勇者妻11

 結構悪くなかったわね。いい匂いはいい匂いだったし。ステーキをオカズにおにぎりを食べたような気分に……なるはずがない。
 ……コイツと旅をするの、ちょっと考え直そうかしらね。
「本当、強いよねヒイロって」
 丁度、ヒイロも新しいパートナーに巡り会えたみたいだし……。
「そうですか?」
 寄り添っちゃってまぁ……。節操のないこと。ホホホホ……。
 ちなみに私は寄り添うように歩く二人から、一歩下がった所で静観していた。
「そうよ、あの剣さばきなんて、ちょっと見惚れちゃう」
 あーあー、ほめ殺しだよ。ヤダヤダ。もうちょっと奥ゆかしさを持たなきゃダメですぜお姉さん?
「見惚れる暇があるなら、ユリアみたいにもうちょっと援護してほしいですね」
 相変わらず笑顔の毒舌だぁ! さぁ、どう出るクリス!
「ゴメンね。私ユリアみたいに強くないし……。一人じゃ何もできないから」
 おぉ! 自分を蔑んで同情を誘うとは、なかなか狡っ辛い手を使うじゃないのぉ。
 あ、もしかして狡っ辛いって死語?
「そんなことはないと思いますよ」
 さすがのヒイロもこの手には引っかかるのか。何だかんだ言ったって優しい男の子だもんなぁ。
 うむうむ。勉強になるぞ。
「本当にそうかのなぁ?」
「うーん、僕にはわかりませんけどねぇ」
 ははは、あまり効果がないみたいだ。
 ま、そんな簡単に引っかかってもらっては困る。こいつは私の攻撃も軽くかわしてきたんだから。
 ちなみに私は本当にヒイロを見限っている訳ではない。やっぱりヒイロの才能は非凡としか言いようがなく、逃すのは惜しい。
 その割りには何もしてないように見えるが、今、私は拗ねているのだ。つまり、『何よデレデレしちゃって! もう……ヒイロなんて知らない!』というヤツだ。
 ……本当にそうは言わないが、嫉妬しているというのを表面に出している。ヒイロが表情の変化に鋭いというのを逆利用して、仏頂面をしてみせているのだ。
 嫉妬、それは歪んだ好意。クリスのようなあからさまな好意よりも、こういういじらしい好意の見せ方が方がヒイロには効果的のような気がするからね。
「どうしたのユリア? さっきから変な顔をしてるけど」
 へ、変な顔とは失礼な。
 ……変な顔しているのかしら。鏡がないからわからないけど。
「別にぃ……。何でもないわよ」
 明らかに機嫌が悪い声色で答える。プイッとそっぽを向こうとも思ったがやっぱりそこまではできない。
「ならいいけど」
 おいおい、もうちょっと構えよ。うーむ、もっとあからさまにいかないと効果は無いか?
「随分仲がいいのね。」
 ポツリともらすように私は言う。聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声で言うのがポイントだ。
「え? 何か言った?」
 もちろん聞こえなければ意味はないのだが。
「別に、何も言ってない!」
 今度は語気を荒くして言ってみる。明らかに機嫌が悪いというのが分かってもらえるだろう。
「ユリア、そんな言い方はないんじゃない? ヒイロは心配しているのよ」
 クリスが会話に入ってくる。
 ……ふふ、ヒイロはともかくクリスは台本通りの働きをしてくれるようだ。
「ああ、そうですね。ごめんなさい!」
 クリスには敵意むき出しでなければいけない。
「あー、もしかしてヒイロが構ってくれないから焼き餅焼いてのかしら?」
 よしかかったぁ!
 これでヒイロに、私がいじらしい気持ちを抱いていることが伝わったはずだ。
 ふふ、こう言うと思ったのよね。年上はどうしてもお姉さん風を吹かせちゃうから、思わず年下をからかっちゃうのよ。
 ホホホ。私の策略とも知らずに。
「え? そうなの?」
 よし、ヒイロが興味を示した。だが、ここで焦ってはいけない。
「そ、そんなことないわよ! ヒイロのことなんて何とも思ってないし」
 ここでは突っ張った態度を続けるのが吉だろう。いじらしさ倍増。
「そうなんだ」
 そうじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!
 そんなわけで、私のいじらしさ大爆発作戦(今命名した)も、あえなく撃沈した。


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