酒瓶と久保ちゃんと…、俺。 〜後編〜





 ううぅぅぅぅ〜〜〜っ、あったま痛ぇぇぇっ!!!

 目覚めた瞬間、ズキズキと痛むアタマ。
 オマケに胃までムカムカしてきて、俺は思わず口を押さえる。
 でも、それでも治らなくて寝てたベッドから、ガバッと起き上がるとトイレに向かってダッシュしたっ!
 うーー…っ、マジでサイアクっ。
 コレって二日酔いってヤツだよな、やっぱ…っっ。
 酒は飲んでも飲まれるなーって、誰が言ってたっけ?

 「うぅ…、とーぶんビールなんか飲まねぇ…ぞっ」

 トイレから出た俺は、そうココロに誓いながらキッチンでうがいをする。
 そして、ハーッと息を吐いてから、今度はゴクゴクと水を飲んだ。
 すると、気持ち悪いのが収まってきて、ちょっと落ち着いてくる。
 そーいや…、久保ちゃんって帰ってきたんだっけか?
 なんか、ビールを飲み始めて少しの間は記憶があんだけど、そこから先の記憶がプッツリ…。 
 ん〜〜…、まてよ?
 トイレに行く前、同じベッドに寝てたような気がすっけど…、アレ?
 だとすると、俺が起きたのに寝てんのは珍しいよな?
 眉間に人差し指を当てて、朝、起きた時の様子を思い浮かべる。すると、吐き気と頭痛で思わずベッドから飛び出してきちまったけど、確かに俺の横に久保ちゃんが寝てた。
 
 「まさか、具合でも悪いとか?」

 廊下に続くドアを見つめても、久保ちゃんが入ってくる気配はなくて…、
 なんか、ちょっち心配になってくる。
 様子…、見に行った方がいいよな…。
 そう思いながら、ぼんやりとなんとなくリビングを見回してみると、空き缶がたくさん転がってるし、ツマミが入ってた袋とか中身とか散らばってるし…、掃除しがいのありそうな惨状に、またアタマが痛くなった。
 誰が片付けんだよっ、コレ…っ。
 つか、俺が犯人なんだよな…、たぶんだけど…。
 そう考えると俺が片付けんのは、当たり前…だよな?
 
 「はぁあぁぁ〜…、マジであったま痛ぇぇ〜…」

 そう言って盛大にため息をついた俺は、とりあえず片付けは後にして久保ちゃんの所に行くコトにする。けど、ふと…、視界の中にあの瓶が、滝さんに貰った久保田が目に入って俺は立ち止まった。
 そーいや、結局、昨日は飲まなかったんだっけ?
 ビールばっか飲んでてさ〜…、あー、なんか損した気分っ。
 どーせ二日酔いになるなら、飲んでからなりかったぜっ。
 けど、あれってさ…、なんかフタ開いてねぇか?

 まっ、まさか…っっ!!!

 イヤな予感をカンジた俺は、久保田を置いてたテーブルに近づく。
 そしたら…っ、久保田がっっ、俺様の久保田がっ!!!
 な、なくなってる〜〜〜っ!!!!
 しかもっ、ぜんっっぶっ!!!
 どーりで、俺が起きてんのに起きねぇはずだっ!!
 さすがに酒を一人で一升も飲んだら、誰でも酔うよな?!
 っていうかっ、さっぱりしてて飲みやすいからって、一人で全部飲むなっつーのっ!!普段は酒を飲みたいとか思わねぇけど、貰ったしっ、目の前にあるし…っ、俺だって飲みた・・・・・・・・いけど…、

 ・・・・・・・・あれ、なんで飲んでねぇのに、俺、酒の味知ってんだ?

 ベッドで酔いつぶれちまってるらしい久保ちゃんに、文句言ってやろうと思ってたのに、妙なコトに気づいちまったせいで言えなくなる。
 飲んだ覚えはねぇけど、舌が記憶してる酒の味がリアルっつーか…、
 なんか、ウマかったよな…とか思ったりもして…、
 もしかして、記憶がねぇだけで俺も飲んじまってたのか?
 とか、まだ痛む頭で考えて、うーん…と唸った。
 こんなに飲んだのは初めてだけど、マジで記憶飛んでんなー…。
 ところどころ覚えてるような気ぃすっけど、全部覚えてるワケじゃねぇから、すっげ損した気分…。久保ちゃんが帰ってくるまで部屋で一人で落ち着かなくて、コンビニでビールとか買ってきて飲み始めちまったの俺だし…、
 その上、滝さんの言ったコトが気になって、なんとなーく、気づいたらむちゃ飲みしちまってたのも俺なんだけどさ…。
 やっぱ、何も覚えてねぇってのは…、イヤだ。
 そう思いながら思い出すのは、この部屋で目覚めた瞬間。
 知らない場所で知らないヤツが居てビックリしたけど、服は洗濯されてて、寝てたベッドはタバコ臭かったけど…、あったかかった。でも、その時は驚いてて、ワケわかんなくて、そんなコトを感じてる余裕なんかなかった…。
 なのに…、今頃になって…、
 あぁ…、そうだったっけって思い出したりすんのはなんでだろ…。
 久保田の空き瓶を片手に窓の外を見ると、いつの間にか辺りに薄っすらと白く雪が積もってんのが見えた。

