し、しまったあぁぁぁぁ…っ!!!!
今日は8月24日で、当然、ガッコは休み。でも、それは祝日とか日曜日とかってんじゃなくて、夏休みだからってハナシだ。
だけど、そんな夏休みの日に、たった今、ココロん中で叫びまくってた俺は制服を着てる。理由は執行部だからとか町内見回り中だとかだけどっ、今の俺の気分は公務執行とか、それどころじゃないっっ!
気分はすなわちっ、頭を抱えてオーマイガーッ!!
どうしよう…っ、どうすんだっ、俺っ!!
「あ、あのっ、久保田先輩っ、お誕生日おめでとうございますっ!」
二人で見回りしてるとこんにちはと声をかけられ、同時に振り返った瞬間、白いワンピースの女のコがそう言った。俺らみたいに制服は着てねぇけど、久保ちゃんを先輩って言ってるし、たぶん間違いなく同じガッコ。
でも、ココまでは、なーんも問題なかった。
執行部してる関係で新聞部とか取材に来た時にプロフィール聞かれてるしで、同じガッコなら誕生日知ってても不思議じゃない。だけど、こっから先が大問題だったっ。
「私、一年の上坂といいます。一週間くらい前に廊下で、大塚先輩とかにからまれてた時に助けてもらった…」
「あぁ…、アレね。けど、あんなの助けたウチに入らないし、それが執行部な俺の仕事だし?」
「わかってますけど、すごく助かったんです。だから、あの…、お誕生日と助けてもらったお礼をかねてって事で、良かったら受け取ってもらえませんか?」
そう言って久保ちゃんの目の前に差し出されたのは、ちっちゃなリボン付の包み。ソレ見て何が入ってんだろーとか思ったけど、誕生日なのも貰うのも久保ちゃんで、俺には関係無いハナシ…、
だったはずなんだけどっ、開けたらビックリっ!そーじゃなかった!!
「お願いしますっっ!」
プレゼントを渡そうとしてる女のコは、なんか必死だった。
だから、なぜか俺の方をチラリと見た久保ちゃんに、もらってやればな視線をチラリ送り返したんだけど…、さ。まさか、こんな展開になるなんて思わなかったし、こんなの予想なんて出来るはずもねぇしっ。
そんじゃ、ありがたく貰っとくってプレゼントをもらった久保ちゃんが、その場で包みを開けた瞬間…、俺は息を飲み…っ、
それから、頭を抱えたい気分で叫んだってワケだ。
「久保田先輩ってタバコ吸うじゃないですか…。だから、ソレなら良いかなって思って…」
「うん、ありがとね」
確かに久保ちゃんはタバコを吸う。それは誕生日と同じように、誰もが知ってておかしくない事実だけどさっ。
だからって、そりゃねぇだろっ!!!
久保ちゃんの手にあるのは、銀色のジッポ。
そんでもって、そのジッポの柄は黒猫と三日月。
まさか、久保ちゃんがネコ好きだって情報まで流れてんのかっ!? だから、見回りの前にガッコに置いてきたカバンの中にある、俺のヤツと同じモンが今、久保ちゃんの手の中にあんのかっ!?
なんだよっっ、この知らない女子とのシンクロ率!!
ちくしょうっっ、それもこれも新聞部のヤツらのせいだっっ!
どうせ流すなら、天才で美少年な俺サマの情報だけにしろっての!!
「あ、あのさ、ちょっちトイレ行きてぇから、先に帰っててくんね?」
今日は見回りの俺らだけじゃなくて、ガッコにはあと三人。二年の今年から執行部入りした室田と松原、相浦も来てんだけど、それは何となく恒例になりつつあるような? 誕生日っていうより、料理が得意な室田のケーキを食う会ってヤツが行われるからだ。
そん時、一応プレゼント渡したりとかもあるワケで…っっ!
とりあえず、こっからは久保ちゃんと別行動しようっ、そうしようっ!とか思って、行きたくもないトイレに行こうとする。だけど、そんな俺の後ろを久保ちゃんが付いてきたっっ。
「ちょっ、なんで付いてくんだっ。すぐに行くから、先に帰ってろよ」
「うん。けど、トイレ行くって聞いたら、俺もトイレ行きたくなったし」
「なっ、なにいぃぃっ!?」
「…って、俺が一緒に行ったら、何かマズイの?」
「えっっ、い、いや、べつにそんなんじゃねぇけどっっ」
「なら、一緒にいこっか?」
「う…、うん」
…って、俺がしたかったのは連れションじゃねぇぇぇっっ!!!
久保ちゃんから離れて、とりあえず落ち着け俺っっ作戦は久保ちゃんの尿意により失敗っ!おとなしく、近くの公衆トイレに連行っつーか行ったけど、うぅ…、マジでどーすっかな…。
このまんまじゃプレゼント渡せねぇし、相浦とか他のヤツらが渡してんのに、相方な俺がナシってのはさ。
久保ちゃんがとか誰がとかってんじゃなくて…、俺が嫌だっ。
だけど、ジッポ買っちまって金はねぇしっ、時間はナシで絶体絶命っ。見回り終わってトイレにも行って、もうガッコは目の前だし万事休すっ!!とか思った瞬間、前方から走ってくる人影が目に入った。
「おーいっ、時任っ、久保田ーっ!」
ガッコの校門を出て、こっちに向かってくんのは…、相浦?
