ジリジリと屋上のコンクリを焼く、真夏の太陽っ。
ドアを開けた瞬間、流れ込んでくるハンパない熱気っ!
うっわっ、マジ信じらんねぇぇっ!
思わず開いたドアを閉じたい気分になったけど、出入り口の小さな陰に身を寄せ合っている不良と目が合って気が変わる。夏休みに登校して下駄箱に靴入れて上履きで屋上に来た不良どもは、きっちりとは言い難いのはいつもだけど制服を着てたっ。
「マジかよ」
「マジだねぇ」
「でも、一匹足んねぇし」
「ケーキも無いみたいだし?」
・・・・・とりあえずシメるっ!!!
屋上にいたのは笹原と石橋だけ、肝心の大塚は居ない。
…ってコトは、大塚がケーキを持ってると考えるのがフツーだしってんで、久保ちゃんと俺の意見は完全に一致したっ。
とりあえず、コイツらのして、大塚の居場所を吐かせる!
だけど、そんじゃヤるかと指をパキリと鳴らすと、笹原と石橋は同時に両手と首を振った。しかもっ、勢い良くっっ。
「ケーキなんか持ってねぇしっ、俺ら無関係っ!」
「そーそー、俺ら無関係だからっ!」
「だったら、なんで夏休みの屋上なんかにいんだよ。それにお前らが居るってコトは、どーせ大塚も来てんだろ? お前らセットだし」
「セットってなんだ!っていうか、確かに大塚はいるけど…、な?」
「ちょっと前に連れてかれたんだよ、三年に」
「三年?」
予想外の二人の答えに、久保ちゃんの方を見る。
そしたら、久保ちゃんは自分の手の中のジッポを見てた。
・・・・黒猫で三日月で、あの女子にもらったヤツ。
それを見た俺はなんでかわかんねぇけど、イラっとしてモヤっとした。だから、無意識に何やってんだよって言った口調がきつくなって、ちょっち自分でビックリして、思わず反射的に目ぇそらしちまった。
イラッとしてモヤっとしたのに、たぶんワケなんかねぇけど…、
なんとなく、気マズイっ。
「俺はちょっちニコチン切れなだけだけど…、どした?」
「べっ、べっつになんでもねぇよ!」
今はジッポとか女子とか関係ねぇだろっっ。
探してんのはケーキだっ、ケーキっ!
ココロん中でケーキを連呼して気を取り直した俺は、笹原と石橋に向き直り、じりじりと逃げようとしてる二人の襟首を掴む。そんでもって、ズルズル引きずって日陰から日向に出してやったっ。
「うわぁぁっ、あっちぃぃっっ!!」
「死ぬ、死ぬ、焼け死ぬうぅぅぅっっ!」
「日陰に入りたいなら、さっさととっとと吐きやがれっ。なんで、大塚が三年に連れてかれてんだよ。なんか恨みでも買ってんのか?」
「そ、そーじゃねえけど、生徒会室で鉢合わせてさ。ああいう性格だし、売り言葉に買い言葉で、大塚だけお持ち帰りにされたってワケ。たぶん、そろそろボコられ終わって戻ってくんじゃねぇの?」
石橋のセリフを聞いた久保ちゃんが、軽く肩をすくめてアツイ友情だコトと誰に言うでもなく呟く。そんでもって、ジリジリと日陰に入ろうとした笹原の背中をかるーく足で蹴り戻したっ、ナイスフォロー。
けど、すっげぇ天気良すぎな夏の屋上の日向は地獄だけど、日陰にいても暑いモンは暑いっ。くっそぉぉっ、マジ暑いっ、クソ暑いっっ、帰りてぇぇっ!そんなこんなで温度は上昇っ、気分は下降っっ。
久保ちゃんもニコチン切れで光る眼鏡は乱反射っ、開眼ついでに人相まで悪くなってきたぁぁっ!
「なんっで夏休みに登校で制服で生徒会室なのか、さっさとしゃべりやがれっ、オラっ! モタモタしてっと、マジ焼くぞっ!」
「ねぇ、もうメンドーだし、とっとと焼かない。その方が、世のため人のためってもんデショ?」
「あー、かもな。煮ても焼いても喰えねぇけど」
「なら、消し炭にしとく?」
いいなぁ、ソレ…、消し炭かぁ…。
いいよね、消し炭。
自分で言いつつ、何が良いのかは不明っ。
でも、俺らの意見は相方らしく、一秒で一致したっ!
