1・きっかけ |
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97年春、就職が決まって、地元である新潟県に戻ってきたのであった。
大学時代、どっぷりとはまってしまった演劇。勉強もそっちのけでやってしまった結果、5年半も大学に居座ってしまったのであった。そう簡単に普通の人に戻れるわけもない。仕事に追われながら、「芝居したい〜」と、苦悶の毎日であった。
そこに、実家のある長岡市で、演劇のワークショップなるものを開催していることを知った。一般市民向けの講座のようである。と、いうことは、アマチュア劇団に入らなくても、仕事しながら演劇をやれるかも。こりゃいいや。
というわけで、97年度の募集はすでに終わっていたので、帰省がてら、ワークショップの様子を見学することにしたわけである。
見学料500円を支払い、会場であるリリックホール第一スタジオに入る。他に見学者も数名。スタジオのなかには、20名ほどがジャージ姿でワークショップの始まるのを待っていた。高校生から30代、いろいろな年代の人がいる。なにより、ここ長岡に演劇やりたい人がこんなにいるのかと感動。
講師である安田氏が、「ワークショップは見ているだけじゃわからないから、一緒にやってみませんか」と見学者に声をかけてくれた。これはありがたい!なにより体を動かしたかったので、もう速攻参加。せっかくおしゃれしてきたのに、台無しで。靴もおしゃれ靴だから、一人ではだし。
始まってみると、まず発声練習などして、それから安田氏が「海のなかにいるというイメージで歩いて下さい。」なんじゃそりゃ。とにかくやろう。
ゆるやかな、心地よい音楽が流れてきた。参加者は大きなスタジオのなかで円を描くように並んだ。
「海には、波があるでしょう。どのくらいの波?歩くと、どうなる?」「波の音が聞こえてこないか?」「日差しはどちらから差している?」「イメージしてみて下さい」
などと、安田氏が語りかけるなか、歩き始める。そうか、海のなかを歩くって、いろいろあるんだ。例えば、砂を踏む感覚。波に身体を押されながら逆らって歩く感じ。だんだんと深みへと進んでゆくと、首を上へ向けなければならないだろうか。
できるだけのことは表現しようと思ったけど、もちろんうまくはいかなかった。こんなことは大学時代の演劇サークルではやったことがなかった。すべて台本から始まって、せりふを覚え、役になろうとするところから始めていたから。
へええ…。一種、不思議な感覚。
その後、参加者に課題として出されていた「ものまね」の発表を見る。これは、自分の身近な人を真似て下さい、というもので、自分の家族、同僚、友達、その他いろいろな人を銘々演じた。イッセー尾形のようなものか、と思ったけど、自分がやることを考えると、うへええ、大変だ、という印象。身近な人を観察して、自分でどう真似るか=簡単な脚本を作り、練習するってことでしょ?自分で最初から考えるって、けっこう高度じゃない?
これを見た時点で、決意は固まった。「来年、絶対参加するぞ!」「いままで経験のないおしばいが体験できそうだ。」
てなわけで、参加することにしたのである。