ダブルキャスト.20
目の前で沈んでく、夕日が赤い…。
でも、あの時に見た夕日ほどは赤くなかった。
俺が今いるのは保健室で、あれから二日はたってる。けど、まだあの日のコトが…、あの赤く染まる終っていく世界で見た風景が脳裏から離れなかった。
保健室にいるのは、時任に起こったコトを知ってる五十嵐センセイに事後報告するためだけど、なぜか頬に時任の拳を食らった橘もいる。橘は頬に湿布を貼ってもらいながら、センセイと一緒に何も言わずに俺の報告を聞いていた。
でも二人にした報告は簡単すぎるくらい簡単で、夕日も俺の見たコトも話してない。話したのは歪んだ空間の中で時任は元に戻って…、二人で戻ってきたというコトだけ…。
すると、五十嵐センセイが不服そうなカオして俺を問い詰めてきた。
「ねぇ、ホントは久保田君が時任を元に戻したんじゃないの?」
「いんや、俺はなーんにもしてないけど?」
「ホントに?」
「ホント」
「ウソばっかりっ」
「ウソじゃないよ。だって何かシタのは俺じゃなくて、そこにいる副会長サンだし? その証拠に頬にアザあるでしょ?」
「まぁ、そう言われればそうね」
そう言った五十嵐センセイに頬に湿布を貼ってもらった橘は、らしくなく苦笑してため息をつく。そして、時任に殴られた頬を貼られた湿布の上から軽く撫でた。
その様子はやっぱりらしくなかったけど、別に橘と松本の間に何があったのか興味は無い。でも、五十嵐センセイはやっぱ興味あるみたいで、苦笑した橘のカオを楽しそうに横から覗き込んだ。
「で、らしくなく下手な芝居までして、時任にちょっかい出した理由ってなんなの?」
「そう言われると…、さすがに耳と殴られた頬が痛いですね。会長に頼まれた事とはいえ…、やり方がマズかったと反省してますよ」
「けど、それだけ時任を元に戻したかったって事でしょう? それはなぜ? ホントに松本君に頼まれたってだけなの?」
「・・・・・・」
「黙ってないで、さっさと吐けば楽になるわよ〜」
「ふふふ…、まるで尋問ですね?」
「カウンセリングと言ってちょーだいっ」
「なるほど、そう言えばココは保健室でしたね…」
「だったら、俺はそろそろ…」
「いえ、せっかくだから久保田君も聞いてってくれませんか? 今の時間にココにいると言う事は、見回り当番もないようですし?」
橘はそう言うと、なぜか俺に向かって微笑んでからワケを話し始める。
その話によると…、どうやら階段にいた斉藤って幽霊は松本の古い知り合いで、
しかも本人は認めてないみたいだけど、初恋の相手ってヤツだったらしい。
そのせいで松本は橘と付き合うようになってからも、週に三回は夜の学校に斉藤に会いに来ていたと…、そこまで話すと橘はらしくなくため息をついた。
「相手はすでにこの世の人ではないとわかってはいたのですが、やはり恋人としては気が気ではありません…。しかも、相手が初恋の人とならばなおさらですよ」
「でも、それと時任君を元に戻す事が関係あるの?」
「それは会長に頼まれる前に、彼と約束したからです」
「約束?」
「時任君を元に戻す事ができたら…、あの場所から消えると…。もう二度と会長とは会わないと約束したんです」
「それで、あんなマネを?」
「えぇ、そうです。僕は時任君に自分の抱いている想いが同居人や相方の枠に収まらない事を、それが恋愛感情だという事をてっとり早く気づかせるために時任君を襲って…、それを久保田君に見せるつもりでした…。もっとも、途中で久保田君が来たので失敗しましたが…」
ふーん…、聞きづてならないなぁ…。
始めは橘の話に興味なかったけど、聞いているウチに興味が湧いてくる。
後で時任に確認した時もキスだけって言ってたけど、橘の話からするともう少し遅かったらヤっちゃってたかもしれないってコトね…、へぇー…。
でも、話してる口調で時任を襲うつもりだったのがホンキでホントだってのもわかるけど、失敗した話をわざわざ俺を引き止めてまで聞かせてるワケもわかる。つまり橘は時任に殴られただけじゃ気がすまなくて、手当てじゃなく俺に殴られるために保健室に来た。
だから、わざと俺を怒らせるような話をしてる。
正直なトコ、してる話には興味はあっても殴られたいヤツを殴るほどヒマじゃないし…、
うーん…、迷惑だなぁ…。
俺はココロの中でそうグチると殴られたがってる橘に向かって、手じゃなくて言葉を殴るように投げつけた。
「自覚のない相手に気づかせるための手段がゴウカン〜ってコトは…、つまり自分をノン気だと思ってた松本はお宅にゴウカンされちゃったってワケね」
「・・・・・・っ!」
「あ、痛そうなカオ」
「もしかして…、会長から聞いたんですか?」
「いんや、ただの予測だけど? 図星?」
「・・・・・」
「ふーん、だったら今がどうでも始まりが始まりだし、初恋の相手に取られる心配しなきゃだよねぇ?」
「・・・・・・前々から思ってましたけど、貴方ってサドですね」
「お宅ほどじゃないけど?」
「・・・・今はそういうコトにして置きますよ」
「そう?」
「それに僕は感謝してるんです…。貴方と時任君のおかげで僕は自分の醜い嫉妬心で…、あのヒトの大切なヒトを哀しいままで…、寂しいままで消さなくて済みましたから…」