その瞬間、俺らの目はキラリ…でなく、ギラリと光るっっ。
すると、ソレを見た石橋と笹原はブルリと身を震わせると、真夏の屋上で手を取り合いひしっと抱き合った。
『すいませんっっ、今日はクボタ君の誕生日なんでっ! お礼参りっていうか、ケーキとか狙っちゃってましたぁぁぁっ!』
消し炭にだけはなりたくない、ほんのり焼けてきたような気のする2匹の不良が吐いたトコロによると部員しか知らねぇはずの執行部ケーキ会の情報が、どっからか漏れてるらしいってのがわかった。
けど、まぁ…、今回は夏休みだったワケだけど、前は平日でガッコもあったし、室田がケーキの箱持って登校してるの見たらバレるコトもあるよな。執行部のプロフィールは新聞部が流しちまってるワケだし…。
でも、年中ヒマしてそうな大塚とかならともかく、夏休みのガッコに来てまでフツー盗むか? そんな俺の疑問を久保ちゃんも思ったのか、二人の話を聞いて軽く肩をすくめた後、で…っと俺も聞きたかったことを聞いた。
「大塚連れてった三年って、誰? 一年じゃなくて三年なら名前は知らなくても、少しくらい見覚えあるデショ? 特にオタクらが何もせずにおとなしく引くようなヤツならね」
久保ちゃんがそう言うと、やっと日陰に入った笹原と石橋はぐったりしながらも顔を見合わせる。そして、あきらかにあやしーいカンジで、ぼそぼそと小声で何か言い合った後、知らねぇよと言った。
だから、また二人の襟首をひっ掴んでやったっ。
「今度こそ、マジで消し炭になりたいらしいな」
「うわあぁぁっ、やめろっていうか、やめてくださいっ、お願いしますっ」
「なら、さっさと吐けよ。ケーキもそいつらが持ってんのか?」
「つか、さっきからケーキとか言ってるけどさ。俺らが行った時、ソレらしいもんは生徒会室になかったぜ。なぁ、石橋」
「あぁ、なかった。ぶっちゃけ大塚をおとりにして、ケーキだけはゲットしてトンズラとか思ってたのにな」
ケーキだけゲットしようとか思って、お持ち帰りされた大塚を見殺しにしつつ、クソ暑い屋上で戻るの待ってんのは友情なのかなんなのかっ。それはとりあえず置いといて、二人から三年の名前を聞き出す。
けど、無意識にチラチラと久保ちゃんの手元を見ちまって…、なんかケーキのピンチなのに集中できなかった。
さっきからニコチン切れを紛らわしてんのか、手の中のジッポをクルクルとまわしたり、蓋をカチカチさせたり弄んでる。そうだよっ、べ、べつに気に入ってるとか、そーいうんじゃなくてニコチン切れなだけじゃんかって…、ナニ気にしたり必死になってんだっ、俺っっ!!
「・・・・・い、おーい、時任くーん」
「…っ!? な、なんだよっ!!」
「ぼーっとしてるなら、置いてくよ」
「置いてくって、ドコに行く気だ? 三年の名前とか居場所とかもわかんねぇのにさっ」
「ソレなら、さっき石橋が吐いたけど? 聞いてなかった?」
「へっ?」
「もしかして、熱でもある? 暑いのに見回りしたし、熱中症とか?」
左手にジッポ、伸ばした右手で久保ちゃんが俺の額に触れようとする。だけど、俺は反射的に額に触れる寸前で、その手を叩き落とした。
叩き落としちまってから、ハッとして…、やべっと小さく呟く。
でも、なんかあやまるのもヘンな気がして、プイッとそっぽを向いた。
ちくしょう、何だってんだっ、一体!
「熱なんかねぇよっ。それよか保冷剤入ってるったって、早く行かなきゃ喰われてなくてもケーキがダメになるかもだろっっ」
「…て、お前、行先が逆方向。俺らが行くのは、体育館裏とかじゃなくて三年の教室」
「・・・・っ、そ、そんなん言われなくてもわぁってるよ!」
とか勢いで言っちまったけど…、実はぜんっぜんわかんねぇ。
つか、石橋が吐いたとかマジ聞いてなかったしっ。
けど、久保ちゃんはそれ以上、突っ込んで聞いて来なかったから、俺も気にしないコトにした。
今はジッポとか女子とか関係ねぇっっ。
探してんのはケーキだっ、ケーキっ!
