・・・・・・・ガチャリ。

 学校の昼休み…。
 天気が良かったから、なんとなく久保ちゃんと二人、購買で買ったパンを持って屋上に行った。けど、階段を登ってドアをあけると…、そこには先客が二人いた…。
 し、しかも濃厚なキスなんかしてて…、
 いくら待ってても当分、終わりそうもなくてダメなカンジ。
 一瞬だけキスしてる二人を見て、そーっと音を立てないようにドアを閉めた俺は、ぼんやりと後ろに立ってる久保ちゃんを振り返る。そしたら、久保ちゃんもドアの向こうの様子を見てたみたいで軽く肩をすくめた。

 「ま、しょうがないやね」
 「つーか、いくら天気が良くても冬の屋上ってマジ寒ぃのに…」
 「それは、俺らもオナジでしょ?」
 「オナジじゃねぇよっ、俺は昼メシ食おうとしただけだっつーのっ」
 「寒がりのクセに屋上で?」
 「いーだろっ、別に…っっ」
 
 屋上なんかで昼メシ食おうとしたのは、単なる気まぐれっ。
 だから、先客がいてもそんなに残念ってほどじゃない。それに、自分で言ったみたいに屋上は寒ぃしっ、逆に部屋ん中で食うコトになって良かったくらいだし…っ。
 でも、なのになんかため息がつきたくなんのは、もしかして実は先客がいてガッカリしてんのか…、自分でも良くわかんねぇけど…、
 そこまで考えたトコで、歩いてく先に見覚えのある茶色い頭を見つけて気分が悪くなる。くっそぉっ、先客が居ただけじゃなくて、今度は補欠かよ…っっ。
 …たくっ、冗談じゃねぇ…っっ!!
 
 「あれ、急に方向転換してドコ良くの? 生徒会室はあっちだけど?」
 「気が変わったっ、別なトコで食うっ!」
 「それはいいんだけど、お次はドコへ?」
 「うー…、資料室っ」
 「はいはい、資料室ね」

 藤原が気づく前に方向転換して、資料室へ直行っ。
 今度はぜってぇっ、きっと誰もいねぇし大丈夫だっ!
 おっしっ、資料室に着いたら焼きそばパン食うぞーっ!!!
 ・・・・・と、思ったけど、なぜか資料室には入れなかった。

 「ちくしょーっ!!!なんでカギがかかってんだっ!!!」
 「あー…。そう言えばココで大塚が悪さしてたの見つかって、昨日、三文字センセイが鍵かけたって桂木ちゃんが言ってたような…、言ってなかったような…」
 「そーいうコトは、行く前に思い出せよっ!!」
 「桂木ちゃんが言ってた時、お前もいたけど?」
 「・・・・・げっ、マジ?」
 
 屋上にはホモカップルっ。
 生徒会室にはホケツ…っっ。
 いつもは開いてる資料室にはカギ…っっ!
 俺はただ昼メシを食いたいだけなのにっ、何で次から次へと…っ!!
 まさか、今日は厄日かっ!?
 それとも昨日、六日目のカレーを捨てたからバチが当たったのか!?
 でも五日も食ったし…、つーかヘンな匂いしてたしっっ!!!
 そもそも、久保ちゃんがあんなに多量に作んのが悪いっ!!!
 そうだっ、そうに決まってるっ!!!

 「・・・・・・久保ちゃんのせいだ」
 「…って、何が?」
 「未だにメシが食えねぇのは、久保ちゃんのせいだっっ」
 「なんで、俺?」
 「うっせぇっ、俺が言うんだから間違いねぇんだよっ」
 「そうなの?」
 「そーなのっ!」
 「じゃ、ゴメンナサイ」
 「う・・・・、べ、べつにあやまれとは言ってねぇだろっ」
 「でも、俺が悪いんでしょ?」
 「確かに久保ちゃんのせいだとは言ったけど、一言も悪いとは言ってない…、だからあやまんなっ」
 「うん」

 言ってるコトがめちゃくちゃだってのは、自分でもわかってる。
 でも、なんか…、ついこんなカンジに言っちまう時があった。
 久保ちゃんのせいだって、ホンキで思ってるワケじゃない。
 けど、色々と考えてると最終的に久保ちゃんになるってだけ…。
 何を考えてても、たどりつくのは久保ちゃんがどうとかこうとか、そーいうカンジ。
 こーいうのってヘンなのかどうなのかわかんねぇけど、そんな俺のめちゃくちゃな言い分を、久保ちゃんはいつも文句を言わずに聞いてくれてた。
 今もそう…、なんだけど…、
 俺がむちゃくちゃ言っても久保ちゃんが微笑んでくれてるのを見ると、なんか…、胸の奥がぎゅっと締め付けられたみたいに苦しくなった。
 
