして、バカだなんだと俺を罵倒して、それでも時任は俺のことをぎゅっと抱きしめた。 「やっぱり時任は体温高いね」 「てめぇが低すぎんだよっ!とにかく、病院行くからなっ、病院!!」 「はいはい」 「それまで死ぬなよっ!絶対だかんなっ!」 「うん」 時任が俺の顔を覗き込んだ拍子に、時任の涙が俺の頬に落ちた。 俺は自分の死様を想像しながらも、やはり死なないと思う。 死ねないんじゃなく、死なない。 音のない世界に時任という音が加わり、温度の無い世界を時任の暖かな体温が暖めていくから、だぶん、俺の世界は時任がすぺて。 だから、時任が生きている限り俺が死ぬことはないんだろう、たぷんね。 「立てるか?」 「・・・・どうだろうねぇ?」 黒い髪、同じ色の勝気な瞳。 愛しい君の指に、俺はそっと自分の指を絡ませた。 「時任」 好きよりも、愛してるよりも想いを込めた言葉は、君の名前・・・・。 |
2002.2.7 「僕の世界に鳴り響く音」 *WA部屋へ* |