無意識にまたそんなのをココロん中で連呼しつつ、ドスドスと階段を下りて三年の教室に向かう。そんでもって、なんか騒がしい二組の教室のドアをスパーンと勢いよく開けたっ。
「ケーキを出せ、今すぐだぜ、3分内に出せ」
大塚と大塚をボコってた三年がてめぇっっとか叫んでっけど、俺はソレを無視して棒読みで言って手を差し出す。けど、そんな俺に向かって大塚をボコってる三年が言ったっ。
「ケーキなんか知るかよっ!」
しかも、知らねぇっ、知るかよっ!と三人いるから返事が山びこのように返ってくる。ソレを聞きながら教室を見回すと、確かにソレらしいもんは何もなかった。
ココだと思ってたのに当てがハズレたっていうか、ココじゃなきゃドコにあるってんだよ。ケーキの行方がわかんなくて、うーんと俺が首をかしげると、同じように教室内を確認したらしい久保ちゃんも首をかしげた。
「ケーキ無いし、用済み?」
「だな」
「…って、ちょっと待てぇぇぇっ!!!」
そんじゃ行きますかって、ドアを閉めようとした俺と久保ちゃんを引き止めたのは三年じゃなくて、ボコられてる大塚。だから、今度はなんで?と俺がさっきとは逆に首をかしげると、久保ちゃんも同じ方向に首をかしげた。
「な、なんでってっ! てめえら執行部だろっ!こういうの見たら公務執行とかって、助けんのが仕事じゃねぇのかよっ!」
「とかって、言われてもねぇ」
「ヤられてるからって、悪の組織を助けんのはちょっちなぁ」
「誰が悪の組織だっっ、俺らは単なる不良で組織なんか作ってねぇしっ!」
「あ、ボコられつつ、自分で不良とか言ってる」
「うわっ、ハズカシイ奴っ!」
「う、う、うっせぇっっ!」
ケーキはねぇし、とっとと行こうぜってカンジだったのに、大塚に引き止められたせいで足止め食った俺らは…、
ふと、何かを思い出したみたいに大塚をボコる手とか足とかを止めた三年と目が合った。そんでもって、その瞬間に不穏な空気を感じた俺は、反射的に攻撃に備えて身構える。
そーいや、コイツらもこのクソ暑い日に、さすがに制服は着てねぇけど、わざわざ今日を選んでガッコに来てたんだったっ。
とか思いつつ、実は目が合ったのも偶然じゃなかったりして?
「・・・久保ちゃんは下がってろ」
「そう言われても、なんとなーく俺が標的みたいだし?」
「だからだろ。ケーキを食うのも祝うのも、俺らの特権だっての!」
「そうなんだ?」
「不満かよ?」
「まさか」
教室で乱闘したら、また相浦が部費が赤字まみれだぁぁぁっとか嘆くし、とりあえず久保ちゃんを下がらせながら廊下に出る。そしたら、やっぱボコってた大塚を放置して、三年が俺に続いて全員廊下に出てきた。
完全にヤる気で指とかパキパキ鳴らしながら、いかにもってカンジの悪人ヅラで。わぉって久保ちゃんと二人で驚いたフリしたら、ますます人相が悪くなった。
だーけーどっ、ソレも作戦、こっちの思うツボ。
さっさと終わらせてケーキ探しに行くのが先決っ、だから、あっちから突撃してくれればヤりやすい。受け取りのハンコ代わりに、ブン殴って、ブッ倒して完了だっ。
「わざわざ、こういう日に来たってコトは、プレゼントくらい用意してんだろ?けど、そーいうのはさ、相方である俺サマを通してもらわなきゃな」
「だったら、てめぇごとプレゼントしてやるまでだ。その方が、素敵なプレゼントになりそうだしなぁっ!」
そんな会話で戦闘開始っ。
でも、その瞬間にカチリと合図のように鳴ったのは、久保ちゃんの手の中のジッポ。それはフタを開いて、閉じた時にたてる音。
気を取られて頬をかすめた拳に、久保ちゃんから、…ん?と問いかけるような視線を感じて、俺はなんでもねぇって答える代わりに、背後から襲ってきたヤツの足を身を屈めながらケリ払った。
久保ちゃんの手の中の黒猫ジッポ。
ソレを選んだ女子は、きっと、久保ちゃんが喜んでくれるようなモノはなんだろうって考えて悩んだんだろって思うし、実際そーだろうけど、さ。
俺だって…、コレでもちっとは考えたり悩んだりしたんだぞ。
さりげなーく何か欲しいモンはないかって聞いても、さぁ?とかつって答えてくんねぇし、少ししつこく聞いてみたらコンビニの駄菓子指差すしっ!
