Probability 〜見込み〜 後編




 マンションから出て…、二日目…。

 朝から空は曇ってて、今にでも雨が降り出しそうな天気。
 でも、俺は行く場所も行く当てもなく、公園に一人でいた。
 本当は滝さんがアパートにいてもいいって言ってくれてたけど、久保ちゃんが警察に捕まってた時と違って落ち着かない。それは自分からマンションを出てきたはずなのに、帰りたいと思っている自分の気持ちに気づいていたせいだった…。
 サヨナラしたくてしたんじゃない。
 二度と会いたくないから、マンションを出てきたんじゃない。
 けれど、あの日から久保ちゃんのコートの端を掴みそこねて下へと落ちたまま…、俺の右手は行く先を失っていた。

 「なんで、こんなになっちまってんだろ…。あの時はこんな風になるなんて、ちっとも想ってなかったのに…」

 そんな風に呟いてみても、誰からも返事はかえって来ない。
 一人きりだから、それは当たり前で…、
 ぼんやりと見上げた空に、小さくため息をつく…。
 こんなのは俺らしくないし、そんなのは言われなくてもわかってるけど、なぜかどうしても元に戻れない。何があっても絶対にって、あの時は想ってて必死に久保ちゃんを…、いつもと変わらない日ってヤツを取り戻そうとしてたのに、結局、俺のせいで事件が起こる前には戻らなかった。

 俺だけが…、戻れなかった…。

 一人きりじゃなくて、二人でいるために頑張ったのに…、
 拘置所に久保ちゃんを迎えに行った時、早く出て来ないかなぁって…、
 すごくうれしい気持ちでドキドキしながら、帰ったら晩メシは何にしようかなぁっとかって考えて…、やっと帰れるって想ったのに…、
 その気持ちが大きければ大きいほど、まるで釘を刺すみたいに耳に残る久保ちゃんの声が響いてくる。それは時々、見るイヤな夢にも似てて、右手が痛むたびに大きくなってくような気がした。
 大きくなって耳から離れなくなって苦しくなる。
 苦しくなって息ができなくなって、伸ばした右手は久保ちゃんに届かなくなった。

 「俺は俺で久保ちゃんは久保ちゃんだけどさ。すぐに離される手を握りしめてんのは…、なんか…、胸が痛ぇんだよ…」

 誰に言うでもなく、そう言って右手をぎゅっと握りしめる。すると、ポツポツと雨が空から落ちてきて、俺は雨宿りする場所を探して走り出した。
 久保ちゃんのいるマンションじゃなく…、別のどこかを探して…。
 俺は俺で久保ちゃんは久保ちゃんだから、わかるコトもわからないコトもある。
 それは当然だけど…、わからなくても信じたいコトはある…。
 俺が久保ちゃんと一緒にいたいって想っているように、久保ちゃんも俺と一緒にいたいって…、そう想ってくれてるコト…。なのに、警察に捕まった時に久保ちゃんがしたのは…、俺の手を離すコトだった気がした。
 ・・・・・いつでもサヨナラできるように。
 何があっても握りしめてたい手なのに、何かあればすぐに手を離されて何も知らないままで何も知らされないままで…、
 それは事件が終った今でも変わらない…、何も変わってない…。

 だから…、だから俺は・・・・・、

 そんな風に久保ちゃんのコトを考えながら走って…、走って…、
 ふと気づくと、いつの間にかヤブ医者のいる東湖畔の近くまで来ていた。
 こんなトコに来た理由で心当たりがあるといえば、走っている最中に久保ちゃんがバイトは当分、店番くらいしかできないって言ってたのを思い出したコト。でも、久保ちゃんに会うつもりはないし、ヤブ医者の所で雨宿りする気なんかない…。
 だから俺は少しだけ立ち止まって…、東湖畔を眺めて…、
 それから、また走り始める…。
 けれど、そんな俺を呼び止める声が背後からした。

