勇者妻38

『諦めの悪い女は嫌い?』
 昨晩ヒイロに聞いたこと。その問いに彼はこう答えた。
『……よくわからない。諦めが悪いのが好きとか、嫌いとか考えたことなかったから。
 でも、ユリアは好きだよ。だから、ユリアが諦めが悪くてもよくてもユリアのことは好きだと思う』
 ヒイロの答えは嬉しかった。
 でも私を悩ませた。ヒイロは私が好きだという。そもそもヒイロが好きな私って何なのだろう?
 多分考えたって答えはでない。ヒイロだって『わけがわらない』って言ったじゃないか。
 だから私は自分の道を見つけようと思った。私自身の力で。だから昨晩はあえてヒイロから離れたんだから。
 ……本当はずっとそばにいたかったけど、多分一人で決めるべきことだから。

 ふと時計を見ると随分早い時間だということがわかる。
 丁度いい。
 さすがにヒイロもまだ眠ってることだろう。

『これからどうするか。どうしたいか』

 再びベットに横になり、もう一度自分に問いかける。
 漠然となら答えられる。

『夢を追う』

 私はそうする。これは今までと変わらない。ただ追う夢が違うだけ。『勇者の妻』ではないことだけはわかる。『夢の原点』は見つめ直すことができたのに……なぜわからないんだろう?
 それにしても……『夢を追う』だとか……『熱い想い』だとか……青臭いことこのうえない。
 私は冷静に考えてしまうと恥ずかしいようなものを必死で追っていた。そしてこれからも追おうとしている。
『子供じゃないんだから』
『夢なんて追う歳でもないでしょう?』
 私が旅に出る前に、母親に投げつけられた言葉。私はそんな言葉に反発するように家を出ていった。
 ものすごく……悔しかった。
 悔しかったのは、夢の原点が母親の言葉だったからだろう。……母親にさえ私の夢は否定されているのだ。そんなものに本当に価値があるんだろうか?
 ベイトと戦ったとき、私は思った。夢を追うことはものすごく自分勝手でわがままなことなんだと。それはきっと間違っていないだろう。だから大人はそれをやめるのだ。いや、自分勝手でわがままなんてのは子供なんだろう。
 私は……まだ子供なのかもしれない。
 たかだか20年しか生きていないが、それでも色んなことがあった。でも……全然成長していないのかもしれない。人は夢をなんて追っていてはダメなのかもしれない。
 じゃあヒイロも?
 ヒイロも夢を追っている。ヒイロも自分勝手でわがままで子供で成長していなくて……。
 そんなことはないじゃない。少なくても私はヒイロをそんな風に思わない。だって私はヒイロが好きなんだから。

『僕はユリアが好きだよ』

 確かな言葉。信じられる言葉。
 ……ヒイロが好きな私。だったら……私も信じよう。私が好きなヒイロが好きになってくれる女なんだ。ヒイロが好きになるような女は、今まで私が考えてきたような女じゃない。
 私は……自分が嫌いだったんだ。
 自分に自信が無かったんだ。
 だから自分の気持ちに素直になれなかったんだ。
 もっと……もっと素直に生きてみよう。もっと……もっと自分に自信を持ってみよう。ヒイロが好きになった自分をもっと好きになってみよう。

 道が見えた。真っ直ぐな道。

 この道を歩こう。今までは怖くて歩けなかった、素直に自分の気持ちに従うという道を。
 この道は確実に私の夢に続いている。
 そう思えるから。
 やっぱりひどく自分勝手でわがままな道に見えるけど……きっと大丈夫。自分が間違っていなければいいんだ。
 それに間違っていれば、ズケズケと素直に文句を言ってくれるパートナーがいる。
「おっしゃ!」
 道は決まった。こうなったらこんなところでグズグズしていられないのが私の性分。
 ガバッとベットから飛び起きる。
 よしっ! 夢を追う旅を再開しよう。
 もう一度自分の顔を鏡で見ようかと思ったが、あえてその必要はないと思いやめた。
 見なくてもわかる。
 多分今の私は最高の顔をしているはずだ。


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