君を想うキモチをココロで語ろう.1




 人生の最大のイベントはなんだろうと考えた時、女の子ならば結婚式と答えるかもしれない。
 けれど、やはりその最大のイベントが終わったあとも、ちゃんとその先に道が続いていて、その先にも人生がある。
 たとえどんな道が目の前にあったとしても、一緒に手をつないで歩くことを約束したならば、それは守られるべきなのかもしれない。けれど、約束を守るということはかなり難しいのである。
 浮気して、ケンカして、別居して、離婚。
 こういうありがちな図式は、何もテレビドラマの中だけじゃない。
 だが、この生徒会室の中で今日も片時もお互いから離れようともしない二人には、無縁の出来事なのかもしれなかった。
 久保田誠人と時任稔。
 この二人は高校生で男同士でありながら、この度めでたく結婚を果たしたカップルである。
 挙式後は一週間学校を休んでいたが、今日から復学してきていた。
 夫婦別姓ということで二人とも呼び名は変わっていないが、二人の間の空気は前と違ってどうしようもなく甘ったるい。そんな胸焼けしそうな空気に当てられながら、桂木は書類整理を黙々とこなしていた。
 いちいち気にしていては、仕事が進まないからである。
 だが他の執行部の面々はやはりそんな二人が気になるらしく、チラチラと二人の方へと視線を向けたりしていた。
 「授業中、寝ちまったんだよなぁ…。一週間休んでたし、マジで今度の試験ヤバイかも」
 桂木を除いた執行部員達が見守る中、本当にかなり眠そうな顔で時任がそう言うと、すぐ近くにいた久保田がそんな時任を見てゆっくりと微笑む。すると時任の顔がみるみる間にボッと赤くなった。
 「一週間くらい、昼とか夜とかわかんない生活してたからねぇ」
 「バ、バカっ、こんなトコで何言ってんだよっ」
 「別にヘンなこと言ってないでしょ?」
 「で、でもさ、なんか意味深なカンジするし」
 「意味深でいいんじゃないの? 俺らってもう結婚しちゃってるんだしね」
 「けど、やっぱさ…」
 「なに?ちゃんとこっち向いて言わなきゃ聞こえないよ?」
 久保田も時任もここが生徒会室だということを忘れてはいないと思われるが、これ以上ないというくらい優しい眼差しでお互いを見つめている。久保田に聞こえないと言われてしまった時任は、久保田の耳にそっと顔を近づけると、小声で何かをその耳に囁いた。
 「・・・・・・・だってのっ」
 「なんで?」
 「・・・・・・・・」
 「ダメ、却下」
 「けど…」
 ナイショ話をしている二人から時々聞こえる声が気になって仕方ない。
 ひそひそ話をしていると、なぜか普通に会話をしている時より何倍も甘いというよりエッチくさく聞こえる。
 その二人の空気に絶えられなくなった部員達の顔も、なぜか次第に熱に犯されていくように赤くなっているのを見た桂木は、バンッと机を力一杯叩いた。
 「いいかげんにしなさいよっ!!」
 そう怒鳴った桂木の眉間には、深い皺が刻まれている。
 その怒声を聞いた執行部員達は、ハッとしてやっと我に返った。
 実は、さっき桂木が怒鳴りつけた相手は、今日は珍しく時任ではなく久保田だったのである。
 桂木に怒鳴られた久保田は、平然とした顔で桂木の方へ視線を向けた。
 「なに怒ってんの?桂木ちゃん?」
 「…なにって、アンタねぇ。わかってやってんでしょ?」
 「さぁ、どうでしょ?」
 「イチャイチャするのは家だけにしなさいよ。みんなに迷惑でしょっ」
 「そんなつもりないんだけどなぁ」
 飄々としてそう言った久保田に、桂木は深くため息をつく。
 外見や表情の変化のなさにうっかり見落としそうになるが、久保田は時任に関してだけは平静ではいられないという一面を持っている。そんな一面を垣間見たことがある桂木は、二人の事に関してはあまり深く突っ込めなかった。
 「…まぁ、一応新婚だしね。大目に見てあげるわ」
 「お気遣いどうも」
 お互いに作った微笑みを浮かべつつ桂木と久保田が会話を終了すると、時任がちよっと久保田から離れる。どうやら、桂木の言葉が気になったらしかった。
 実はさっきの会話も、学校では抱きしめたりキスしたりは禁止というモノだったのである。
 「やっぱ学校では禁止だかんなっ」
 時任が人差し指を突きつけてそう言うと、久保田は小さく息を吐いた。
 久保田がなんと言おうとも、時任が一度決めたことを変えたりしないことを知っていたからである。つまり、時任が禁止と言ったら、本当に禁止なのだった。
 「手はつないでもいい?」
 「ダメに決まってんだろっ」
 「…それって前と同じなんじゃないかなぁ、なんて思ったりするんだケド?」
 「同じでいいじゃんっ、別に」
 前と同じでいいときっぱりと言われた久保田は、セッタに火をつけながら目を細める。
 けれど時任はそんな久保田に構わず、ぐっと拳を握りしめた。
 「ケジメってのは必要だよなっ」
 そんな風に言ったが、実は時任はみんなの前で久保田にイカれてる自分を見られたくなかっただけなのである。さっきは一週間も家で二人きりでいたため、ちょっと感覚が麻痺していたが、やはり結婚したとは言え時任は時任なので、人前でイチャイチャすることに耐えられるはずなどなかった。
 「巡回に行こうぜっ、久保ちゃん」
 「はいはい」
 今日が結婚後初めての公務となる二人は、いつものようにそろって生徒会室を出ようとする。
 だが部屋から出ようとした瞬間、桂木が久保田を呼び止めた。
 「久保田君っ」
 「なに?桂木ちゃん」
 久保田はちょうどドアの所で振り返らずに桂木に返事をする。
 すると桂木は、今日二人が登校してきてからずっと気になっていたことを聞いた。
 「ちょっと聞いてみたかったんだけど、アンタ達ってホントに新婚旅行とか行かなかったの?」
 「行ってないけど?」
 「じゃあ、なんで一週間も休んだのよ」
 「あ〜、それはねぇ」
 「それは?」
 「自分の限界に挑戦してみたかったから」
 「限界?」
 「それはね」
 「…やっぱり言わなくていいわ」
 「そう?」
 久保田は軽く肩をすくめると、時任の後を追って生徒会室出て行く。
 桂木は久保田を見送ると、首を軽くふってため息をつくと、再び書類へと目を落とした。
 書類にペンを走らせながら、桂木は久保田の時任に対する独占欲は結婚前よりも、結婚後の方が強くなったと感じていた。
 


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