部室で待ってりゃ行くのに、わざわざ出てくるってコトは、よっぽどな何かがあったのか? そう思って少し早足になりながら、俺は隣の久保ちゃんとカオを見合わせる。
たとえ夏休みでも公務は執行っ、正義の味方は年中無休…っとまではいかなくても、何かあれば即出動。ケーキを食うのは、ちょっち後になりそうだって思いながら、べつにだからってどうにもなるワケじゃねぇけど、俺はココロん中でほっと胸を撫で下ろした。
とりあえずプレゼント保留で、公務だ!
よっしゃっ、ヤってやるぜっ!
てか、夏休みまで執行部の世話になろうってバカは、一体どこのどいつだ! なんて思ったけど・・・、そんなバカはやっぱ限られてた。
「た、大変だっ! 買い出しに行ってる隙に、部室に置いてた室田のケーキが盗まれたっっ!!」
「盗まれたって、今日は特に部活とかもなくて、ガッコには俺ら以外はいないはずたろ?」
「それが居たんだよっ!…つかさ、なんで夏休みなのにガッコなんかに居るんだよ、アイツら」
「アイツじゃなくて、アイツらって複数形ってコトは…、まさかもしかしなくてもアイツらか?」
「あぁ、アイツらだよ。だってさ、下駄箱に靴あるし」
相浦と並んで歩きながら、そんな会話してると自分のカオになまぬっるい笑みが浮かぶのがわかる。そんでもって、下駄箱に靴って聞いた瞬間、あぁ、やっぱバカだと遠い目になった。
誰もいない校内で盗み働くなら、靴くらい隠せよっっ!
上履き履いたりっ、フツーに登校してんじゃねぇーーっ!!
遠い目をしながらココロの中でそう叫んでると、後ろから今日の天気でも言ってるみたいな、のほほんとした声が聞こえてきた。
「相変わらずマジメだよねぇ、妙なトコで。不良なのに遅刻はあっても、欠席ナシとか」
「とかって、その妙なトコでのんきに関心してんなよっ。室田の特製ケーキがピンチなんだぞ!」
「おいしいもんね、室田のケーキ」
「ちょっとでもフォークとか歯とか立ててみろっ、この俺様が許さねぇっっ!」
「でも、もう食われちゃってるかもよ?」
・・・・・荒磯の不良こと、大塚とそのオトモダチに奪われた室田のケーキ。それは握りしめた包丁をドスとか呼んだ方がお似合いな室田が、太い指で作り上げた究極のメルヘンケーキっ!
味も上手いが、見た目もスゴイっ!!
前のケーキ会の時、手作りだという砂糖菓子で作った可愛い白ウサギが、バラを象った淡いピンクの生クリームの園に包まれたケーキの真ん中で小首をかしげているのを見た瞬間、なぜか俺は白いフリルエプロンを着た室田の幻覚を見てしまい、あまりのダメージに床に倒れ伏したっ。
おそるべし、メルヘンケーキっ!
おそるべしっ、室田っ!!
「あ、今回のは俺のリクエストで、ケーキはウェデング風になってるから」
「…って、なんで誕生日なのに、ウェディングケーキっ!?」
「せっかくの誕生日だし、お前と共同作業で、ケーキ入刀しようかと思って…」
「せっかくってなんだっていうかっ、ソレ誕生日ちがーうっ!!」
誕生日に共同作業をもくろんでいたらしい久保ちゃんと、黒猫ジッポに悩む俺っ。そして、そんな俺らを呼びに来た相浦とともに、俺達は一直線に屋上に向かった。
たぶんだけど、アイツらは屋上にいるっ。夏のクソ暑い日になんで屋上?とか思うけど、なーんかソコが一番見つかりにくいとか一つ覚えみたいに思ってる節があるんだよなぁ、アイツらっっ。
久保ちゃんもそう思ってるらしく、どこ行くんだよっとか聞いてきた相浦と違って、迷いなく同じ速度で俺と一緒に階段を登った。
「・・・アイツらが私服じゃなくて、なぜか制服着てきてるのに、今日の晩メシ当番」
「同じく俺も制服着てきてるのに、掃除当番と洗濯当番」
「同じ予想じゃ賭けになんねぇじゃんっ」
「なら、ジャンケンでもする?」
「・・・・・・・っ」
階段を登りながらの久保ちゃんとの会話で、俺はハッとして、次の瞬間にココロの中でガッツポーズをしながら叫んだっ。
よっしゃぁぁっっ、コレだああぁぁぁーーーっ!!
誕生日プレゼントだしって物にこだわってたけど、晩メシ当番かわるとかそーいうのもプレゼントのウチだよな? そん時に、ちょっち頑張ってなんか普段作らないようなモン作ってみるとかもアリかもだしっっ!
まぁ、肩たたき券とかお手伝い券とかみたいなカンジで、ちょっち小学生っぽいのは、この際目をつむろう。一緒に暮らしてるからこそなプレゼントだし…、さ…。なーんて思うと、な、なんかちょっちくすぐってぇけど…。
「あーとーはっ、ケーキを取り返すだけだっっ! てめぇらっ、観念しやがれっ!!」
無事にプレゼント問題をクリアした俺は、意気揚々とたどり着いた先にある屋上のドアをバーンと開ける。すると、そこには真っ青な空とバカと、白いウェディング風のケーキがある…、はずだった。
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