今日は暑くて汗かいてたから、身体がベタベタしてて気持ち悪かった。
 けど、早く入りたかったのに久保ちゃんが先に入っちまったから、俺はゲームしながら順番待ち。
 やっぱ暑い時は風呂が一番だよなぁ。
 風呂上りのビールもうまいし。
 けど、俺がいっつも風呂長いから、久保ちゃんが先に入ることが多かったりする。
 久保ちゃんがたまに一緒に入ろうとかふざけたコト言ったりするけど、やっぱ風呂だけは一人でのんびりしたい。
 …というワケで、久保ちゃんが上がったのを確認すると、ゲームの電源切って、着替え持って、俺は風呂に直行した。


 ゴロゴロ・・・・、ドッカーン!!


 「・・・・・・・っ!!」

 な、な、なんだ今の??
 もしかしてカミナリ!?
 服脱いで風呂に入った途端、すっげぇ地響きがして電気がパッと消えた。
 たぶんだけど、カミナリが近くに落ちて停電したのかも…。
 
 と、とりあえず風呂から出る方が先決だよなっ。
 
 …っつっても、いきなり電気が消えちまったからなんも見えねぇじゃんかっ!
 どうすりゃいいんだよっ、この状況っ!!
 真っ暗で自分の手すら良くわかんねぇよ!
 こんなんじゃ風呂から出んのたぶん無理だし…。
 それに…、なんかさっきからポタッポタッって落ちてる水音がしてて…。

 ポタッ…ポタッ…ピチャン・・・・・・。

 「・・・・・・・っ! く、久保ちゃんっ!久保ちゃんー!!」

 背中がなんかゾクゾクするっ!!
 風呂に入ってんのに鳥肌がっ。
 って、あれっ…、なんか洗濯機のヘンがぼぉっと明るく…。
 
 ガラッ。

 「…とき」
 「ぎゃあぁぁ〜〜っ!!!!」

 で、でたぁぁ〜〜〜っ!!!
 祟られるっ、呪われるっ、取り憑かれる〜〜〜っ!!
 ぎゃぁぁぁぁぁっっ!! 助けて、くぼちゃんっ!!!

 「うわぁっ、来るなぁぁぁ!!」
 「・・・・・俺の顔ってそんなコワイ? それって結構ショックなんですけど?」
 「えっ、あれっ、久保ちゃん??」
 「うん」
 「・・・・・・・び、びっくりしたぁ」
 
 久保ちゃんがロウソクなんか持って立ってたりしたから、なんか顔の辺りとかがぼおっと見えてさ。マジで幽霊かオバケかと思っちまった…。 
 けど、今見ても結構迫力あったりとかして。

 「停電って、やっぱカミナリ?」
 「たぶんね。すぐに電気つかないと思うから、ココにロウソク置いとくよ」

 そう言って久保ちゃんは、バスルームに置いてある椅子の上にロウソク立てた皿を置いた。
 そしたら確かに周りとかちゃんと見えるけど、なんか炎がユラユラ揺れてて不気味。
 暗いのも嫌だけど、これもなんか…。

 「く、く、久保ちゃん」
 「なに?」
 「・・・・・・やっぱ、なんでもねぇ」
 「ふーん、そう?」

 ここにいて欲しいけど言えねぇ。
 だって、暗いからコワイなんて、ガキみてぇじゃんかっ。
 …け、けど、また背中がゾクゾクしてきたような気が。

 「時任」
 「な、なんだよっ!」
 「一緒にいてあげよっか?」
 「別にいいっ」
 「恐いんでしょ?」
 「んなワケあるかっ!」
 「肩ふるえてるよ?」

 こわくないって、平気だって言ってんのに、久保ちゃんは俺の頭をコドモにするみたいに撫でてきた。コドモあつかいされんのは嫌だけど、久保ちゃんにさわられるとゾクゾクがなくなってくのがわかる。
 優しく撫でてくる久保ちゃんの手。
 なんか不思議なくらいホッとして思わずふうって息を吐いたら、すっげぇ身体が軽くなる。
 知らないうちに緊張してたんだって、その時初めて気づいた。

 「なんかさ」
 「…なんか?」
 「ロウソクだといつもより、時任が色っぽく見えるなぁって思って」
 「なに見てんだよっ、久保ちゃんのエッチっ!」
 「俺がエッチなのは、時任が一番良く知ってるでしょ?」
 「そんなの知るかっ」
 「一緒に入っていい?」
 「・・・・・・さっき上がったばっかだろ」
 「そうだけど?」
 「だぁぁっ、もうっ、上がるからあっち向いてろっ!!」
 「今さら照れなくでもいいのにねぇ」
 「今さらとか言うなっ!」
 「はいはい」

 久保ちゃんに後ろ向かせたまま、なんとか風呂上がって着替えてたら、遠くでまだカミナリが鳴ってんのが聞こえた。
 いいかげん鳴り止めばいいのに、結構しつこい。
 雨のザァァァっていう音まで聞こえた。

 「久保ちゃん」
 「ん〜?」
 「今、外に出たらずぶ濡れだよな、やっぱ」
 「だろうね」

 別に考えなくても、思わなくてもいいコトなんだってわかってるけど、時々、久保ちゃんに拾われてなかったらどうしてたんだろうって思う。
 雨降ってて、カミナリ鳴ってて、暗くて、寒くて…。
 たぶんきっと、そう思っても行くトコなんかなくて。
 カミナリが光ってんの見ながら、止まない雨を見上げてたりすんのかな?

 「行くよ、時任」
 「…うん」
 「暗いから、足元気をつけてね」
 
 俺と久保ちゃんはリビングに移動すると、ライターでロウソク一本だけに火をつけて目の前に置く。いっぱい火をつけんのも明るくていいのかもしんないけど、なんとなくそれで十分な気がした。
 久保ちゃんはロウソクをつけ終わると、ソファーの前に座る。
 俺はソファーにあった毛布に包まると、座ってる久保ちゃんの膝の間に座って背中を預けた。
 
 「どうかした?」
 「別にっ」
 「ふーん、そう?」

 いつもはこんなコトしないけど、なんとなく今日は久保ちゃんにくっついてたい。
 ぎゅっとくっついて離れたくなかった。
 ザァァって、打ち付けるみたいに降ってる雨が止むまで…。
 久保ちゃんはなんにも言ってないのに、まるでちゃんとそういうキモチわかってるみたいに、後ろからぎゅっと抱きしめてくれてる。
 けど、あんまりぎゅっと抱きしめてくれてるから、なんか胸が痛くなった。
 痛くなる理由なんて何もないのに、なんでだろ?

 暗くも、寒くも、寂しくもないのに…。

 そんなコトを思いながらじっとユラユラ揺れてるロウソクの炎を見てると、久保ちゃんが頬にキスしてくる。くすぐったくて笑うと、久保ちゃんの囁くような声が耳元でした。

 「好きだよ」
 
 好きだって言われて、ぎゅっとぎゅっと抱きしめられて。
 痛いけど、苦しいけど、久保ちゃんでいっぱいになっていくキモチを感じていると、いつの間にか雨音もカミナリの音も聞こえなくなっていた。
 

                                             2002.7.1
 「雨音」


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