勇者妻19

 気がつくと朝になっていた。
 泣き疲れていつの間にか眠ってしまったのかも知れない。でもちゃんとベッドで眠っている。きっとヒイロが寝かせてくれたんだろう……。
 ……まるで赤ん坊だ。
 目が痛かった。きっと赤く腫れ上がってしまっている。
 やだな。こんな顔ヒイロに見られたくない。
「おはようユリア」
 柔らかく優しい声だったが、心臓が飛び出るかと思った。
「ヒ、ヒイロ!? な、何で?」
「昨日言ったよね。ずっと側にいるって……」
「ずっと側にいるって言ったって……」
 ヒイロはベッドのそばのイスに座っていた。
「まさか一晩中……」
「まぁね」
 その笑顔には明らかに疲労の色が見えていた。
「もしかして眠ってないの?」
「うん……。ちょっと心配で……」
 一晩中私を見守っていたのだろうか?
「ユリアがいつ泣き出すかわからないし……」
 …………………………。
 負けたと思った。
 もうこの気持ちはどうしようもないと思った。
 私は……ヒイロが好きだ。
「ユリア……?」
 心配そうに私の顔をのぞき込むヒイロ。
「大丈夫」
 私は笑顔で答えた。
 そう、もう大丈夫。
「良かった」
 ヒイロも笑顔で言った。
 楽になるなんてすっごい簡単なことなんだ。自分の気持ちに素直になるだけで、こんなにも気持ちが軽くなるんだ。
 私はヒイロが好きだ。
 この気持ちに素直になろう。抑え込んでいた素直さを解放してあげよう。
「……そうだ! ねぇ! 今日はお休みにしましょう? デモンズには行かないの!」
「へ?」
 折角素直になれたんだ。今日だけは思い切り楽しもう。心の骨休めをしよう。
「いきなりどうして?」
「デェト♪」
 ヒイロが戸惑いを露わにしながら聞いた問いに、私ははっきりと答えた。
「うん。いいね。ソレ。うんうん」
 最初は意味が通じなかったかのか、クエッションマークを浮かべていたが、やがてパッと明るい笑顔になり、ヒイロは本当に嬉しそうに何度もうんうんと頷いてくれた。何だかそれだけでもう幸せになれた気がする。
 今まで抑え込んでいた好きという気持ちを今日は解放してあげよう。恋をするまいと戒めの縄で縛り付けていた女心に安らぎを与えてあげよう。

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