この野郎っっ、わざとやってんだろっとか思いつつ、昨日、やっとコレならってのを、黒猫ジッポを見つけてちゃんとプレゼント用に包装とかもしてもらったりしたってのに…っ!!
「なんだってんだっっ、このヤロウっっ!!」
「うあぁぁぁ…っ!!」
「バカバカバカっ、バーカっっ!!!」
「ぎゃあぁぁぁっっ!!」
「知るかっっ、チクショウっっ!!!」
「た、助けてくれっっ、うぎあぁあ…っっ!!!」
渡せなかったライターを見るとイラッとしてモヤッとして、何となく殴る拳も蹴り上げる足の切れも、いつもの二倍の破壊力っ。そんでもって、思い切りカラダを動かしたせいか、イラッもモヤッもちょっちスッキリした。
うん、やっぱ運動って良いよな。
「て、てめぇ…、覚えてろよ…」
「気が向いたらな」
物騒なプレゼントにハンコを押し終わった俺は、くるりと振り返って久保ちゃんを見る。そしたら、相変わらずニコチン切れな手に黒猫ジッポはあったけど、俺はそんじゃ行うぜって笑った。
「・・・もしかして、キゲン直った?」
「はぁ? 直るもなにも、悪くねぇし」
「なら、いいんだけどね」
ちょっとだけイラッとか、モヤっとかしちまったけど、よりにもよって今日みたいな日に不機嫌なワケねぇじゃんっ。ケーキは急いで探さなきゃだけど、天才の俺様に不可能は無いし、問題なんかあるはずねぇっ。
けど・・・、久保ちゃんととりあえずってコトで生徒会室に向かいながら、マジで誰がケーキ持ってったんだ?とあらてめて考えてみる。
大塚や三年が入り込んでたみたいにカギは開けてるし、校内に入るのは簡単。つか、俺らみたいに部活でもない限り、クソ暑い日に冷房も無いガッコに来るなんて物好きはそうはいない。
あー、物好きの他に、ヒマなヤツも入るか…。
なーんて、今頃、灼熱地獄の屋上にいるかもな物好きなヤツらを思い浮かべて、信じらんねぇっと呟き笑う。そうしてっと、モヤッもイラッも消えてなくなってきて、黒猫ジッポも気にならなくなってきた。
だけどっ、このまんまじゃ終わらねぇのが執行部!
不良も三年も三人…かと思ってたけど、トイレかどっかに行ってたのか、階段を降りようとした俺と久保ちゃんに向かって突撃かましてくるヤツのっ、物騒なプレゼントの受け取りが残ってたっ!
「ちくしょう…っ!大学の推薦取り消されたのは、全部っ、てめぇのせいだっっ!!久保田ぁぁぁっ!!!」
手に持ってんのは鉄パイプ。セリフを聞くまでもなく、ソレ見た瞬間に理解した…、三年の首謀者はコイツだ!