そう言った橘はまだ何か言おうとして口を開いたけど、その口から言葉が出る前に保健室にドアが勢い良く開かれる。そして開かれたドアから、俺と自分の分のカバンを持った時任がひょっこりとカオを覗かせた。
「こんなトコでいつまで油売ってんだよっ、久保ちゃんっ。今日は帰りにスーパーのタイムサービスに行く予定だったろっ」
「あー…、そう言えばそうだったかも?」
「…って、朝あんなに言ったのに忘れてんなよっ! とっとと帰るぞっ!!」
「はいはい」
時任はそう言いながら、いつもの調子で五十嵐センセイにあっかんべーをする。すると五十嵐センセイもいつもの調子で、俺の腕に手をからめて時任に応戦しようとしたけど…、
俺はからめようとした五十嵐センセイの手を、自分の意思で避けた。
すると俺の腕を掴みそこなった五十嵐センセイは、少しカラダのバランスを崩してガクッと前のめりになる。けど、それを見て一番驚いたカオしてたのは、避けられた五十嵐センセイじゃなくて時任だった…。
「久保ちゃん…、なんで…っ」
「…って、それはアタシのセリフでしょうっ!!!」
「うっせぇっ、何を言おうと俺の勝手だろっ!!」
「ぬぁあぁんですってぇぇっ!!」
時任と五十嵐センセイは、そう言って睨み合う。けど、俺はそんな二人の視線をさえぎるように時任に近づくと、時任の持ってるカバンを二つとも取った。
そして、二人分のカバンを持って肩に左腕を回すと、そのまま呆然としている時任をエスコートするカンジで歩き出す。でも、三歩も歩かないウチに前方から万年補欠の藤原が走ってきて…、俺は少し立ち止まってその攻撃?を避けた。
「悪いけど、俺ってコイビト持ちなんで…」
俺がそう言ってヒラヒラと手を振ると、背後から叫び声と呻き声が響いてくる。
けど、俺は振り返らずに時任の肩を抱いて歩き始めた。
スーパーのタイムサービスに、食糧を確保しに行くために…。
するとなぜか耳まで真っ赤になった時任が、肩を抱いた俺の手を振り払う。
そしてフルフルと拳を震わせながら、俺の手から自分のカバンを奪い返した。
「お、オカマ校医とか万年補欠に…っ、なにハズいコト言ってんだよっ!!!」
「でも、事実デショ?」
「けどっ、なんでいきなりあんなになってんだっ!!」
「あんなって?」
「・・・・・・うっ」
「う?」
「あー…っっ、もういいっ!!! とっととスーパーに行くぞっ!!」
ますます真っ赤になった時任は玄関で靴を履きかえると、怒ったような顔でドスドスと歩き出す。だから俺も一緒に歩き出したけど…、途中でなんとなく校舎を振り返った。
すると、あの日…、月明かりが差し込んでいた窓の辺りに三文字センセイらしきヒトがいるのが見える。でも、なんとなく三文字センセイだってわかるだけで、その表情まではわからなかった…。
「もう一つの世界…、か…」
夕日の色に満ちた世界と…、何もない暗い世界…。
その二つを思い出しながら、俺は校舎に背を向けて再び歩き出す。
そして、あの世界とは違う…、
けれど、赤い夕日に長く長く伸びた時任の影を見つめてから、その影を踏みように歩いて時任の隣に並んだ。あの夕日のある場所まで…、一緒に歩いて逝くように…。
すると、そんな俺の腕を横か伸びてきた時任の手が引っ張った。
「行くぞっ、久保ちゃん…っ」
そう言った時任は俺と同じ世界に、この夕日の中にいて…、
けれど、時任は逝くのじゃなくて、行くように俺の手を引く…。
ベランダから落ちるのじゃなく、飛んだ時のように…、
そうやって時任に手を引かれながら見た夕日は…、やっぱりあの世界の夕焼けとは違っていたけど…、
それでも・・・・・・、ずっとこの中を歩いて行きたくなるほど綺麗で暖かかった…。
完結しました…っ。
完結する事ができましたですっっっ(ノ◇≦。) vv
うわーんっ、うれしくて涙が出そうですっっ(泣)
説明が足りなかったり…、色々と反省はたくさんなのですが…、
それでも今の私の精一杯で感謝の気持ちを…っ、
たくさん気持ちを込めて書きました…っっっ。
素敵なリクをしてくださってvvvv
お話を書かせてくださって本当にありがとうございますっ<(_ _)>vv
書かせて頂けて幸せです〜vvvv
心から深く深くお礼申し上げますですっっ!!!!(号泣)
(。TωT)ノ☆・゜:*:了└|力"├vvvv
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【第一話コメント】
やっと…、始まりました企画…(/□≦、)
ずっと、ずーーっと気になっていながらも、今まで始められないでいました。
あまりの事に、もう本当にお詫びのしようもありません…。
本当に深く反省しています…、ごめんなさいです…(号泣)
きっと、少しずつちょっとずつ進んでいく連載になると思いますですが、
企画に参加してくださった皆様に、感謝を込めて頑張りたいですvvvvo(TωT
)
来てくださった皆様がいてくださったからこそ、こんなに長く…、
こんなにほんやりとした気持ちでvv私はここにいるコトができましたのです…vv
多謝vv<(_ _)>
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