 『・・・・・・どっか遠くへ行こうか。誰も居ない場所へ、二人で…』

 じっと…、ただじっと…、俺が外を眺めていると薄っすらと白く積もった雪のように、耳の奥に残る声がそう囁く。飲まなかったのか、飲んだのかわからない酒の味のように、俺の鼓膜を震わせたコトバは不確かだけど…、
 なぜか…、胸の奥に染み渡っていくように深く響いて…、
 無意識に伸びた指が、自分の唇を軽く撫でる…。
 すると、ほんのちょっとだけ瞳の奥が熱くなって…、
 なのに、俺はその瞬間、まるで何か楽しいコトとか、面白いコトでもあったみたいに噴出して笑い出した。
 
 「…ったく、何やってんだよ…。ウマい酒を二人で飲めんなら、ホンネ聞こうが聞くまいが、そんなのどーでもいいじゃん。今、一緒にいるなら、それで問題ねぇはずだろ?」

 気づいたら、久保ちゃんに文句を言うはずが、自分に向かって文句言ってて…、あー…、なんかすっげマヌケだなぁって思うと笑えてくる。
 噴出すように笑いだしたら、気持ち悪いのもどこかへ行って…、
 その後には、東湖畔にバイトじゃなくて物騒な買いモノに行った帰りに、通りかかった神社で、そのまま年越して二人で行った初詣とか…、
 隣を歩く久保ちゃんの吐く息の白さとか、冷たい空気とか…、
 色んなモンが鮮やかに、温かいぬくもりと一緒に脳裏に蘇ってきた。

 「なんか…、俺だけ…。今、やっと年が明けたかもしんねぇ…」

 なぜ、久保ちゃんが俺を拾ったのかなんて、どうでもいい。
 俺と居て楽しいかなんて、聞くだけヤボだろ。
 楽しいか…じゃなくて、楽しくてたまんなくさせてやるっ。
 俺がカンジてる楽しいキモチも、うれしいキモチも…、
 他にもいっぱいカンジさせてやっからっ、覚悟しろよっ!
 やっと明けた新しい年に、俺はそうココロの中で叫び…、最後によしっと片手に握り拳を作って気合いを入れる。そして、久保田の空き瓶をテーブルの上に置くと、ドスドスと歩いてリビングを出た。

 「共犯なら、共犯者らしくリビングの片付けも一緒にしなきゃだよなっ」

 犯行現場のリビングを背に廊下を歩き、寝室のドアを開ける。
 すると、久保ちゃんが珍しく布団を被って寝てた。
 さてはっ、やっぱ二日酔いだなっ。
 キラリーンと目を光らせた俺は、久保ちゃんが被っている布団の端を両手で握りしめる。けど、すぐには握りしめた手を引かずに、そっと…、盛り上がっている布団の上に自分の額を押し付けた。

