勇者妻12

 私たち一行は、無事転送陣に辿り着き、セコンの街に転送してきた。ヒイロは女に興味が無いのだろうか?
 私のいじらしさ(演技)も、クリスの色気も通用していないようだ。どんな攻撃(?)にもまったくマイペースで返す。しかも毒舌ときたもんだ。正直疲れた。
 あの後戦闘も5回ほどあったしね。ま、例のごとく楽勝だったけど。
 それにしてもクリスの実力はお粗末だ。魔力は低くないのだが、いかんせん魔法に頼りすぎている。私にもそのきらいはあるのだが、クリスほどひどくはない。一応短剣も一端に使いこなせるしね。
「さて、これからどうしようか?」
 セコンの街道を意味もなくブラブラと歩いているのにしびれをきらしたのか、ヒイロが訊いてくる。私に意見を求めるあたりは、クリスよりも私の方になついていると考えられるだろう。
「とりあえず、一息つけない?そろそろ夕食の時間だし」
 私が答える前にクリスが言う。余計なことを考えていたから出遅れてしまった。
「それがいいですね。何を食べますか? お昼食べ損ねたステーキなんてどうでしょう?」
 まだ引っ張るかコイツは。
「あはは、お肉はやめて魚にしない?」
 クリスも苦笑混じりに言っている。私は別にステーキでもいいのだが、言うのはやめておこう。
 ヒロインが肉食いてぇ発言はまずい。
「賛成。そういえばここの街って美味しいシーフードスパゲッティを食べさせる店があるみたいよ」
 実は転送陣の契約のために来たときからちょっと気になっていた店があったのだ。
「スパゲッティか……」
 ヒイロはあまり乗り気ではないようだが……。
「もしかしてスパゲッティ嫌い?」
 クリスがヒイロの顔を覗き込むようにして訊く。
 ……いちいち体を近づけるな。ヒイロは相変わらず無反応だけど。
「いや、食べたことが無いんですよ」
 ……そういえば田舎者だったわね。
「じゃ、食べてみましょうよ。美味しいのよ」
 クリスに対抗というわけではないが、ヒイロの前に回り込んで言ってみる。
「そうだね。騙されたと思って食べてみるよ」
 普通騙されたと思ってと使うのは……。いや、敢えて突っ込むまい。
「じゃ、決まりね。ここからそんなに離れてないから五分くらいで着くわよ」
 ……さて、戦場はスパゲッティ屋に決まったようね。
 なんで戦場になるのかって? クリスとは転送陣まで送るという公約をして一緒にいたのだ。つまり、もう公約は切れている。しかしクリスがこのままズルズルついてこようとしているのは明確だ。何としても切り離す!
 おそらく夕食時の会話で、クリスを連れていくか否かが決まるはずだ。うまく切り離す方向にもっていかなければ……。
 私は拳にグッと力を込めて戦場へ向かった。

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