 「久保ちゃん…」
 「ん〜?」
 「わりぃ…、さっきの八つ当たりした」
 「うん」
 「・・・・・ゴメン」
 「わかってるから、あやまらなくていいよ」
 「でも、ゴメンな」
 「うん…、俺もゴメンね」
 
 俺があやまると、なぜか久保ちゃんもあやまる。
 そんな久保ちゃんを見ながら、悪ぃのは俺なのになんであやまってんだよ…っとか思ったけど、顔を見合わせると何もかもどーでも良くなって…、
 何もおかしいコトなんてねぇのに、二人で笑った。
 
 「あ〜…、腹減った」
 「だぁね。 この際だから、持ってるのパンだし廊下で食う?」
 「いーやーだっ」
 「なら、教室に戻る?」
 「それも却下」
 「なら、今度はドコ?」
 「・・・・・」
 「時任?」
 「・・・・・・体育館の裏、かも」
 「了解デス」

 そう言って、俺は持ってたパンと牛乳を久保ちゃんに渡す。
 それから、ポケットから腕章を取り出して腕につけると体育館の裏に向かった。
 昼メシを食うのに腕章は、当たり前に必要ない。
 でも、公務をする時には絶対に必要だ…。
 俺は体育館の裏にたどり着くと戦闘態勢に入る。それはさっさと公務を執行して昼メシを食わないと、ぐぐ〜っと腹が鳴り出しそうだったからで…っ、
 俺は腹に力を入れて腹の虫を押さえながら、下級生を取り囲んでカツアゲしようとしてる奴らを成敗するべく突撃した。

 「天下無敵の執行部っっ、ビューティ時任参上っ!!!」

 俺がそう言うと、背後からのほほんと…、
 「ラブリー久保でーす」
 なんて、久保ちゃんが言ってるのが聞こえた。
 でも今回、久保ちゃんには昼メシを死守するって任務がある。
 けど、それがなくても無敵で美少年な俺様一人で十分だったっっ。
 こんなヤツらっ、三分で片付けてやるっ!!!
 意気込み十分っ、気合いも十分っ!!
 覚悟しやがれーーーっ!!!!

 「げっ!! と、時任っ!!」
 「執行部って、マジかよっ!!!」
 「ヤベ…っっ!!!」
 「そう慌てんなよっ、こっちは四人だぜっ!?」

 最初はすぐに逃げ出しそうだったのに、一番背の高いヤツがそう言うと四人が同時に襲い掛かってきた。
 フツーに考えれば、四対一は分が悪すぎる。
 だけど、天才で最強な俺様にとっては、四人だろうと五人だろうと問題じゃない。
 今、問題なのはコイツらの人数が何人かってのじゃなくてっ!!
 早く昼メシを食わねぇと、昼休みが終っちまうってコトだったっ!!!!

 「必殺っ!!焼きそばパーンチッ!!!!!」
 「うげぇっっ!!!」
 「昼メシ食わせろキーーック!!!!!」
 「うがぁあっっっっっっ!!!!」
 「腹が減って死にそうミラクルアッパーっっ!!!!!」
 「ごふっっ!!!」

 「…って、死にそうなのはこっちの方だぁぁぁっっ!!!!!」

 ふ…っ、決まったぜっ、さすが俺様っ!
 俺様の見事な活躍で悪は滅び消え去り、執行部の手帳にカツアゲしてた奴らの学年と組、そして名前を書いて記録すると、そのタイミングを待っていたかのように昼休み終了のチャイムが校内に鳴り響いた…。
 げっ!!ウソだろっ!!!!
 そんなに校内ウロウロしてたのか…、マジで??
 そう思って久保ちゃんの方を見ると、久保ちゃんは両手で持ってる俺らの昼メシに視線を落とした。

 「焼きそばパン買うのに、結構並んだしね。屋上から体育館まで移動してたら、やっぱそれなりに時間食うかも…」
 「は、腹減った…」
 「じゃ、ココで急いで食う?」
 「それっきゃねぇかも…、でも食ってると間に合わねぇよな?」
 「ま、でも腹減ってるんでしょ?」
 「うん…」