 「そこまで来たのなら、雨が止むまでウチに来ませんか?」

 俺に向かってそう言ったのは久保ちゃんじゃなく…、ヤブ医者。
 どこかに買いものにでも行っていたのか、手にカサと紙袋を持っている。
 だから、今、ヤブ医者いない東湖畔には久保ちゃんがいるに違いなかった。
 元々、行くつもりなんかねぇけど、久保ちゃんがいるなら絶対に行かない。
 なのに、呼び止められて立ち止まったまま足が動かなかった…。
 あんな書置きして…、マンションを出てきたのに…。
 すると、ヤブ医者はアヤシイ微笑みを浮かべながら俺にカサを差しかけると、さっき俺が見ていた方向に視線を向けた。
 「久保田君なら…、今日は来てませんよ」
 「え?」
 「出かけてる間の店番をお願いしましたが、用事があると断られました。久保田君がバイトを断る事は、そうそうないんですが…」
 「・・・・・・・・」

 「何か…、久保田君の用事に心当たりがありますか? 時任君」

 何もかも知ってるみたいな顔をして、ヤブ医者がそう言う…。
 けど、俺は何も答えなかった。
 知らないから、答えられなかった…。
 すると、ヤブ医者は持っていた紙袋を俺に向かって差し出す。
 そして、久保ちゃんじゃなく俺にバイトの話を持ちかけてきた。
 「これは運ぶものではなく、店の商品の入った袋です。すいませんが、これをもって店まで行ってくれませんか、その後は店番をお願いします」
 「って、なんで俺がっ!」
 「貴方にバイトをお願いしてるだけですよ。何か事情があって来られなかった久保田君の代わりに…」
 「久保ちゃんの代わり・・・・・」
 「イヤですか?」
 「・・・・・・・ちゃんとバイト代は出るんだろうな?」
 「ええ、もちろんです」
 上手く…、ヤブ医者に乗せられたような気がする。
 けど、久保ちゃんが来なかったって聞いたら、なぜか断れなかった…。
 ヤブ医者からしぶしぶ紙袋を受け取って東湖畔に行くと、ホントに久保ちゃんは来てなくて、店のドアには臨時休業の札がかかってる。そのコトにホッとしながら…、けれど少しガッカリしたような複雑な気分で店の中に入ると、ヤブ医者は俺に頭を拭くためのタオルを渡してお茶を入れ始めた。
 「店番って、確かエプロンとかしなきゃなんなかったんだよな?」
 「ええ…。ですが、まずはお茶を飲んで身体を温めてからにしてください」
 「確かに雨にはちょっち濡れたけど、別に拭けばヘーキだっつーのっ」
 「そう言わずに、まずはそこに座って…。貴方に風邪を引かせたら、久保田君に怒られますから」
 「別に俺が風邪引いたって…、久保ちゃんには関係ねぇだろ…」
 思わず低くなった自分の声に、ちょっと驚いて肩が揺れる。そして自分で言った関係ないって言葉に、心臓の鼓動が一つだけ大きく跳ねた…。
 ・・・・・・・関係ない。
 その一言が胸に引っかかる。
 今はもう…、ホントに関係ないのに…。
 久保ちゃんの言葉が、久保ちゃんのコトばかりが胸に引っかかって取れない。もらったケータイだって破壊してゴミ箱に捨てたのに、俺の右手はまだ何かを掴みたがってるみたいに…、頭を拭いたタオルを無意識にぎゅっと強く握りしめていた。
 