俺はとっさに間に割ってはいるように、久保ちゃんに前に出ようとする。けど、伸ばされた久保ちゃんの腕に阻まれ、思わず見つめた横顔の迫力に押されて、階段の前で二の足を踏んだ。
すると、振り上げられた鉄パイプは、俺が前に出ようとした位置の何も無い空間を切る。そして、久保ちゃんは俺を後ろ手で押して下がらせながら、二度目の攻撃も難なくかわして、首謀者の腹を蹴り飛ばした。
けど…っ、だけど、その衝撃で黒猫ジッポが久保ちゃんの手の中から飛ばされ、宙を舞い階段の方へ、下へ向かって落下していく。
それを視界にとらえた俺は、何を思い考える間もなく、とっさにジッポに向かって手を伸ばしていた。
「時任っ!!」
けれど、ジッポを掴んだと思った瞬間、珍しく叫ぶ久保ちゃんの声が響いてきて、アレっと思ったけど…、
そう思った時、すでに俺は階段の上から足を滑らせていた。
目の前に迫る階段に、しっかりとジッポを握りしめたままでかろうじて受け身の体制を取り、これから来る痛みにぎゅっと目を閉じる。けど、派手な音がしたはずなのに、カラダにあまり痛みをカンジなかった。
「・・・・・っ! 痛い、けど…、痛くない?」
転がり落ちるのも、衝撃も止まった。
けど、俺が倒れてるのは、階段でも硬い床でもない。
そんな感触じゃない…。
その事実に現実に、恐る恐る閉じてた目を開けると俺はまだ階段にいた。そんでもって、階段の途中で落ちるのを防いで、俺のカラダを支えてるのは、久保ちゃんのカラダと右手。
久保ちゃんはどうやったのか俺の後ろに回り込み、落ちるのを防ぐために右手で階段の手すりを掴んでいた。
「・・・・・ギリギリ、セーフ?」
ふーっとホッとしたように息を吐き出した後、久保ちゃんがそう言う。その声を聞きながら、俺は手の中の黒猫ジッポを見つめた。
そして、それを後ろにいる久保ちゃんの前に差し出して揺らす。
んでもって、久保ちゃんと同じセリフを言った。
「ギリギリセーフっ」
「ジッポと心中しかけて、そのセリフ?」
「マジ、サンキューな」
「そーじゃなくってね…って、まっいっか」
「まいっかじゃなくて、何だよ? すんげぇ気になるじゃんっ」
「んー…、ちょっち心臓が…」
ん?心臓??…とかって、久保ちゃんの言葉に続きを聞くはずが、階段の上のあたりでムクリとゾンビみたいに鉄パイプ野郎が復活っ!
なんつーかっ、不気味なムクリ加減だったしっっ!
ぎゃーっとか思ってると颯爽と正義の味方ならぬっ、メルヘンパティシェが白い箱を片手に現れた…ってっっ、
白い箱ぉぉぉぉぉぉ・・・・・っっ!!!!
「あぁぁあぁぁぁーーーーっっ!!」
思わず指差し叫んでっ、そしたら勢い良く指差しすぎたせいで、その反動で後ろに体重と力がかかりすぎちまってっっ!
俺たちの命綱っ、久保ちゃんの右手がハズレたぁぁぁぁっ!
のぉおぉぉぉぉぉーーーっ!!
先に体勢立て直しとくんだったぁぁぁっ!
とか思ったけどっ、なんか視界が逆さまにぃぃぃっ!!
「まさかコレってバク宙ーっっ!!!」
階段で俺を抱えたままバク宙とかってっ、ぎゃーっ、マジ信じらんねぇっ!ちょっち心臓っ、マジ止まるぅぅぅぅっ!
けど、それでも目は閉じなかった。
ビックリはしたけど、怖くなんかない。
・・・・・俺の背中には、久保ちゃんがいる。
だから、バク宙は久保ちゃんがしたけど、着地は自分の足でっ、二人でしたけど…、勢い余って見事に尻もちついたっ。
久保ちゃんは床にっ、俺は久保ちゃんの上に…っっ!!
「だっ、大丈夫かっ!? 久保ちゃんっっ!!」
久保ちゃんの上からどきながら、そう叫んで振り返るっ。
振り返ったはず…っ、だけど、いきなり視界が暗くなったと思ったら。思ったらばっ、何か妙な感触がぁぁぁっ!
し、し、しかもソレってくち、くちっ、くちちちとくちのようなっっ!!
ぎゃあぁぁぁっ、とにかく落ち着け俺っていうかっ!
・・・・・とりあえず離れよう。
・・・・・・・・・ちゅっ。
って、離れたら妙な音したしぃぃぃっっ、うあぁぁぁっ!
俺がどけて振り返ったのと、俺に下敷きにされて倒れてた久保ちゃんが起き上がったのが同時でっ、それでこんなのって…っ、
ドコの少女マンガだぁぁぁってんだ、コンチクショウっ!
で、でもっ、こんな時にどんなカオすればっていうか、なんて言えば良いんだ?とりあえず、事故だっとか、犬にかまれたと思えとかが定番?
なんてのが俺の頭ん中をグルグル回ってんのは、きっとバク宙なんかしたせいだあぁぁあっ、どうするっ、俺っ!!