 チャイムが鳴ったので、とりあえず捕まえたヤツらを解放する。
 すると…、体育館の裏には俺と久保ちゃんの二人だけになった。
 このままだとカンペキに遅刻だけど、腹が減ってはなんとやらで俺が体育館の階段に座り込んで焼きそばパンを食べ始めると、久保ちゃんも隣に座ってパンを食べ始める。すると、授業が始まったせいなのか辺りがとても静かになって、パンを包んでる袋のカサカサいう音がやけに大きく聞こえた。
 静かな体育館の裏…、正直なトコかなり寒ぃ…。でも、食べながら久保ちゃんが間を詰めてきて、肩が触れるくらい近くで並んで座ったら少し温かくなった。

 「久保ちゃん…」
 「ん〜?」
 「なんか、やけに静かだな…」
 「だぁね」
 
 それきり何も言わずに、俺はモグモグと二個目のメロンパンを食べる。そしたら久保ちゃんはの方は、一つ目の揚げパンを食べ終えるとコーヒー牛乳を飲んだ。
 朝も晩も二人きりでメシ食ってるけど、学校はなんかソレとは違う。いつも二人で食うってワケじゃねぇし、周りに誰かがいて二人きりってコトもあまりなかった。
 だからなのかもしんねぇけど…、学校で二人きりなると…、
 いつもよか、久保ちゃんのコトが気になる。
 ウチではそうでもないのに、それがなんでなのかはわかんなかった…。
 
 「あーあー…」
 
 メロンパンを食べ終えて、なんとなくため息をつく。
 すると、久保ちゃんが軽く伸びをしながら立ち上がった。
 
 「十五分くらい遅刻かもだけど、行かなきゃね」
 「そーだな。遅れても、欠席よかマシだし…」
 
 そう言いながら立ち上がりかけて、ふと空を見上げる。
 すると、寒くても屋上に行こうって思った時と同じ空があって…、
 その空をじっと見つめると、急に視界が暗くなって何かが唇に当たった。
 冬で空気が乾燥してるせいで、ちょっとだけかさついてる唇の感触…。
 いつもよりも近くからする…、セッタの匂い…。
 そして、舌にほんのりと感じる苦さ…。
 空に向かって手を伸ばすように、キスしてる久保ちゃんに向かって手を伸ばすと首に手を回す。すると、なぜか屋上でキスしてた二人が脳裏に浮かんだ。
 先客が居なかったら、あそこに居たのは俺と久保ちゃんで…、
 そしたらたぶん…、今みたいにキスしてたのかなって思うとあんなにムキになって昼メシを食う場所を誰もいねぇ場所を探してた、本当のワケがわかったような気がした。
 寒いのに屋上に行こうとしたワケも、屋上に先客がいてガッカリしたそのワケも…、わかってしまえば簡単で…、
 なんかすっげぇマヌケっつーか…、バカみてぇっつーか…
 バスいっつーか…、
 色々とわかった瞬間、顔がカッと熱くなってくるのをカンジて、俺はキスを終えると同時に久保ちゃんにカオを見られないように俯いたっ。

 「どしたの? カオが真っ赤だけど?」
 「な、なんでもねぇよ…っっ、ばっ、カオ見んなっ!」
 「このままサボる?」
 「んなワケねぇだろっ、とっとと授業に行くぞっっ」
 「そんなカオで?」
 「だーかーらっ、見んなっつってんだろっ!」

 片手で赤くなったカオを隠しながら、教室に向かって歩き出す。
 すると、なぜか遅刻したのにうれしそうな久保ちゃんが俺の横を歩く。
 さっき言ったみたいに、ちゃんとわかってるから…ってそーいうカオして…。そんな久保ちゃんのカオを見ると後ろ頭をバシッとやりたくなるけど、今日はやけに空がキレイだからやめとくコトにした…。
 学校じゃ…、あまり二人きりになれなくて…、
 俺もそうだけど、久保ちゃんも他のヤツと話もするし…、
 そーいうのは当たり前だけど、ウチではずっと二人きりのクセに…、
 ふと、オカマと話してる久保ちゃんの背中の向こうの空を見たら、それがなんか急にたまんなくなったから…、
 だから、屋上にホモカップルがいたのもっ、生徒会室に行きかけて遭遇したのもっ、
 いつもは開いてる資料室にカギかかってたのも…っっ、
 胸のドキドキが止まらなくてっ、カオが赤くなって治らないのもっっ!!!!


 みーんなっ、空が青すぎたのが悪りぃんだーーっ!!!!


 そう叫んで、今度は久保ちゃんじゃなく…、
 すべてを、キスしたくなるようなキレイな青空のせいにするために…。


                                             2007.1.17
 「すぺては青空の…」


                     *荒磯部屋へ*