 「俺は俺で、久保ちゃんは久保ちゃんだ…」
 
 そんな当たり前のコトを言って、持ってた袋をカウンターの上に置く。そして、強く握りしめたタオルで頭を適当に拭くと、出されたお茶を飲まずにエプロンを探した。
 関係ないなんて言っちまった、久保ちゃんの代わりにバイトするために…。
 すると、ヤブ医者はエプロンの在りかを指差してから、自分で入れたお茶を飲む。そして、何かを思い出そうとしてるみたいに、いつも俺と久保ちゃんが来た時に座ってるイスを目を細めながら眺めた。
 「こうして貴方と二人でいると、あの日の事を思い出します…」
 「あの日?」
 「久保田君が眠ったまま起きない貴方を見てやって欲しいと、私に依頼に来た日の事です。その時も少し驚きましたが、同居していると聞いた時はもっと驚きました」
 「…って、なんでそんなコトで驚くんだよ?」
 「それは貴方と出会う前の久保田君を…、私が知っているからですよ」
 そう言って…、いつもと少し違う微笑みを浮かべたヤブ医者は、エプロンをつけてハタキを持った俺を見る。だから、俺はムッとした表情でそっぽを向いた。
 確かにヤブ医者の方が、俺よりも久保ちゃんと付き合い長いし…、
 だから俺の知らないコトとか知ってんのも当然だけど、改めてそう言われると胸の奥がチリチリと焼け付くようなカンジがした。マンションを出る前は一緒に暮らしてて…、その時はもうずっと前からこんな風に一緒にいた気がしてたけど…、
 ホントはその長さは目の前にいるヤブ医者にも、それよりもっと長い葛西のおっさんにも敵わない。もしかしたら、誰にも敵わないのかもしれない…。
 そう想うと…、久保ちゃんに言われた言葉がもっと重く苦しくなった。
 関係なんかなくても久保ちゃんがあの場所から連れて帰ってくれた事実がちゃんとあるのに、右手を見つめるたびになぜか胸が痛くて、そんなことばかりを考える。こんなのはらしくないって自分でもわかってるのに、考え出すと止まらなかった。
 事件の後からヘンなのは久保ちゃんじゃなくて…、俺…。
 なのに、あれからケータイを切られた瞬間に、放された右手が痛くて…、
 痛みが止まらなくて、右手を抱えたままうずくまっていた。

 「俺がいなくなったらって、今まで考えたコトなかったけどさ。俺がいなくなったら会う前に戻るって…、久保ちゃんにとってはそれだけのコトなのかもな…」

 誰に言うでもなく、そう呟いて黒い皮手袋のはまった右手を目の前にかざす。
 すると、胸の痛みもなにもかも…、そこから生まれてくるような気がした…。
 俺は久保ちゃんと一緒にいたいけど…、
 何があっても、どんなコトが起こっても一緒にいたいけど…。
 握りしめた手の力が違うように、そのキモチの強さも違うから…、
 俺のキモチはコートの端を握りしめようとして下へと落ちた右手のように、すれ違って届かない。そう想って俺がマンションを出た事をヤブ医者に言おうとすると、ヤブ医者はカウンターの上に置いた紙袋を俺の方に差し出した。
 「本当に…、そう思うんですか?」
 そう言いながら差し出された紙袋を俺が受け取ろうとすると、何者かが店のドアを開けて入ってくる音がする。だから俺はバイトで店番してるのに、反射的にしゃがみ込んでカウンターの中に隠れた。
 「…て、これじゃあ店番の意味ねぇじゃん…っ」
 反射的な自分の行動に、自分で突っ込みをいれて…、
 けれど、カウンターから出ずに聞こえてきた声にカラダを緊張させる。バイトを断ったって聞いたから絶対に来ないと思ってたのに、その声は間違いなく久保ちゃんの声だった。

 「少し前に電話で話した通りで、バイトをしに来たワケじゃないんですけどね」
 「…という事は、別件で何か用事があって来たというワケですか?」
 「来たのはただのカンだけど…。ま、そんなトコです」
 「では、立ち話もなんですから、とりあえずお茶でもどうぞ…」
 
 ちょっと待て…っ、ジョーダンだろっ!?
 カウンターに隠れたまま、俺は心の中でそう叫ぶ。何も言わなくても隠れた俺を見て状況を察してくれてるのか、久保ちゃんに何も言わないでいてくれたのは助かったけど…、お茶を飲みながら長話ってのはちょっとカンベン…っ。
 …と、俺が思ってるといつもより少し低い久保ちゃんの声が聞こえてきた。

 「立ち話じゃなく座って話すのはいいけど、俺の前に来た客との話はもう終った?」
 「前の客?」
 「このお茶を入れたのって、俺が来る前でしょ?」
 「なぜ、そう思うんです?」
 「鵠さんが入れるお茶にしては、若干ぬるいんで…」
 「湯飲みを触っただけで、そんな微妙な温度差がわかるとはさすがですね。ですが、このお茶は貴方が来るような気がしたので、私のお茶と一緒に入れていただけですよ」
 「副業で預言者でも始めたとか?」
 「まぁ、そんな所です」