「・・・・・し、もしもーし、時任くーん。そこまで固まられると、さすがにショックなんですけど?」
「・・・っ!」
グルグルどころか、グルングルンしてる俺の耳のすぐ近くで、そんな久保ちゃんの声がしてっ、とりあえずなんか言おうっ! そうだっ、いつもどーりが一番だっとか思ったけど、なんて言えばいいのかわかんなくて…っ、そんな時に、ふと手に握りしめたままだって黒猫ライターを思い出しちまった俺は、さりげなくっていうより思いっきり挙動不審なカンジで、未だに言えてなかった言葉を思わず言っちまった。
「あの、その…、なんつーかさ…。誕生日おめでとう…」
言うつもりだったけど、何もバク宙した上にチュ…じゃなくてっ!
ちょっとした事故が起こっちまった時に言わなくてもっとか自分で思うっ。黒猫ジッポ握りしめながらなんてさって思うけど、ソレを聞いた久保ちゃんがちょっちキョトンとした後、めったに見たコトないくらいうれしそうに微笑んだから…、まっいっかって…、
黒猫ジッポは渡せなかったけど、もうそんなコトなんか、ぜんぶ消えてなくなっちまうくらい。さっきの久保ちゃんじゃねぇけど、そう思っちまったんだ。
だーけーどっ!
一年女子の黒猫ジッポは受け取ったクセに、相方な俺サマのプレゼントはいらないとかって、どーいうコトだっ!
金はかかってねぇけど、すんげぇ必死に考えたのにぃぃっ!
「うん、ベツに良いよ。誕生日だから免除ってのはナシで、ちゃんと当番はやるし」
「だからっ、免除じゃなくてプレゼントで、メシも掃除も洗濯も俺がやるって言ってんだろっ。それとも、そういうプレゼントじゃヤだってのか?」
「そーじゃなくて、ね。もうもらったから、他はいらない」
「もらったって、何を?」
「プレゼント」
「誰から?」
「もちろん、お前から…」
「はぁ? 俺、なんか久保ちゃんにあげたっけ?」
「さぁ、なんだろうねぇ。ナニを俺にあげちゃったのかなぁ…、時任クンは…。ねぇ、何だと思う?」
「…って、そう言われても良くわかんねぇんだけどっ、言い方がいちいちヤらしいんだよっっ!!」
な、なんだか良くわかんねぇけど、妙にらしくないくらいキゲンのよさそうな久保ちゃんを見てると…、アレ、マジで俺っ、何かあげちゃったの?とか思うけど、まったくぜんっぜん心当たりがなかった。
すんげぇ気になるけどっ、久保ちゃん教えてくんねぇしっ!
あぁぁぁっ、もぉーーっ!
俺らがそんなやりとりしてる間にゾンビを撃退し、更に増えたゾンビも撃退した室田と松原、そして、いつの間にかどっかに消えてた相浦がわざとらしい咳払いをしつつ階段を下りてくる。それに気づいた俺が視線を向けると、やっぱり室田の、パテシェの手にはどー見てもケーキが入ってそうな白い箱があったっっ。
なんかすんげぇっ、イヤな予感するっっ。
…とか思ってっと、相浦がてへへとゴマカシ笑いながら、ケーキ探して階段バク宙までした俺らに素敵な告白をかました。
「あ、あ、あのさ、実は盗まれたってのは俺は勘違いでさ。暑いしドライアイスにも限度あるしで、俺が買い出し行ってる隙に、室田と松原が職員室の給湯室の冷蔵庫に入れてたって…。と、時任っ、そんな良い笑顔カオすんなよっ、これは事故だってっ!」
「な・ん・てっ、こんなベタすぎのオチとか付いちまって、ドコのギャグマンガだってんだぁぁぁっ、コンチクショウっ!」
「ぎゃあぁぁぁー…っ!!」
室田の周りを、ウェディング風バースディケーキの周りをグルグル回って逃げる相浦を追いかけて、俺もグルグル回る。すると、そんな俺らを眺めてた久保ちゃんが、のほほんと今日の天気でも言うように俺に言った。
「プレゼントももらったし、とりあえず二人で初めての共同作業ってコトで、ケーキに入刀でもしよっか?」
「…って、だからっっ、ソレ誕生日ちがーうっ!!」」
そんなこんなで、ハッピーバースディ!
メルヘンパテシェの作ったウェデング風ケーキの上には、生クリームの花園に包まれた教会。その前でチューしてるのは、メルヘンの名にふさわしく黒いタキシードの犬と白いタキシードの猫だったんだけど…っ、
なんっで二匹ともタキシード?な謎は、口をつぐんだまま冷汗を流し続ける室田と、しつこく入刀を迫る久保ちゃんだけが知ってるらしかった。
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