 「どっかとか、誰もいない場所なんて言うなよ…。誰かいる場所だから俺らだっているし、だから会えたんだろ…、きっと…」

 誰もいない場所には…、俺らだっていない。
 それはコトバの理屈じゃなくて、感覚的なモノ。
 誰もいない場所で二人きりでいるよりも、誰もいない場所で二人出会うよりも…、誰かがいる場所で二人きりで、誰もがいる場所で出会うコトの方が何十倍も何百倍も、スゴイ事のような気がする。
 そして、すっげぇ…、うれしいコトのような気がする…。
 だから、俺は耳に残る声に答えるようにそう言ってから、くっつけてた額を離すと思い切り布団を握りしめた手を引いた。
 「起きろー、酔っ払いっ! 今日は初詣じゃなくて、おっさんのトコに新年のアイサツってヤツに行くぞっ」
 「・・・・・・・・・」
 「くーぼーちゃんっ」
 「・・・・・・・・・・おやすみ」
 「…ってっ、起きた瞬間に寝るなぁ〜っ!」
 「ぐ〜〜…」
 「くそっっ、しぶといっ!!」
 昨日の滝さんを見習って、葛西のおっさんのトコにアイサツに行こうとしてる俺様をムシして寝るとはいい度胸だっ!くそっ、こうなったら意地でも叩き起こして、新年のアイサツとリビングの掃除をさせてやるっっ!!
 そう思いながら、俺が引っ張ってる布団をグルグルと身体に巻きつけて、寝たフリを続けながら抵抗を続ける久保ちゃんをジロリと睨む。すると、久保ちゃんは薄っすらと閉じてた目を開けると、布団を掴んだ俺の手をぐいっと自分の方へと引っ張った。
 「なっ、なにすんだよっ!」
 「ふぁ〜…」
 「って、ヒトを拘束しといてアクビすんなっ!」
 「布団あげるから、一緒に寝ない?」
 「いらねーーっつかっ、俺のカラダに布団を巻くんじゃねぇっ!」
 「じゃ、俺が布団の代わりに拘束してあげよっか?」
 「拘束されんのは、俺じゃなくて久保田をぜんっっぶ飲みやがった久保ちゃんの方だろっ! 神妙にお縄を頂戴しやがれっ!」
 久保ちゃんに布団でグルグル巻きにされた状態で、俺がそう怒鳴る。そしたら、久保ちゃんはふぁ〜っと二度目のアクビをしながら、ほっそい眠そうな目で俺をじーっと見た。
 「アレ、寝ぼけて冷蔵庫に入ってるポカリと間違えて、久保田をラッパ飲みした上、いきなり倒れたの覚えてないの? 痙攣とか起こしてなかったから、中毒にはならなかったみたいだけど?」
 「だーれがっ、そんなウソに引っかか…っ」
 「朝、起きた時、気持ち悪くなったりしなかった? アレだけ飲めば、トイレで吐いちゃったりとかするかも?」
 「〜〜〜〜っ」
 「あ、図星?」
 「くそぉっ、今年は禁酒だっ!!ぜっったいに酒飲まねぇーっ!! 特に久保田なんか飲むもんかーっ!!」
 「ふーん、それは残念。 飲みやすくてウマかったから、今度買ってみようかと思ってたんだけどなぁ」
 「へっ?」
 「とゆーワケで、俺が飲む時、お前はウーロン茶ね」
 「う…っ、いや…っ、今のはナシでっ! ちょっとだけなら…っ!」
 「ふーん…」
 「な、なんだよ?! なにがおかしんだよっ!!」
 「ん〜、別に?」

 「わ、笑うなぁーーっ!!!!」

 久保ちゃんが俺を拘束したままで、肩を震わせて笑う。
 そして、それを俺が更にきつく睨みつける。すると、睨みつける俺と笑う久保ちゃんの視線が、思ったよりも近くでぶつかって…、
 なぜか…、鼓動が一つ大きく跳ねた…。
 ・・・・・・ドクン。
 睨みつけてたはずの目が大きく開いて、全身が硬直する。
 薄っすらとした記憶の中で、俺は久保ちゃんと…、
 でも、そんなコト…、あるはずねぇよ…な…。
 けど…、久保田の味と一緒に柔らかい感触も覚えてるような気が…、

 コレは夢…、それとも・・・・・・・。
 
 俺が硬直したままで、そんな風に考えてると、久保ちゃんが細い目を更に細めて苦笑しながら、巻きつけた布団ごと俺を抱きしめる。そして、耳の奥に残る声と同じ声で…、そっと静かに俺の耳に囁いた。

 「・・・・・・おやすみ」

 起きたばっかだから…、眠くない…。
 そのはずだったんだけど、静かに囁く久保ちゃんの声を聞いてると…、なぜか次第にゆっくりと眠気が襲ってきてアクビが出てくる。アクビが出て…、まだ完全に酒が抜けきってねぇのか、カラダまで重くなってきた。
 「くぼちゃん…」
 「ん?」
 「もっかい寝て起きたら…、言いたいコトあるんだ…」
 「うん」
 「だから、俺が起きるまでソコにいろよ…。絶対だかんな…」
 「・・・・・うん」

 「指切りゲンマン…、ウソついたら・・・・・・・・・」

 新しくなった年…、初めての指切り…。
 ウソついたらハリセンボン…じゃなくて、久保田ひゃっぽんって言って笑いながら、そして小さく笑う久保ちゃんの声を聞きながら…、俺は指切りの小指を久保ちゃんの小指に絡めたまま…、ゆっくりと目を閉じた。



 (〃・ω・〃)ノ~☆・゚+。*゚・.+´あけおめ*ことよろ`+.・*´゚+・。*☆

 やっとっっ、やっとお正月のお話を書き終える事が、
 できましたですっ!!!!(/_<。)
 もうっ、12日なのに〜〜〜(涙)
 でもでも、書き終える事が出来てバンザイですvvvv
 あ、相変わらずでこんなな私なのですが、
 今年もよろしくお願い致しますです<(_ _)>vvv
 余談なのですが、前編と中編はっ、
 実際に久保田を飲みながら書きました(〃∇〃) vv
 とってもおいしかったです〜〜vvvv愛味vv←おいっ。

 このお話はRさんとYさんにvvvv
 ラブを込めて捧げさせてくださいですっっvvvv←勝手に押し付け(汗)
 (*^^)/。・:*:・°★,。・:*:・°愛vvvv

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