 いけしゃあしゃあとヤブ医者がそう言うと、久保ちゃんが「ふーん」といつもの口調で言う。久保ちゃんとヤブ医者がどんなカオして話してんのか、カウンターに隠れてる俺からは見えねぇけど、なんか空気が緊張してるっていうか淀んでるカンジ…。
 キツネとタヌキの化かし合いみたいな二人の会話を聞いてると、なんかスッキリしねぇっつーかっ、もっとスキッとズバッとわかりやすく言いやがれと怒鳴りたくなる。けど、それを押さえて俺はカウンターの中に隠れ続けていた。
 そして、久保ちゃんが帰るのを待っていた…。
 でも、それから二人は警察の動きはどうとか、そんな話をし始めちまって久保ちゃんは用事があってココに来たはずなのに、それらしい話は何もしなかった。まるで、世間話をしに来たみたいに二人の会話が続いて…、その会話を聞きながら俺はカウンターにうずくまって隠れ続ける。
 俺を探してもいない久保ちゃんが来たって隠れる必要なんか、ホントはないのに…。
 それに気づくとなんか俺ばっか…、一緒にいたいって想ってて…
 ずっと、久保ちゃんと一緒にいたいって想ってたんだって気がしてきて…、
 マンションを出てきたのは俺の方なのに、なんか…、視界がぼやけそうになる。
 だから、ぼやけるのを治すために右手でゴシゴシと目をこすってると、また二人の会話が聞こえてきた。

 「ねぇ、鵠さん」
 「なんです?」
 「副業で預言者始めたなら、ちょっと聞きたいコトあるんですけど?」
 「それは意外ですね。神を信じない貴方でも、予言は信じるんですか?」
 「カミサマを信じない…、なーんて俺言ったコトありましたっけ?」
 「いいえ…。でも、違ってはいないでしょう」
 「空にいるっていうカミサマならね」
 「では、貴方のカミサマはどこに?」
 「・・・・さぁ? で、予言の方はしてくれるの?」
 「えぇ、もちろんです。今日、開業したばかりなので無料でしてさしあげますよ」
 
 カミサマ…、予言…。
 副業で予言者なんてウソだと思ってたけど、ヤブ医者はマジで予言する気みたいで久保ちゃんにそう答える。でも久保ちゃんが予言なんて…、らしくねぇ気がした。
 ヤブ医者がした予言なんて絶対に当たらねぇし、なのに聞いたりすんのは何か意味があるからなのかどうなのか俺にはわからない。けど、久保ちゃんがヤブ医者に言った予言して欲しい内容を聞いて・・・・、俺は・・・・、
 いつの間にか俯いてしまってたカオを上げた…。

 「・・・・ウチの猫が帰ってくるかどうか予言してくれる?」

 ウチの猫…。
 そう久保ちゃんが言った瞬間、さっきとは違う…、
 痛みじゃない何かが、胸の奥から湧き上がってくるのをカンジた…。
 マンションはペット禁止だし、猫なんか飼ってない。
 だけど、久保ちゃんはいつも俺を猫あつかいにしてて…、
 だから、いつもみたいに少しムカっとして…、
 それから…、なんかすごく胸が熱くて痛くなる。
 でも、それはさっきまでの重く苦しい痛みとは違ってた…。
 「俺は猫じゃねぇって…、いつも言ってんのに…」
 そう誰にも聞こえないように呟いて、人間じゃない右手を眺める。
 すると、ヤブ医者が久保ちゃんじゃなく、俺の方を見て微笑んだ。
 「貴方がそれを強く望むなら、強く願うなら…、きっと猫は帰ってきますよ」
 ちっとも予言になんかなってない、予言…。でも、それを聞いた久保ちゃんは飲みかけのお茶と、一言だけポツリと言葉を残して東湖畔を出て行った。

 「もしホントにそうなら…、何があってもどこにいても絶対に帰ってくるだろうね…」

 もしも強く望むなら、強く願うなら…、帰ってくる。
 もしも強く…、誰よりも強く望むなら願うなら今からでも遅くない…。
 右手は相変わらず、時々痛んだりもするけど、まだ動くし…、
 まだ動かせるから、掴みたい放したくないモノに向かって伸ばすコトができるから…、
 そうするために…、俺は立ち上がって隠れていたカウンターから出た。
 「悪りぃ…っ、やっぱ用事があってバイトは…」
 「別に構いませんよ。貴方に頼みたかった本当のバイトは、この紙袋をお客様に渡してもらう事でしたから」
 「この紙袋って…」
 「久保田君に頼まれていた品です」
 「・・・・・中身は?」
 「ご自分で開けて見られたらどうですか?」
 ヤブ医者がそう言ったから、俺はガサガサと袋を開けてみる。
 すると、中にはいつも俺がしてる黒い皮手袋の新しいのが入っていた。
 「これって…、俺の手袋?」
 「そうです」
 「でも、俺は何も言ってないのになんで…」
 「この間の事件で色々と頑張ってくれたせいで手袋が痛んでるからって…、久保田君が頼んだんですよ。貴方の指は普通よりも長いですから、手袋も特注品なんです」
 手袋はいつもはめてるから、あまり気にしたことがない。
 でも、俺が気づかないコトに久保ちゃんが気づいてくれてて…、
 今、俺の手の中には新しい手袋がある…。
 だから俺は失くしかけてたモノを取り戻すために…、それをはめて走り出した。

 「アリガトな…、鵠さん…っ」

 俺が珍しくまともに名前を呼ぶと、ヤブ医者はちょっとだけ驚いたようなカオをして、
 それから、今度は二人で来るようにって言ってうれしそうに笑った。
 その声を聞きながら東湖畔を出ると、俺は久保ちゃんを追いかける。
 小降りになった雨の中を…、新しい手袋をはめて…。
 すると、何もカンジまないはずの右手が温かい気がした…。
 「久保ちゃん…っ!!」
 右手にぬくもりをカンジながら呼んで、立ち止まって振り返った久保ちゃんの前に俺も立ち止まる。すると、久保ちゃんはじっと俺の方を見つめてから、俺よりも高い位置にある頭を下にさげた…。

 「お願いします…、帰って来てください…」

 お願いんなんてされなくても、帰る気だった…。
 帰りたかった…、俺らのウチに…。
 だから、右手を伸ばしてコートを掴むと下げた頭を上げさせて…、
 それから、久保ちゃんの肩に額を軽く押し付けると、あの日はしなかったコトを…、
 あの…、初雪の降った日にはしなかったコトをした。

 「そんなの言われなくても…、帰るに決まってんだろ…。俺のウチはあそこにしか、久保ちゃんのいるトコにしかねぇんだから…」

 そう言って久保ちゃんの背中に右手と、そして左手を回して抱きしめる。
 そして、少しだけ右手が痛んだような気がしたけど、うつむかずに空を見上げた。
 手袋は新しくなっても、その中の右手は相変わらず人間じゃない手で治る見込みなんてない。それに痛みも前よりも少しずつ長く…、ひどくなってきてる気がする…。
 けど、久保ちゃんと二人でいられるなら、こんな風に一緒にいられるなら…、
 右手の痛みにうずくまって、来ないかもしれない明日を思ってうつむくよりも前を向いて歩いていたかった…。

 「今度、手ぇ放したら、手錠で繋いでやるかんな」
 「それはこっちのセリフ」

 そう言って同時に笑うと抱きしめる代わりに、こっそりコートのポケットの中で手を繋いで俺らのウチに向かって歩き出す。そして、いつものように夕食は何にするかとか、昨日のテレビはどうだったとかそんな話をし始めた…。
 やっと取り戻した日々を…、ポケットの中で握りしめて…、

 来ないかもしれない明日じゃなく…、明日に続く今を歩きながら…。




 やっと完結なのです(/□≦、)vvvv
 ううう、完結する事が出来て良かったですっvv
 最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございますvv(涙)
 心からとてもとても感謝ですっっ。・゜゜・(≧д≦)・゜゜・。
 
 
                  
                 中 編へ          戻  る